善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

今年いちばんの感動作 キネマの神様

新宿ピカデリー山田洋次監督の映画「キネマの神様」を観る。

マスク着用のうえ座席も1つ空けなど、感染防止対策を施しての鑑賞だったが、今年観た中でのいちばんの感動作だった!

 

監督・山田洋次、出演・沢田研二菅田将暉永野芽郁野田洋次郎北川景子寺島しのぶ小林稔侍、宮本信子リリー・フランキー前田旺志郎ほか。

 

松竹映画の100周年を記念した作品で、原田マハの同名小説を映画化。

若いころは“映画の神様”を信じ夢を追い求めていたが、78歳の今はすっかりダメ親父と化した男と、彼を取り巻く人々との愛や友情、家族の物語を描く。

 

ギャンブル好き、酒好きのゴウ(沢田研二)は妻の淑子(よしこ、宮本信子)と娘の歩(寺島しのぶ)にも見放されたダメ親父。唯一ともいえる友人といえば、行きつけの名画座「テアトル銀幕」館主のテラシン(小林稔侍)で、2人はかつて映画の撮影所で働く仲間だった。

若き日のゴウ(菅田将暉)は、1950年代ごろの日本映画の黄金期に、助監督として映写技師のテラシン(野田洋次郎)をはじめ、時代を代表する名監督やスター女優の園子(北川景子)、また撮影所近くの食堂の看板娘・淑子(永野芽郁)に囲まれながら、夢を追い求め、青春を駆け抜けていた。
そして、ゴウとテラシンは淑子にそれぞれ想いを寄せていた。しかし、ゴウは初監督作品の撮影初日、緊張でおなかを下している上に、従来の撮り方とは違う斬新なアングルで撮影しようとするが、ベテランのカメラマンに呆れられ、ついにはに転落事故で大怪我をし、その作品は幻となってしまう。ゴウは撮影所を辞めて田舎に帰り、淑子は周囲の反対を押し切ってゴウを追いかけて行く。

それから約50年。歩の息子の勇太(前田旺志郎)が、古びた映画の脚本を手に取る。それは・・・。


この映画、コロナの影響をモロに受けた映画だった。

2020年3月1日にクランクインするも、撮影の半分ぐらいのところでコロナが蔓延しだし、ダブル主演を務めるはずだった志村けんが亡くなる。ほどなくして政府による緊急事態宣言が出て撮影は長期中断を余儀なくされるが、撮影休止中でも山田監督らは脚本を再考し、新たなキャストを迎え、感染症対策を万全にした態勢で撮影を再開。クランクインから1年以上かかってようやく完成し、本年8月6日からの公開にこぎつけたという。

 

映画の途中までは、晩年のゴウのあまりのダメ男ぶりに、「この映画、どんな終わり方をするんだろう」といささか不安にもなったが、こんな感動的な“神様”がいたとは!

沢田研二菅田将暉永野芽郁野田洋次郎北川景子寺島しのぶ小林稔侍、宮本信子リリー・フランキー前田旺志郎、どの役者も見事、役にハマっていて(原作者が原田マハだけに・・・冗談です)、好演。

中でも沢田研二は、まるで志村けんが乗り移ったような演技。主人公のゴウを演じるというより、彼は志村けんを演じていて、2人の友情の濃さ・深さを感じた。

 

セリフには“山田ブシ”というか“山田監督のアリア”が随所に。

たとえば、ゴウとの駆け落ちに不安がる淑子に、スター女優の園子はこうアドバイスする。

「やってしまって後悔することもあるけど、やらなかったことでする後悔もあるのよ」

このセリフを聞いて、「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け」の中で、日本画家の役の宇野重吉に、かつての恋人役で出演した岡田嘉子がつぶやいたセリフを思い出した。

このときの岡田のセリフは「人生に後悔はつきものなんじゃないかしら。ああすればよかったという後悔と、どうしてあんなことしてしまったかという後悔」

(実は岡田嘉子のこのセリフは、彼女が日中戦争のさなかに、演出家の杉本良吉と手を取り合って厳冬の吹雪の中を樺太国境を越えて、当時のソビエトに亡命した事件とも重ね合わさっていると思うんだが、その点は今回は略)

しかし、「男はつらいよ」のあのセリフより、今回のほうがずっと心に響くなー。

映画の中で志村けんの「東村山音頭」まで飛び出したりして、久しぶりに声を出して笑えた映画でもあった(昔の映画館だったらもっとみんなして大声で笑える雰囲気があったんだが)。

 

山田監督は今年たしか90歳。クリント・イーストウッド監督より1歳だけ若いが、その年にして泉のように湧き出てくるイメージや発想、言葉の数々に驚かされる。映画への夢の大きさゆえかもしれない。

みなさん、何か夢を持ちましょう!