善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

映画「グッバイ・サマー」と「ひげ剃りとカット25セント」

東京・銀座のエルメスビル10階にある小さな映画館(40席)「ル・ステュディオ」でフランス映画「グッバイ・サマー」を観る。

2015年の作品。

原題は「MICROBE ET GASOIL」

主人公2人につけられたあだ名をとって「ミクロとガソリン」という意味。

監督・脚本ミシェル・ゴンドリー、出演アンジュ・ダルジャン、テオフィル・バケほか。

 

14歳の少年2人が夏休みに旅をするロードムービー

中学生になっても女の子のような容姿で、クラスメイトからミクロ(チビ)と呼ばれて馬鹿にされる画家志望のダニエル。恋するローラにはまったく相手にされず、母親は過干渉で、兄貴は暴力的なパンク野郎。本当の自分を理解してくれる人はいないと悩む日々。

そんなある日、クラスに変わり者の転校生がやってきた。名前はテオ。目立ちたがり屋で、自分で改造した奇妙な自転車を乗り回し、骨董屋をやっている親の元、機械いじりが好きで体からガソリンの匂いを漂わせている。

周囲から浮いた存在のダニエルとテオは意気投合し、やがて親友同士になっていく。

学校や家族が2人を枠にはめてそこに押し込めようとしてくる中、そんな毎日から脱出するため、2人はある計画を思いつく。それは、スクラップを集めて4輪のタイヤをつけた“動く住宅”を作り、親にも内緒で夏休みに旅に出ることだった・・・。

 

ミシェル・ゴンドリー監督自身が「この映画は100%僕の思い出からできている。僕が体験したことを元に冒険したかったんだ」と語る自伝的青春映画。

ダニエル役のアンジュ・ダルジャン、テオ役のテオフィル・バケはいずれもオーディションで選ばれた新人という。

みんなと同じではいたくない。でもどうしたらいいかわからない。そんな思春期の悩みを抱える14歳。クラスメイトからは女の子のような外見をからかわれ、家にいても心配性の母とパンク野郎の兄のせいで落ち着かない。頭の中は性のことでいっぱいだけど、思いを寄せるクラスメイトのローラには、自分の気持ちも伝えられないほどのウブな性格。

見ていて日本の14歳とまるで変わらない感じがして、かつての自分自身の14歳のころを思い出し、クスクス笑ってしまった。

日本の14歳に見せたい映画だった。

 

ところで、映画の中で、「チャンチャカチャンの、チャンチャン」(あるいは「タッタラタンタン、タンタン」)という、よくコントのオチなんかに使われる2小節の短い旋律が流れてきて、アレレと思った。

あれはてっきり日本の専売特許かと思ったら、どうも万国共通みたい。

それで気になって調べてみたら、「ひげ剃りとカット25セント」(原題「Shave and a Haircut, Two Bits」と呼ばれる7音からなる旋律だそうで、アメリカで生まれたらしい。

「Two Bits」とはアメリカで25セント貨幣を指す昔の言葉で、7音の旋律に合わせて「Shave and a Haircut, Two Bits」と歌う。

リズムに言葉をつけたスラングというか、言葉遊びの一種だろうか。

そういえば子どものころ、アメリカからやってきた「オクラホマミキサー」というフォークダンスがはやっていたが、この旋律で終わっている。

起源は不明だが、最初に使われたのは1899年ともいわれているから、120年以上の歴史があることになる。

どちらかというと喜劇的な効果をねらって音楽の最後に用いられたり、ドアのノックの音としても使われたりしている。

それだけではない。この旋律は世界の各地でアレンジされて使われていて、ここではとても書けないような卑猥な内容に歌詞が変えられたりもしているようだ。

レナード・バーンスタイン作曲のブロードウェーミュージカル(その後映画にもなった)「ウエストサイド物語」の中の「Gee, Officer Krupke(クラプキ巡査どの)」の最後も、「ひげ剃りとカット25セント」の旋律で終わっていた。

大作曲家バーンスタインも、あの7音の魔力に抗(あらが)えなかったのだろうか。