善福寺公園めぐり

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きのうのワイン+映画「剣客」

オーストラリアの赤ワイン「ピーツ・ピュア・ピノ・ノワール(PETE'S PURE PINOT NOIR)2023」

ワイナリーはオーストラリアの東南部に位置するニュー・サウス・ウェールズ州のピーツ・ピューア。

ヒゲモジャおじさんのラベルで知られる。

果実味と酸味、タンニンがほどよいワイン。

 

ワインの友で観たのは、民放のCSで放送していた韓国映画「剣客」。

2020年の作品。

原題も韓国語で「剣客」

監督チェ・ジェフン、出演チャン・ヒョク、キム・ヒョンス、ジョー・タスリム、チョン・マンシク、イ・ミンヒョク(BTOB)ほか。

17世紀の朝鮮を舞台に、都(漢城)で横暴の限りをつくす大国・清の皇族とその手下に対し、愛する娘を守るため封印した剣を手に立ち向かう剣客の姿を描く。

 

中国で明が没落して北からやってきた清が中国全土を支配するようになる17世紀のころ、李氏が支配する朝鮮にも清の影響が及んできて、都では清の皇族クルタイ(ジョー・タスリム)の一団がやってきて、女性を含めた朝献品を強いるなど横暴を極めていた。

一方、かつて国王の護衛武士だった剣客テユル(チャン・ヒョク)は、世間に背を向けて娘テオク(キム・ヒョンス)とともに山奥で暮していたが、戦いの際の古傷が彼の視力をむしばみ、心配するテオクは治療のため父を都に連れ出す。

ところが、クルタイの手下によってテオクは捕らえられてしまう。「貢女」として清に連れ去れようとしたそのとき、テユルは愛する娘を救うため、長く封印してきた必殺の剣を再び手にする・・・。

 

映画の冒頭、「史実に基づく創作」との字幕スーパーが流れる。「史実」に基づこうが基づくまいが「創作」は「創作」だと思うのだが、要するに、実際にあった歴史上の事件を題材にしてるけど、登場人物も物語も本当のようだけど本当ではなくて、フィクションにすぎませんのでご安心を、と断りを入れたかったのだろうか。

しかし、朝鮮の史実に基づくといわれても日本人には何のことかわからない。

そこで本作で描かれる「史実」について考察するに、1623年に起こった朝鮮のクーデター「仁祖反正」と、1636年から37年にかけて清が李氏朝鮮に侵略して服従させた「丙子の乱」のあたりを時代背景にした映画のようだ。

 

日本の豊臣政権が、「唐入り」と称して明の征服をめざし、遠征軍をまず朝鮮に送ったのが1592年(天正20年)。このとき李氏朝鮮の第14代国王は宣祖で、秀吉の朝鮮侵略は翌年の93年(文禄2年)、秀吉が亡くなるまで続く。

宣祖の次男で皇太子だった18歳の光海君は、軍を率いて日本軍と勇敢に戦ったという。1608年に宣祖が死去すると、あとを継いで第15代国王となる。

このころ、中国を支配していたのは明だったが、北方ではヌルハチにより後金(のちの清)が建国され、勢力を拡大していた。光海君は、一度は明からの要請に応えて後金討伐のため軍隊を送ったこともあったが、戦いに敗れたこともあって後金の実力を知り、明と後金の両者に対し中立的な外交政策をとるようになる。

その一方で内政に関しては、荒廃した国土の復興や王宮の再建に力を尽くし、庶民の減税につながる税制により成果を上げたともいわれるが(一方で光海君は暴君だったとの説もあるらしい)、中立政策は生ぬるいとする官僚派閥と結託して光海君に反逆したのが甥の綾陽君で、1623年、宮廷クーデターを起こして光海君は失脚。後継には綾陽君が擁立され、仁祖として即位する。

この事件を朝鮮史では「仁祖反正」と呼んでいて、その後、仁祖は外交政策を明と親しくして清(後金)を認めないという「崇明排清」に転換する。

この「仁祖反正」の際、クーデター軍が光海君に迫ってきたとき、最後まで王を守って剣を振るった護衛の若者が、本作の主人公であるテユルだった。

王は江華島に流され廃位となり、戦い敗れたテユルは世俗を捨て、山にこもったのだった。

 

明に近い外交政策をとるようになった仁祖に、不信感を持ったのが清だ。

1627年、ヌルハチのあとを継いだホンタイジが3万の軍勢で朝鮮を攻撃。結局、講和を結ぶことになるが、その内容は、後金を兄、朝鮮を弟とする兄弟国とするなど、朝鮮にとって不利なものとなる。その後、清は朝鮮を征伐すると宣言して10万の兵を送ってきて「丙子の乱」が起こる。

降伏した朝鮮は、清の太祖に額を地面に打ち付ける「三跪九叩頭の礼(さんききゅうこうとうのれい)」という屈辱的な礼をさせられ、朝鮮は清の臣となる、王の長男と次男、および大臣の子女を人質として清に送る、清が明を征服するときには求められた期日までに援軍を派遣する、などの条約を結ばされる。

清との和議には朝鮮からの貢ぎ物も含まれ、この中には若い女性を献上品として差し出す「貢女」もあったという。映画では、テユルの娘テオクも「貢女」として、あるいは人身売買の毒牙にかかって連れ去られそうになり、ついにテユルは剣を手にして清の皇族クルタイと対決したのだった。

 

こういう歴史的背景がわかると、「史実に基づく創作」である映画はたしかに面白くなる。

 

ところで、本作では剣と剣で激しくぶつかり合うアクションシーンが見どころとなっているが、殺陣は日本の時代劇の殺陣に似ていた。

韓国は日本に次ぐ剣道大国として知られていて、3年に1度開催される世界剣道選手権大会でも、優勝は常に日本だが、一度だけ韓国が優勝したことがある。本作の殺陣シーンでも剣道の達人による殺陣指導が行われたのかもしれない。

だが、日本の剣道は(実践においては剣術といったほうが正確かもしれないが)、「突き」もあるけど「斬る」のが中心であり、日本刀は「斬ること」に特化した武器であるため刀身に反りがあるのに、本作の主人公の剣士テユルが愛用する剣は先端が二股に別れていて反りがない。あきらかに「突き」に特化していて、中国の剣術の影響も受けているのかもしれない。