善福寺公園めぐり

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老夫婦の愛の物語 アンデス、ふたりぼっち

新宿駅東口近くのK's cinemaで、30日封切ったばかりの南米ペルーの映画「アンデス、ふたりぼっち」を観る。

標高5000mのアンデスの山々。社会から隔絶された美しい大自然が広がる。しかし、そこに暮らす人々は過酷な日々をすごしている。

先住民族であるアイマラ族の老夫婦ウィルカ(ビセンテ・カタコラ)とパクシ(ローサ・ニーナ)は、都会に出た息子の帰りを待っている。毎日、帰る日を心待ちにしているが、だんだん絶望の思いを強くしている。

2人のほか、頼りになるのは番犬と、リャマというアルパカに似たラクダ科の動物、それに5頭のヒツジ。

寒い夜を温めてくれるポンチョを織り、癒しのためのコカの葉を噛み、日々の糧を母なる大地を意味する「パチャママ」に祈る。

2人の暮らしを支えているのは自然の恵みだ。

アンデスの山から湧き出る水、ヒツジの乳、火を灯す木々、畑で栽培するジャガイモ、藁葺き屋根が雨露をしのいでくれる。

唯一の“文明の利器”であるマッチがなくなり、それがないと火を起こすのが大変というので、パクシは夫のウィルカに町へ下りていってマッチを買ってきてくれと頼む。しかし、足腰が弱り杖なしでは歩けないウィルカは、無事に町まで行って帰って来れるか心配だ。何とか意を決して出かけていくが、やはり途中で倒れて、それ以上先へ行けなくなり、雨の中、岩影で一夜をすごす。そこへパクシが迎えにきて2人はトボトボと家に帰る。

ところが、家に帰ると飼っていたヒツジがキツネにみんな食べられてしまっていた。

さらにはマッチがないので点けた火を何とか消さないようにしていたら、それが飛び火して家が焼けてしまう。

何もかも奪われる老夫婦。

それでもウィルカは「2人で一緒にいれば何の心配もない」という。

しかし、そのウィルカにも老いは確実に進んでいく・・・。

 

「ウィルカ」「パクシ」と互いに呼び合う老夫婦の、厳しくも、たくましく生きる愛の物語だった。

人は1人では生きていけない。だから人間は愛し合うのだ、ということを教えてくれる映画。

BGMの音楽はなく、自然の音だけ。それも自然のやさしい音はなく、吹きすさぶ嵐、雨、雪、自然の過酷さを示す音ばかり。

人間とは、結局のところ自然の一部にすぎないことを教えてくれる。

自然の元に還っていくかのような最後のシーンが目に焼きつく。

邦題は「アンデス、ふたりぼっち」という甘っちょろい題だが、原題の「WIÑAYPACHA」というのはアイマラ語で「永遠」を意味するという。

人は生きて、やがて次の生に命を引き継いで死んでいく。何度も繰り返される“命の循環”を、永遠の自然が見守ってくれているのだろう。

 

本作は、ペルー映画史上初の全編アイマラ語長編映画として話題となり、ペルー本国では3万人以上の観客を動員する大ヒット。アカデミー賞ゴヤ賞のペルー代表作品に選出されるなど国内外で高い評価を受けたという。

監督は、ペルー南部プーノ県出身のオスカル・カタコラ監督。ペルーのシネ・レヒオナル(地域映画)の旗手として今後の活躍を期待されていたが、2021年11月、2作目の撮影中に34歳の若さでこの世を去ってしまい、本作は長編初作品であると同時に遺作となった。

 

ウィルカ役は監督の実の祖父ビセンテ・カタコラが、パクシ役は友人から推薦されたローサ・ニーナが演じた。これまで映画を観たことがなかったという2人はアイマラ族だ。

撮影は、標高5000m以上の雪に覆われたプーノ県マクサニ地区アリンカパックで5週間にわたって行われ、登場人物は老夫婦の2人だけ。

脚本とともに撮影も担当した監督は、カメラを固定し、遠い位置からのワンカット・ワンシーンにこだわることで、自然な老夫婦の日常を描こうとしているようだった。