善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「落葉」「アンビュランス」

アメリカ・カリフォルニアの赤ワイン「ダイヤモンド・コレクション・ピノ・ノワール(DIAMOND COLLECTION PINOT NOIR)2022」

(写真はこのあとパエリア)

映画監督のフランシス・フォード・コッポラ氏が立ち上げたワイナリーが送り出すカリフォルニアの赤ワイン。

アメリカのワイン生産量の90%を占めるのがカリフォルニア州で、モントレーピノ・ノワールを中心に、グルナッシュ、グラシアーノをブレンド

海の近くの冷涼な地が生む凝縮感と豊かな風味。

 

ワインの友で観たのは、民放のCSで放送していたジョージア(当時はソ連)映画「落葉」。

1966年のモノクロ作品。

原題「GIORGOBISTVE」

監督・脚本オタール・イオセリアーニ、出演ラマーズ・ギオルゴビアーニ、マリナ・カルツィワーゼ、ゲオルギー・ハラバーゼほか。

かつてグルジアと呼ばれた旧ソ連ジョージア出身の監督オタール・イオセリアーニが手がけた長編第1作。ジョージアの伝統産業であるワインづくりを題材に、良質なワインの生産をめぐって工場側と対立する醸造技師の奮闘を描く。

 

ワイン工場の若い技術者ニコ(ラマーズ・ギオルゴビアーニ)はまじめな人柄で工場の人々の信頼を得ていた。彼は研究室に勤める美しい娘マリナ(マリナ・カルツィワーゼ)に惹かれるようになるが、彼女のまわりには幾人もの男性がつきまとっていた。それでもニコは、彼女の方も誠実なニコに気があることを感じ取るのだった。

一方、工場ではやっかいな問題が起きていた。ワインの質の向上よりも生産量をあげようと計っている工場側は、まだ酸味の残るワインをびん詰めにして出そうとしていた。労働者たちはこの工場側の方針に異議をとなえ、ニコは率先して立ち上がり、ついに行動に出る。何と、出荷前のワインの樽にゼラチンを入れて固めてしまい、びん詰めにできないようにしてしまったのだ・・・。

 

映画の冒頭、というより前半部分のかなりの時間、ジョージアの昔ながらの農村でのワインづくりの様子がドキュメンタリータッチで描かれ、農村の風景からワイン工場へと自然と物語の世界に入っていく。今まで見たこともない映画づくりの妙。監督のオタール・イオセリアーニはただ者ではないな、と思った。

冒頭のワインづくりの様子を見て、9年前の夏にジョージアを旅行したときのことを思い出した。

ジョージアは世界最古のワイン産地として知られている。日本がまだ縄文時代だった紀元前6000年ごろにはすでにワインがつくられていて、実に8000年以上の歴史を有しているのだとか。

ワイン発祥の国らしく全国のいたるところでブドウが栽培されていて、ワイン生産で有名なカヘチ地方を訪れたら、どの家にもブドウの木が繁っていた。

映画の中で、正義漢に燃える若いワイン技術者のニコが、不良品のワインを飲んで「こんなのはサペラヴィじゃない」と吐き捨てるようにいうシーンがあったが、サペラヴィはジョージア南西部を原産とするジョージア自慢の赤ワイン品種のことだ。

このワインは色が濃く、タンニン分の強い、少しスパイシーな味わいになるのが一般的で、ジョージアで飲んだがおいしいワインだった。

 

映画の冒頭部では、ジョージアでの伝統的なワインのつくり方「クヴェヴリ」も画面に登場していた。

クヴェヴリとは大型の素焼きの壺のことで、この中でワインを発酵させる。

映像では職人が壺の中で何かをしきりに塗っていたが、あれは実は蜜蝋だ。蜜蝋とはミツバチが体内から分泌するワックス成分のこと。その蜜蝋を壺の内側に塗ってコーティングし、壺は地中に埋められる。手編みの籠いっぱいに収穫し運ばれたブドウは、足で踏まれてジュースとなり、クヴェヴリの中に投入されて発酵・熟成されてワインとなる。

ミツバチは蜜蝋で自分たちの巣をつくるが、蜜蝋には防腐作用があるし、水漏れを防ぐ働きもある。ひょっとして味にも関係しているかもしれない。

そういえば、ヨーロッパの国の多くは蜜蝋を食用に用いている。チーズの保存に蜜蝋を使っているし、ギリシアやトルコには蜜蝋でコーティングしたカラスミがあり、フランスには「カヌレ」という蜜蝋入りのお菓子がある。ジョージアではワインというわけなのだろう。

