3年に一度、横浜市で開催される現代アートの国際展、2020横浜トリエンナーレが17日から始まった(10月11日まで)。新型コロナウイルスの影響でスタートを2週間遅らせての開催という。
会場は横浜美術館と、そこから歩いたところにある「プロット48」。
第7回となる今回は「Afterglow―光の破片をつかまえる」と題し、めまぐるしく変化する世界の中で有毒なものとも共存する生き方をどう実現するのか、という問いを共有するのがコンセプトという。
国内外から全67組のアーティストが参加し、絵画やインスタレーション、映像などの展示作品のほか、体験型作品など様々な作品が展示されている。
今回、見て回った印象ではアジア系の作品が多い気がした。
実際、約半数が日本を含むアジア圏からで、約4分の1が中東、中南米、アフリカからの出展と、非欧米圏のアーティストが多数出展しているのが今年の特徴のようだ。コロナの影響もあるのだろうか。
会場に入ると目に飛び込んできたのが巨大なオブジェ。
ニック・ケイヴの「回転する森」。
アメリカの家の庭でよく見られるという花の形をした飾りのガーデン・スピナーをもじったもので、アルミを切っただけなのに天井から吊るされた“花々”は回転しながらキラキラと光を放っている。シカゴを拠点に活動する作家の作品。
レボハング・ハンイェの「ケ・サレ・テン(今もここにいる)」(スティル)。
南アフリカの作家。彼女自身やその家族の肖像、南アフリカの歴史的・社会的イメージを組み合わせて、現実の反映でありながらもフィクションのような作品世界を構築しているという。
動画で描かれていたのは、影絵のような飛び出す絵本のような、ファンタジックな作品。
ロバート・アンドリュー「つながりの啓示-Nagula」
オーストラリアの作家。
レイヤン・タベット「オルトスタット(「かけら」シリーズより)」
ベイルート(レバノン)を拠点に活動していて、歴史的、政治的な出来事と個人の経験や記憶を接続させ、新たな観点を提示するといったインスタレーション等を発表しているという。今回の作品は、曾祖父が秘書を務めたドイツ人考古学者マックス・フォン・オッペンハイムによりシリアの遺跡テル・ハラフから発掘された石造レリーフのかけらを拓本で表現し、失われたもの、散逸したものが物語るリアリティを見る者に示している。
金氏撤平「White Discharge(Wrestlers)」
コラージュやブリコラージュと呼ばれる「貼りつけ」や「寄せ集め」の手法によりオモチャやプラスチック製品、印刷物などを“変身”させ、「見たことがあるようでいて、何だかわからないもの」をつくっている作家。たしかに何だかわからないが、どこか魅力的。
エリアス・シメ「綱渡り 2.2」
エチオピアの作家。
既成のモノを本来の用途や意味から切り離し、造形上の特徴等から組み合わせた作品を制作する。本展ではコンピューターのキーボードや電子回路基板、電線などを一枚の絵画のように緻密に構成した「Tightrope(綱渡り)」シリーズを中心に展示。
エヴァ・ファブレガス「ポンピング」。
スペイン生まれの作家。柔らかな素材でつくられた立体作品はまるで巨大な腸のようだ。触るとプニュプニュする(触ってもOKの作品)。
大型のソフト・スカルプチャーや鑑賞者の体を包み込むようなインスタレーションを通して、人間の身体や欲望、情動が産業デザインからどのような影響を受けるのかを探究しているんだとか。
キム・ユンチョル「クロマ」
韓国の作家。これもクネクネした金属製の立体作品。ポリマーでつくられた数百のセルを数学の結び目理論に基づいて構成し、色彩の連鎖をつくり出しているという。
掲示されたパネルによれば、264個の異なる形状をした部品が組み合わさって、結び目が複雑につながってひとつの輪をつくりだしている。ほとんど検知できないような地球の重力や、わずかな宇宙からの電波などの影響を受けて、結び目の上で屈曲する光が発せられている、そうだ。
レーヌカ・ラジーヴの作品群のひとつ。
インドの作家。
ネパール生まれの作家。
絵師である父からチベット仏教絵画「タンカ」を学ぶ。ネパールの僧院壁画やタンカの制作プロジェクトに関わったのち、1998年にカリフォルニアに移住。以降、タントラ(ヒンドゥー教シャクティ派の聖典)に現れる伝統的モチーフや造形を再解釈し、フラットな画面に極彩色で描く独自の手法により、ディアスポラとしての自らのアイデンティティを探究しているんだとか。
ジャン・シュウ・ジャン「動物物語シリーズ」
台湾の作家。紙を素材としたアニメーションなどを手がけていて、今回の作品は、アジアの童話に台湾の伝統芸能やインドネシアのガムラン音楽などの要素を織り交ぜた映像インスタレーションの新作。
作品を一通り見て回って帰ろうとしたら、出口にもうひとつありますよ、と係員に教えられたのが、さとう・りさの「本日も、からっぽのわたし」。
大型の張りぼてみたいな作品で、あまりにも大きくて会場内に入りきらなかったのか、あるいはそもそも屋外での展示が目的だったのか、下から見上げるしかない作品だが、風にユラユラと揺れていて、見ていて何だか心地よい。
今回、一番気に入った作品かもしれない。