国立演芸場の5月特別企画公演「立川流落語会」の2日目を聴く。
ただし国立演芸場は国立劇場本館とともに建て替え中(といってもまだ工事のメドすら立ってない)のため会場をあちこち転々としていて、今回はJR渋谷駅近くの渋谷区文化総合センター大和田6階伝承ホール。
立川流門下の落語家が次々あらわれ、大いに笑い、人情噺にしんみりして、楽しい土曜日の午後となった。
演目は次の通り。
開演前の前座の談声「真田小僧」
がじら「ぞろぞろ」
談吉「小さな幸せ」(新作落語)
志のぽん「紙入れ」
志ゑん「転失気」
談笑「答弁学級」(新作)
談四楼「人情八百屋」
(仲入り)
志の春「絶校長」(新作)
志遊「四人癖」
生志「千早振る」
まんじゅう大帝国 漫才
立川流は落語協会から飛び出した立川談志が創設した落語家のグループ。
家元の談志亡きあとも活動を続けていて、ずっと任意団体だったが、昨年、一般社団法人となった。代表は志の輔、副代表に談春、志らく。
落語協会を飛び出た経緯から立川流の落語家は浅草演芸ホール、鈴本演芸場などの東京の定席寄席だけでなく、国立演芸場の定席にも出演できない。
このため、落語家たちに出演機会を与えようと2008年から国立演芸場の特別企画公演として毎年5月に2~3日連続して開催されているのが寄席形式の「立川流落語会」
以前は談志の直弟子が出演していたが、今は孫弟子も高座に上がるようになっていて、すそ野が広がっているようだ。
聴いていて一風変わったしゃべりの雰囲気を感じたのが新作落語をやった談吉だ。
談志の最後の弟子だそうで、2011年6月、二つ目に昇進するも半年足らずのちに師匠・談志が死去。その後、左談次の預かり弟子になり、その左談次も亡くなると談修門下となり、ようやく今年1月、師匠の談修より真打昇進の内定を受ける。談志に入門した直弟子としては最後の真打昇進者となるのだそうだ。
談志の総領弟子の土橋亭里う馬に次ぐ古株談四楼。
「人情八百屋」は師匠・談志が浪曲の演目を落語に仕立て直したもの。
まくらでの談四楼の話によると、談志は浪曲師の春日清鶴(1894-1970年)の大ファンだったらしく、木馬館に足繁く通っては清鶴の浪曲を聴いていて、ぜひとも落語でやりたいと高座にかけることにしたのだとか。
談志を偲んで、師匠から教わったこの噺を披露してくれたが、「唐茄子屋政談」に極似しているものの、また違った味わいがある心温まる噺だった。
舞台は江戸の下町。長屋住まいの八百屋で「棒手振り(ぼてふり)」商いの平助がナスを売って歩いていると、ある家のおかみさんが「半分だけください」というので半分の値段でナスを売る。おかみさんから、亭主の長患いで子どもに満足に食べさせていない事情を聞いた平助は、自分の弁当を子どもにやり、持っていた銭三百文を置いて帰ってく。
数日後、三百文じゃ少ないと女房にいわれた平助が再び訪ねると、家は貸家になり、その家の亭主もおかみさんも亡くなったという。子どもは同じ長屋に住む火消しの鉄五郎という男が引き取ったと聞き、訪ねていく。
鉄五郎の話では、平助が銭を置いて帰った日、親子が喜んでいたところに、因業家主がやってきて金をむしり取るようにして持っいったという。それを苦にして亭主は舌を噛み切り、妻は首をくくってともに死んでしまった。
怒った長屋の者たちは家主の家に押しかけて家の中をめちゃくちゃにした。役人が来て事を収めたが、悪いのは家主との裁定。2人の子どもは鉄五郎が引き取ることになったが、平助を気に入った鉄五郎は、平助と兄弟分の契りを交わし、子どもは2人で育てようと申し出る。平助夫婦には子どもがなかったので、「どうせなら2人とも引き取ってうちで面倒を見ましょう。だがその前に、子どもたちのしつけだけは鉄五郎さん、あなたがやってくれませんか?」と頼むと、火消しが仕事の鉄五郎、首をふって、
「しつけ(火付け)はできねぇよ」
「し」と「ひ」の区別がつかない江戸っ子らしいオチ。
談志によると、この噺は春日清鶴の「頭(かしら)と八百屋」という浪曲からとったということだったが、その浪曲も元は「大岡政談・鰯屋騒動」という講談の発端部分からとったものというから同じく講談からとった落語の「唐茄子屋政談」と同じ。
なぜ同じく落語に「唐茄子屋政談」があるのに、談志はあらたに浪曲からとった原典は同じ物語を「人情八百屋」という落語にしたかというと、「唐茄子屋政談」より春日清鶴が語る浪曲のほうが優れていると感じたからなのだろう。
大トリは志の輔。やはり江戸っ子のやせ我慢というか意地の張り合いと大岡裁きを描いた「三方一両損」を時間を延長してたっぷり聴かせてくれた。
当日は一番前の席のちょうど中央。比較的小さな会場なので志の輔と目の高さも同じぐらいで、2人っきりで相対している感じの何とも贅沢な時間。
そにれにしても落語はやっぱりビアガーデンのビールと同じ。
ナマがいちばん。