善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

シャドウ・ストーカー

ジェフリー・ディーヴァー『シャドウ・ストーカー』(池田真紀子訳、文藝春秋

相手の行動から心理を読み取るワザを「キネシクス」というそうだが、そのエキスパートであるキャサリン・ダンス捜査官シリーズの1冊。去年の秋に出た本。

彼女は、休暇で訪れた先で友人で人気カントリー歌手のケイリー・タウンがストーカーに悩まされていることを知らされる。その男エドウィンはメールアドレスを変えても即座に新たなアドレスを探り出す。
数日後のコンサートにエドウィンはやってくるという。
ケイリーらが不安に震えるなか、彼女の側近、ボビーが殺害された。ケイリーのヒット曲の歌詞をなぞるような状況で。
そして第2の殺人が─―。
ストーカーが一線を越えたのか?それとも?

宣伝文句にはこんな文字が踊る。

彼女の歌が聴こえたとき誰かが殺される-
人気歌手に身辺で起こる連続殺人はストーカーの仕業なのか?
ドンデン返しの魔術師ディーヴァーの最新作!
“人間嘘発見器”キャサリン・ダンス シリーズ第3作

さすが手慣れた筆致。お約束の“どんでん返し”も用意されていて引き込まれるが、彼の作品を読み慣れているからか、あまりハラハラしない。完成度が高いので安心して読めるのはいいが、パターン化してきた感じはいなめないね。

原題は「XO」。

日本語に訳せば「キス&ハグ」の略。
メールや手紙の末尾につける言葉で、「じゃ、またね」というような意味だという。
たしかに、スキンシップの国なら親密な関係ではなくても人と会ったりしたとき挨拶代わりにハグしてほっぺにチュッというのはよくやること。
したがって手紙の末尾にも「I love you」とか「All my love」のほかに「Hugs and kisses」なんて書き添えることがあるらしい。

この「Hugs and kisses」を略した書き方がXO。
たぶんもともとは電子メールからはじまったのだと思うが、日本のメールの絵文字と同じで、Xとはキリストのこと。
日本でもクリスマスをXmasと書くことがあるが、英語のキリスト表記の語源となったギリシャ語の「クリストス」はXから始まるという。
キリストを敬愛する形がキスであり、それでXとはキスのことだとか。

あるいは別の説もあって、×の形が口と口が合わさった様子に似ているから、というのもあるが、なるほど、絵文字としてはこっちのほうが信憑性があるが。

Oは相手をハグをするときの腕の形だそうで、順序からいえばハグしてチュッなのでOXとなるはずだが、XOで親愛の情の表明となる。

ところが、本書では人気歌手のケイリー・タウンはファンからのメールに対して、単に常套句として儀礼的に「XO」と送ったのに、これを自分に対する特別な愛情表現と受け取った男はストーカーに走り、事件の発端となる。

言葉は難しい。
いや、言葉の使い方は難しい、というべきか。

本書ではアメリカのカントリー歌手の名前とか歌が次々に出てくる。その世界に詳しい人が読めばより面白かったに違いない。