善福寺公園めぐり

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ワイン+レイ・ハリーハウゼン「シンドバッド三部作」

フランス・ブルゴーニュの赤ワイン「ブルゴーニュピノ・ノワール(BOURGOGNE PINOT NOIR)2022」

(写真の料理はこのあと牛サーロインステーキ)

生産者はフランス東部のブルゴーニュで古い歴史を誇る名門ドメーヌ、アンリ。

赤ワインの定番品種ともいえるピノ・ノワールは、今では世界中で栽培されている国際品種となっているが、そもそもはヨーロッパ系の品種で原産地はブルゴーニュ地方。

優しく気品に満ちた味わいは原産地ゆえか?

 

ワインとともに楽しんだのが、特撮映画の神様といわれたレイ・ハリーハウゼンが手がけた「シンドバッド三部作」と呼ばれる3つの映画。

レイ・ハリーハウゼン1920年~2013年)はアメリカの特撮映画監督。主に1950年代から70年代に活躍し、多くの特撮SF・ファンタジー映画を手がけ、20世紀における特撮技術の歴史をつくってきた人といわれる。

以前、彼が製作と特撮を担当した「アルゴ探検隊の大冒険」を観てファンになり、テレビで放送しないかなーと待ち望んでいたら、民放のCSで「コロンビア・ピクチャーズ100周年連動企画」というのでレイ・ハリーハウゼン特集があり、3本を放送していたので録画。毎晩1本ずつ観た作品を紹介。

 

まずは1本目、「シンドバッド 七回目の航海」

1958年の作品。

原題「THE 7TH VOYAGE OF SINBAD」

監督ネイサン・ジュラン、特殊視覚効果レイ・ハリーハウゼン、出演カーウィン・マシューズ、キャスリン・グラント、アレック・マンゴー、トーリン・サッチャー、ハロルド・カスケットほか。

レイ・ハリーハウゼンが初めてカラー作品として手がけた冒険ファンタジー

 

バグダッドのシンドバッド王子(カーウィン・マシューズ)は、婚約者パリサ姫(キャスリン・グラント)とペルシャに航海中、コロッサ島で1つ目の巨人に追われる魔法使いソクラ(トリン・サッチャー)を助ける。

国に帰るとソクラは、魔法のランプを巨人に奪われてしまったので、ランプを取り戻すため再び島に行くことを希望する。王子がそれを許さなかったため、彼は姫の体を親指サイズの小人にしてしまい、元通りにするにはコロッサ島に住む双頭の鷲の卵の殻が必要だといって船を出すことを求める。

やむなく仲間と死刑囚から集めた手下を連れて航海の旅に出たシンバッド。不気味な怪獣たちがひしめくコロッサ島で大冒険を繰り広げることになる・・・。

 

1958年の作品だから、今から66年も前の映画。CGなんかなかった時代、実写とアニメを融合させたワイドスクリーンテクニカラー映画、いわゆる「ダイナメーション」の第1号に当たる記念すべき作品。「ダイナメーション」とは、ライブアクションの「ダイナミック」とコマ撮りで撮影するストッモーションアニメの「アニメーション」を合わせた宣伝用の造語という。

 

奇想天外なモンスターたちが次々と登場する。

海図にない島コロッサ島で待ち受けるのは、1つ目の巨人・サイクロップス

巨大な双頭のワシの巣には人間より大きな卵があり、ヒナが生まれていた。空腹のシンドバッドの部下たちはヒナを食べてしまい、怒った親鳥により部下たちのほとんどは殺されてしまう。

腹黒い魔術師ソクラは、姫の侍女・サディを大壺に入れ、その中に毒蛇を投げ入れ魔法の薬を振りかけると、あらわれたのは上半身はサディ、下半身はヘビの「サーペント・レディ」。関節がない4本腕をクネクネさせて踊り出すが、ヘビの尾っぽがサディの首を締めつけたためふたたびソクラが魔法の薬を振りかけ、サディは元に戻る。巧みな合成のワザで、これぞダイナメーション。

