善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード」「炎」

イタリア・トスカーナの赤ワイン「アルパ・シラー(ARPA SYRAH)2020」

メインの料理はハンバーグ。

イタリアを代表するファッションブランド「サルヴァトーレ フェラガモ」ファミリーが、トスカーナに所有する高級リゾート地イル・ボッロでつくる赤ワイン。

同地は、キャンティ・クラシコ地区近くにある中世の佇まいを残す村として知られているという。

飲みやすくて、力強い味わいのシラー100%。

 

ワインの友で観たのは、民放のCSで放送していたアメリカ映画「ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード」。

2021年の作品。

監督パトリック・ヒューズ、出演ライアン・レイノルズサミュエル・L・ジャクソンサルマ・ハエックアントニオ・バンデラスモーガン・フリーマンほか。

ひょんなことから殺し屋を護衛する羽目になったボディガードの奮闘を描いた2017年の映画「ヒットマンズ・ボディガード」の続編というが、前作を見てなくても楽しめるB級アクションコメディ。

 

凄腕のボディガード、マイケル(ライアン・レイノルズ)は、警護対象者を殺害されたトラウマで神経症に陥り、ライセンスをはく奪されていた。カウンセラーから休暇を勧められ、イタリアのカプリ島でノンビリしていると、宿敵であり前作からの因縁のある殺し屋ダリウス(サミュエル・L・ジャクソン)がマフィアに捕まったというので、突然あらわれた妻で詐欺師のソニア(サルマ・ハエック)から救出を求められる。

クレージーな彼女に振り回されながらも救出に成功。ところが、殺したマフィアの中にインターポールへの情報提供者も混じっていたことで、かわりに捜査に協力するハメになる。最先鋭装置を使ってEUへのサイバーテロを企てるギリシャの大富豪アリストテレスアントニオ・バンデラス)の陰謀を阻止することになったマイケルとソニアとダリウスだったが・・・。

 

ばかばかしい話のオンパレードなんだが、不思議なもので、お決まりのパターンのB級アクション映画と割り切って観ていると、なかなかおもしろい。

出演はライアン・レイノルズサミュエル・L・ジャクソンモーガン・フリーマンなどいずれもA級の俳優。それなのにあえてB級に徹すると、映画の新しい楽しみが浮かび上がってくる。

 

ついでにその前に観た映画。

民放のCSで放送していたインド映画「炎」。

1975年の作品。

原題「SHOLAY」

監督ラメーシュ・シッピー、出演ダルメーンドル、サンジーウ・クマール、アミターブ・バッチャンほか。

インドで最も大衆に愛されたインド映画の金字塔的作品であり、その影響は映画にとどまらず現代アートなどにも及んだという伝説の映画。

インターミッションを挟んでの上映時間204分。50年近く前の映画なのでちょっと牧歌的なところもあるものの、恋にアクションに歌に踊りに、笑いあり涙ありの作品だった。

 

主人公はケチな泥棒コンビのヴィール(ダルメーンドル)とジャイ(アミターブ・バッチャン)。2人はかつて、勇敢な警部タークル・バルデーウ・シン(サンジーウ・クマール)とともに列車を襲った盗賊と戦い、負傷した警部を病院に運んだことがあった。

2人はその後も悪事を続け、刑務所から出所したところをタークルから呼び出される。タクールは今は警官を辞めて村長になっていて、村を襲う盗賊の撃退と、頭目であるガッバル・シン(アムジャド・カーン)の生け捕を依頼する。

こうして村にやってきた2人だが、おしゃべりな馬車の御者娘バサンティ(ヘーマー・マーリニー)と知り合い、また、タークルの家には息子の未亡人ラーダー(ジャヤー・バードゥリー)いて、やがて彼女らと2人の男との恋へと発展していく。

2人は、穀物を奪おうと襲ってきた盗賊の手下たちを撃退。怒ったガッバル・シンは大規模な襲撃を仕掛けるが・・・。

 

馬に乗った男たちが荒れ地を疾走し、馬上での銃撃戦、流れる音楽がどこかマカロニウエスタンっぽい感じがして、いつも見るインド映画とは違うなと思ったら、ハリウッド映画の「荒野の7人」(1960年)から着想を得たボリウッド・ウエスタンで、これにインド人なら誰でも知っている叙事詩ラーマーヤナ」の物語を融合させてつくったのが本作という。

