善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

ミレニアム1、2

先月、プラハとウィーンの旅をした折、行き帰りの飛行機で読む本としてスティーグ・ラーソンのミステリー小説『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』を持って行った。

上下2冊の長編だったがアッという間に読んでしまった。『ミレニアム』は「ドラゴン・タトゥーの女」「火と戯れる女」「眠れる女と狂卓の騎士」からなる3部作で、帰国して2冊目の「火と戯れる女」も読んだが、これも完読。
これから3冊目にとりかかるところだが、今のところの読後感は「不思議なおもしろさ」。

女性への侮蔑・暴力・殺戮がテーマになっていて、全編を通して凄惨なストーリー。それでも小説の世界に引き込まれてしまう不思議な魅力がある。

作者のラーソンはスウェーデン生まれ。そういえば、ミステリーといえばアメリカ・イギリスだったが、このところ米英以外のヨーロッパの作品をよく読んでいる。

しかも『ミレニアム』という作品は、長年ジャーナリストだったラーソンがパートナーである女性とともに2002年から執筆にとりかかった処女小説にして絶筆だという。なんと本人は作品の完成も見ずに死んでしまった。

彼の文才はすでに処女作の完成の前に知れ渡っていたのだろう。2002年から書き始めて、2004年はじめに第2部までを書き終えた時点で出版社と3冊の出版契約を結んだという。
ところが、その年の11月、ラーソンは心筋梗塞で急死。享年50。まだ若い。

彼には第5部までの構想があって、執筆に使ったノートパソコンには第4部の4分の3に相当する下書きが残されていたという。
いずれにしろラーソンは、自分の作品が出版されるのも見ず、その後、全世界で合計800万部を超す大ベストセラーになるのも知らずにこの世を去ってしまった。

たくさんの人物が登場するが、主人公は社会派の雑誌『ミレニアム』の発行責任者ミカエル・ブルムクヴィストと、20代の天才ハッカーにして映像記憶能力の持ち主リスベット・サランデルだろう。

このミカエル・ブルムクヴィストという男、40代の中年ながらなかなか女性に持てる。社会派の経済ジャーナリストで、妻とは離婚。1人娘も元妻の元にいる。男やもめだが自分で料理をつくったりして、けっこうマメなうえ、女性の気持ちを大事にするフェミニスト。見た目もかっこよくて(たぶん)、セックスが上手で(これは小説の中で本人が言ってる)、『ミレニアム』の共同経営者の女性とはセックス・フレンドであり(しかもこの女性、亭主持ちで、その亭主もミカエルとの仲を容認していて、女性はいつか自分の亭主との3Pをやりたいと思っている)、仕事先の50代の女性ともセックスするし、自分の助手となったリスベットともベッドをともにする。要するに見境がない。

ただし、「見境がない」というのは日本人である私がそう思うだけで、フィンランドではフツーなのかもしれない。
何年か前、アメリカの学者が「性開放度ランキング」を発表し、第1位はフィンランド。日本は調査対象の48カ国中43位で、日本より下だったのは香港、ジンバブエ、韓国、バングラデシュ、台湾だった。

もう1人の主人公、リスベット・サランデルは身長150センチぐらいの子どものような体型で、全身にタトゥーやピアスを施し、人に媚びたり、人と親しく付き合うこともしない孤独な女性。“良識人”なら眉をひそめる外見と態度の彼女だったが、明晰な頭脳と映像記憶能力、天才的なハッキング技術を駆使し、数々のナゾを暴いていく。

第1部「ドラゴン・タトゥーの女」とは、まさしくリスベットのことで、外見とは大違いの彼女の活躍ぶりがスゴイ。

第1部のおもしろいところは、ジャーナリズムの調査報道の手法を使って難事件を推理し、解決に向かっていくところで、今までのミステリーにはないスリリングな展開。
しかし、結局のところ事件を解決したのはリスベットによる悪徳実業家のコンピュータへのハッキングという安直な方法(しかも不正行為)であり、後味はあんまりよくない。

それに、本書の核心部分である少女監禁・凌辱事件が結果的にもみ消されてしまうという内容に、これもガッカリ。
(あんまり女性に持てすぎるミカエル・ブルムクヴィストへのやっかみも多少はあるが)
それでも、リスベットの不思議な魅力が本書を格段におもしろくしている。

第2部「火と戯れる女」は正真正銘リスベットが主人公。

前作のラストから1年がたち、リスベットは姿を消したまま。新年のある日、『ミレニアム』編集部に、フリー・ジャーナリストのダグ・スヴェンソンが人身売買と強制売春に関する記事を売り込みにきた。買春の客の中には現職警官や検事、弁護士、裁判官、ジャーナリストなどもいるという。記事を掲載すれば国中を揺るがす大スキャンダルになることは必至。ミカエルは掲載を約束し、最後のツメの取材がはじまる。

ちょうどそのころ、姿を消していたリスベットが密かにスウェーデンに帰国。前作で巨万の富を得た彼女は新たな住まいを購入し、気楽な毎日。だが、そんな彼女の平穏な生活も長くは続かなかった。リスベットの衝撃的な過去が明らかとなり、ふたたび凄まじいばかりのバイオレンスがはじまる──。

特に第2部の最後、ミカエルに「いままで友だちでいてくれてありがとう」のメッセージを残し、たった1人、“ターミネーター・モード”に入ってからのリスベットの“疾走”ぶりがすさまじい。
読後には一種の爽快感も味わえた。

さて、第3部「眠れる女と狂卓の騎士」は?(ヘンなタイトル)