最後に登場するのは骸骨戦士。これも巧みな合成により、シンドバッドと骸骨戦士とのチャンバラは見事というほかなく、映画史に残る名場面となった。

意外だったのは、魔法のランプの中に閉じ込められていたランプの精が、巨人ではなく子どもだったこと。小さくなったパリサ姫がランプの中に入り込めたので友だちとなるが、ランプの精は自由な人間に戻りたいと願っていて、最後にはその夢を果たすことができてハッピーエンド。

 

全編ファンタジーという感じの本作だが、こうした映画をつくりたいと子どものころから夢見ていたいたのがレイ・ハリーハウゼンだったという。

彼は子どものころに公開された「キング・コング」を見てコマ撮りで動くアニメに興味を持ち、大学で映画技術を学んだあと映画の世界に入る。

何本かの映画の特撮を担当したのち、「アラビアン・ナイト」の世界にさまざまな怪物を登場させたいと思うようになる。やがてプロデューサーのチャールズ・H・シュニーアと親しくなった彼は、シュニーアにシンバッドの企画を持ちかける。

コンセプト・デザインを一目見て気に入ったシュニーアは、当時テレビドラマの脚本を書いていたケネス・コルブに脚本を依頼。さらにシュニーアは本作をカラーで撮影することを提案する。

結局、製作には5年の歳月をかけ、最初の1年半だけで6000フィート(約1829m)のカラー・フィルムを使ったというが、撮影中は30秒おきに温度を計り、色調が狂わないよう工夫に工夫を重ねたという。

 

原題は「THE 7TH VOYAGE OF SINBAD」で、「シンドバッド(SINDBAD)」ではなく「シンバッド(SINBAD)」。

どうやら英語ではSINDBADもSINBADも両方オーケーらしい。もともとはSINDBADだったが、真ん中のDが省略されて発音されなくなり、文字もなくなったとの説もある。アクセントが弱いと省略されることはよくあり、同様にして最後のDもちゃんと発音されなくて、実際の英語の発音を聞くと日本人には「シンバッ」と聞こえる。

 

本作は、レイ・ハリーハウゼンが手がけた「シンドバッド三部作」の第一作とされ、二作目は15年後の1973年の「シンドバッド黄金の航海」、三作目はその4年後、1977年の「シンドバッド虎の目大冒険」と続くが、一作目なのにタイトルは「シンドバッド七回目の航海」。1回から6回は飛ばしていきなり7回目の航海になっている。

原典である「千夜一夜物語アラビアンナイト)」のシンドバッドの冒険譚も合計7回ある。シンドバッドはペルシャ湾からインド洋を股にかけて7回の波乱に富んだ大航海を行い、故郷バスラで集まった人たちに旅の思い出を語る筋書きになっている。

本作の場合、企画した当初は三部作なんて考えていなくて、最後の7回目の航海の一度きりで物語を完結させたかったのだろうか?

 

続いては「シンドバッド黄金の航海」。

1973年の作品。

原題「THE GOLDEN VOYAGE OF SINDBAD」

監督ゴードン・ヘスラー、特殊視覚効果レイ・ハリーハウゼン、出演ジョン・フィリップ・ロー、キャロライン・マンロー、トム・ベイカー、ダグラス・ウィルマー、カート・クリスチャンほか。

1958年の「シンドバンド七回目の公開」から15年ぶりとなる「シンドバッド三部作」の2作目。レイ・ハリーハウゼンによるアニメ技法を駆使した特殊技術「ダイナメーション」が冴えわたる冒険ファンタジー

 

航海中のシンドバッド(ジョン・フィリップ・ロー)の帆船に、奇妙な鳥(ホムンクルス)が黄金の刻印を落としていった。

マラビア王国に着いたシンドバッドは、魔術師クーラ(トム・ベイカー)に黄金の刻印を奪われそうになるが難を逃れ、首相のビジエル(ダグラス・ウィルマー)に面会する。ビジエルは世継を定めず亡くなったマラビア国王により国を任され摂政をしていたが、クーラの魔力による火球で顔に大ヤケドを負っており、黄金の仮面を付けていた。