「荒野の7人」は黒澤明監督の「七人の侍」(1954年)のリメイクだから、日本の文化とインドの文化を融合させた作品ということもできる。

それがよく分かるのがホーリー祭のシーンだ。

村人たちは赤や黄、緑などの色のついた粉や水をかけ合い、全身カラフルな色に染まりながら大喜びで歌い踊る。そこへ盗賊団が押し寄せてきて大混乱となるのだが、もともとホーリー祭は春の訪れを祝い、五穀豊穣を願うインドの農民のお祭り。クリシュナ伝説などの各地の悪魔払いの伝説などが混ざって現在みられる形になったといわれている。

本作でホーリー祭での農民たちの歌と踊りは映画の途中に出てきたが、黒澤明監督の「七人の侍」では同じような農民たちの歌と踊りが映画の最後のシーンにあった。

襲ってきた盗賊たちを撃退して7人の侍のうち残ったのは2人だけ。村を去ろうとするとちょうど田植えの真っ最中で、青空のもと、農民たちは笛や太鼓の囃子に合わせて「田植え歌」を歌いながら苗を植えている。それを見ながら、7人の侍の大将格の志村喬はつぶやく。

「勝ったのはわれわれではない。農民たちだ」

この映画のタイトルは「七人の侍」だが、主人公は農民たちだった。

同じことを、インド映画「炎」のホーリー祭で農民たちが歌い踊るシーンを見ながら思ったのだった。

 

インド映画というと途中に挟まれる歌や踊りがつきもので、ちょっと官能的でスピード感あふれる踊りにいつも魅了されるが、話のスジとは関係なく、いきなり主人公たちが踊り出すものが多い。

しかし、本作は、話のスジに合わせて歌と踊りのシーンがあり、農民たちが豊作を願って底抜けに明るく「Holi Ke Din(ホーリーの日)」を歌い踊っていると、農民たちが丹精込めてつくった穀物を奪い取ろうと盗賊たちが襲ってくるのだった。

ちなみに、ホーリー祭の歌と踊りのとき鼓(つづみ)の音が響いていて、鼓の形も鳴り響く音も日本の能の謡いで用いられるものそっくりだったが、鼓はもともとインドで生まれ、それが中国経由で日本に伝来したものだそうだ。

 

次の歌と踊りは、盗賊団の首領をやっつけようと奇襲するときのシーン。

近くにジプシーの一団がやってきていて、盗賊たちのところでベリーダンスを踊るというので、油断したときをねらって盗賊どもを一網打尽にしようとする。

ここで流れる曲が「Mehbooba Mehbooba(愛される人よ)」。

ベリーダンスを踊るのは当時のインドにおけるダンスのトップスター、ヘレン。1950年代後半から70年代にかけて「魔性の女」と呼ばれてとても人気のあった人らしい。

曲はギリシャの歌手デミス・ルソスの「Say You Love Me」をアレンジしたもの。ルソスはエジプト生まれのギリシャ人で、ギリシャの民族衣装、ビブラートするハイ・トーン・ヴォイスといった異色の歌手として世界的人気を集めた。彼の曲をさらにインド風にアレンジしたものだろうが、ベリーダンスはもともと、ジプシー発祥の地といわれるインド北西部のラジャスタンに住む蛇遣い族のコミュニティで踊られるカルベリアダンス(ラジャスタニーダンス)がルーツとなっている。

 

歌と踊りで一気にクラインマックスに達するのが、村娘のバサンティによる「Haa Jab Tak Hai Jaan」のシーンで、曲名の意味は「命ある限り」。

主人公の1人ヴィールとバサンティは恋仲になるが、ヴィールは盗賊に捕らえられてしまう。盗賊の首領ガッバルは、ヴィールを助けようとするバサンティに「こいつの命を助けたかったら踊り続けろ。踊るのをやめたとき、こいつは死ぬ」といい渡す。

恋人の命を救うため、炎天下の砂漠で、バサンティは必死に踊り続ける。残忍なガッバルは、彼女が踊っている途中、部下に命じてわざと地面にガラスの瓶を投げつけさせる。粉々に割れたガラスの破片の上で、血を流しながらも踊り続けるバサンティ。

彼女の踊りは命をかけた踊りだったが、もともと踊りとは神への祈りから始まったものなのだろうから、非情なシーンではあるものの踊りの原点を見るような厳かさがあった。