 

本作を観て、監督のオタール・イオセリアーニはただ者ではない、と思ったのは、こうした冒頭部分の農村でのワインづくりの映像は、ただ昔を懐かしんでいるのではなく、物語の重要な伏線になっているのだ。

工場側はノルマ達成を優先させて、品質の劣った製品を出荷させようとするが、遥か昔から今日まで、脈々と受け継がれるワインづくりの歴史があるからこそ、良質なワインをつくるのはワイン工場の使命のはずだと譲らないのが若き醸造家のニコ。「こんなのはサペラヴィじゃない」といい放つのだ。

原題の「GIORGOBISTVE」は「聖ゲオルギオスの月」の意味で11月の古称という。ワインの新酒ができるころでもある。

聖ゲオルギオスというとドラゴン退治の伝説で有名なキリスト教の聖人の一人だが、ジョージア守護聖人が聖ゲオルギオス。毎年11月23日はジョージアでは聖ゲオルギオスの日というので祝日になっていて、人々は伝統料理を食べ、ワインで乾杯する。

そもそもジョージアキリスト教を国教と定めた国であり、ジョージアという国名(英語読みの表記)も聖ゲオルギオス(英名・聖ジョージ)に由来している。

ということは本作は、金儲けに走りノルマ優先の工場経営者をドラゴンに見立てて、伝統文化であるジョージアのワインづくりを守ろうとするニコ=聖ゲオルギオスによるドラゴン退治の物語といえるかもしれない。

 

オタール・イオセリアーニ監督は1966年の「落葉」で長編デビューして以来、ジョージアの伝統や人々の生活を主題にした映画を撮っていたが、旧ソ連時代の厳しい検閲など当局の取り締まりを受け、拠点をパリに移して活動。2023年12月に89歳で没。

本作はジョージアでは当局より公開禁止処分を受けたが、製作から2年後の1968年カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞。

 

ついでにその前に観た映画。

民放のCSで放送していたアメリカ映画「アンビュランス」。

2022年の作品。

原題「AMBULANCE」

監督マイケル・ベイ、出演ジェイク・ギレンホール、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、エイザ・ゴンザレスほか。

銀行強盗を働いた男2人が瀕死の警官を乗せた救急車で逃走劇を繰り広げるノンストップアクション。

 

裏社会に生きる白人のダニー(ジェイク・ギレンホール)とアフガニスタンからの帰還兵で元海兵隊員の黒人のウィル(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)は義兄弟で結ばれた仲。一方、救急救命士のキャス(エイザ・ゴンザレス)は、医大に通っていたがドラッグに溺れて医師の道を断念した過去がある。

ウィルは、出産直後の妻が病に侵され、その治療には莫大な費用がかかるが保険は下りず、ダニーに助けを求めると、彼から持ちかけられたのは3200万円ドル(約36億円)もの大金を強奪する銀行強盗だった。計画通りならば、誰も傷つけることなく大金だけを手にするはずだったが、狂いが生じて2人は警察に追われる事態になる。

やむなく逃走用に救急車をハイジャックした2人だったが、その救急車にはウィルに撃たれて瀕死となった警官と、救命士のキャムが乗り合わせていた。

2人を乗せたまま、ダニーとウィルはロサンゼルス中を猛スピードで爆走するが・・・。

 

デンマーク映画「25ミニッツ」(2005年)のリメイク作。監督は「トランスフォーマー」シリーズのマイケル・ベイだけに全編アクションの連続。

中でも度肝をぬかれたのは、時速100キロで爆走する救急車の中で、医師をめざした過去がある救急救命士キャムが、アフガニスタンでの救命の経験があるウィルを助手に、出血がとまらず危篤となった警官の体内から弾丸を取り出す緊急手術をするところ。彼女のかつての恋人の外科医に携帯でライブ映像を送ってアドバイスを受けながら、患部にメスを入れての開腹手術を行うが、その緊迫感がすごい。破裂した臓器の出血をとめるために挟む器具がなく、慌ててキャムの髪の毛を挟んでいたクリップで挟むが、「消毒しなくていいのか!」と思わず叫んでしまった。

とてもあり得ない展開なんだが、映画だから許されるのかも。