ビジエルもまた黄金の刻印を所持しており、2つの刻印を合わせると未知の孤島を示す海図らしきものとなった。ビジエルはシンドバッドに「刻印は3つで一組のものであり、全て揃えばクーラの野望を排し、マラビアを危機から救える」と語る。

シンドバッドは、ビジエルと、彼の夢に現われた女奴隷マルギアナキャロライン・マンロー)、そしてその自堕落さを叩き直してくれと父親の商人から頼まれた若者ハロウン(カート・クリスチャン)を船に乗せて、幻の島・レムリアへの冒険の旅に出る・・・。

 

三部作といいながら第一作と第二作の関連性はまるでなく、一話完結の独立した映画になっている。

本作では、第一作のときにプロデューサーだったチャールズ・H・シュニーアと再びタッグを組み、特撮監督をつとめたレイ・ハリーハウゼンも製作に名を連ねている。実際には、特撮だけでなく作品の基本コンセプトから脚本、実写部分の撮影も含めて作品全体にレイ・ハリーハウゼンが大きく関わっていただろう。

 

明るく華やかだった前作から一転して、暗い画面に陰湿な展開。主人公のシンドバッドもやさぐれた雰囲気。ハリーハウゼンお得意の特撮の冴えもなかなか見られない。

しかし、幻の島・レムリアに渡ると本領発揮。そこでのモンスターたちとの対決が見物だ。

まず画面にあらわれたのが巨大な人面が刻まれた密林の中の寺院。カンボジアのアンコール遺跡そっくりで、アンコール遺跡群で撮影したのかと思ったら、ロケ地はスペインやマヨルカ島だという。どうやらアンコール遺跡を参考にセットをつくったようだが、神殿の撮影地として使われたのはマヨルカ島のアルタ洞窟だとか。

そこに登場するのは半人半馬のケンタウロス、それに上半身がワシで下半身が獅子というグリフォン

最大の見どころは、ヒンドゥー教の陰母神カーリーの巨大な青銅像が動き出すところ。カーリーが踊るシーンがあるが、インドの踊りの専門家に振付を依頼してフィルムにより実写撮影した踊りを元に、カーリーを踊らせるアニメート作業を行ったという。

さらには、6本の腕で刀を振り回し、二刀流どころか六刀流でシンドバッドたちとのチャンバラ合戦が圧巻。

イスラムの世界を描いているので、シンドバッドはじめ登場人物たちはしきりに「アラーは偉大なり」と口をそろえていたが、今のハリウッドだったらありえないセリフだったろうなー。

 

3本目は「シンドバッド虎の目大冒険」。

1977年の作品。

原題「SINBAD AND THE EYE OF THE TIGER

監督サム・ワナメイカー、特殊視覚効果レイ・ハリーハウゼン、出演パトリック・ウェイン、タリン・パワー、マーガレット・ホワイティング、ジェーン・シーモア、パトリック・トラフトンほか。

レイ・ハリーハウゼンの特撮によるシンドバッド三部作の最後の作品。

 

冒険の旅を終えてアラビアの都シャロックの港に帰って来たシンドバッド(パトリック・ウェイン)だったが、友人の王子は呪いの力によりヒヒの姿に変えられていた。自分の息子を王位に就けようと企む継母で魔女のゼノビア(マーガレット・ホワイティング)の仕業だった。

シンドバッドは、王子の妹ファラー姫(ジェーン・セイモア)を助け、ヒヒを連れて賢人メランシアス(パトリック・トラウトン)の元を訪れると、呪いを解く方法は極北のアリマスピの神殿にあると教えられる。シンドバッドは、ヒヒとファラー姫、メランシアス、メランシアスの娘ディオーネ(タリン・パワー)を船に乗せて極北の神秘の神殿を目指す。

一方、魔女ゼノビアもまた、魔術の限りを尽くしてシンドバッド一行を妨害すべくシンドバッドの船を追っていた・・・。

 

レイ・ハリーハウゼンが特撮監督をつとめるだけでなく、製作(チャールズ・H・シュヨーアと共同)、原案も彼によるもの。

配役が豪華というか親の七光的配役で、シンドバッド役はハリウッド映画の大スター、ジョン・ウェインの息子パトリック・ウェイン、ヒロイン級のディオーネ役はやはり往年の大スター、タイロン・パワーの娘タリン・パワー。ヒロインのファラー姫を演じるのは、「007 死ぬのは奴らだ」(1973年)のボンドガールでブレイクし実力でキャスティングされたジェーン・セイモア。

出色だったのが、魔女ゼノビア役のマーガレット・ホワイティングの熱演で、邪悪な魔女ぶりが際立っていた。

キャスティングの段階ではゼノビア役にベティ・デイヴィスの名前もあがったが、ギャラがあまりにも高すぎるというので断念。マーガレット・ホワイティングに落ち着いたというが、彼女はイギリスの王立演劇アカデミーで学び、ロンドンのウェスト・エンドで数々の舞台を踏んだ実力派の女優。

彼女の演技は高く評価され、SF、ファンタジー、ホラー映画が対象のサターン賞の最優秀助演女優賞にノミネートされたという。

 

今回も奇怪な怪獣が次々登場。

骸骨に皮膚が張り付いたような体で、昆虫のような巨大な目を持つ悪鬼グール。

魔女ゼノビアの手下として働くのが ギリシア伝説の人身牛頭の怪物、ミノタウロスを模した青銅の怪人、ミトナン。

悪者ではなく、シンドバッドたちに味方するのが、額にツノが生えたネアンデルタール人みたいな巨体の原始人。ウーウーいうばかりで言葉は通じないはずだが、なぜかヒとなったカシム王子の通訳により神殿への道案内をしてくれ、なおかつ悪者たちと対決までしてくれる。人間の祖先ゆえにどこか通じるところがあるのか。

最後に登場するのが巨大なトラ。氷漬けにされていたのだが、ゼノビアが魔法を用いて乗り移り、シンドバッドたちに襲いかかる。

 

前作が大ヒットを記録したおかげで、本作はハリーハウゼンが手がけた映画の中で最も多くの予算が与えられ、かなり贅沢なロケができたようで、ヨルダンのペトラ遺跡がロケ地となっていた。

ほかにも、シンドバッドらが北極の氷原を横断するシーンはスペインのピスコ・デ・エウロパ国立公園、神殿などの屋外セットはマルタ島といったように世界各地で撮影されている。

 

本作は1977年の夏休みシーズンに世界中で一斉に公開され、ヒットはしたものの興行的にはそれほどの成功とはならなかったという。

理由はというと、同時期に公開された「スター・ウォーズ」のためだ。

スター・ウォーズ」はデジタル合成技術を使って特撮映画をつくった最初の作品といわれる。“特撮の革命”とも呼ばれるのが「スター・ウォーズ」で、これと比べると、どうしたってレイ・ハリーハウゼンのコマ撮りアニメと実写の合成である「ダイナメーション」は、手づくり感があって親しみは感じるけれども、どうしたって古色蒼然としていて、見劣りしてしまう。

結局、本作の次につくられた1981年の「タイタンの戦い」が、レイ・ハリーハウゼンが手がけた最後の作品となった。

しかし、そもそもジョージ・ルーカスが「スター・ウォーズ」をつくろうと思ったのも、レイ・ハリーハウゼンが手がけた作品から強烈な刺激を受けたからなのは間違いない。考えてみれば、そもそも現代のデジタルを駆使したCGと実写の合成による特撮映画というのも、レイ・ハリーハウゼンのコマ撮りと実写の合成による「ダイナメーション」と原理はまったく一緒ではないか。

先駆者としての彼の功績は大きく、その作品のすばらしさは今も色あせない。