善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「王の願い ハングルの始まり」

スペインの赤ワイン「サングレ・デ・トロ・オリジナル(SANGRE DE TORO ORIGINAL)2020」

スペイン北東部、フランスとの国境に近いカタルーニャ地方でワインづくりを続けるトーレスのワイン。

トレードマークの牡牛のマスコットは、古代ローマ神話の酒神バッカスに由来するという。

スペイン原産のガルナッチャとカリニェナをブレンド。バランスの取れた飲み口。

 

ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していた韓国映画「王の願い ハングルの始まり」。

2019年の作品。

監督チョ・チョルヒョン、出演ソン・ガンホ、パク・ヘイル、チョン・ミソンほか。

 

「パラサイト 半地下の家族」のソン・ガンホが独自の文字づくりのため命を懸けた世宗大王を演じる歴史劇。「殺人の追憶」でソン・ガンホと共演し容疑者として追われる男を演じたパク・ヘイルが、何カ国もの言語に精通する仏教の僧侶シンミ役を演じた。

朝鮮の国字であるハングル(「大いなる文字」という意味だそうだ)は、仏教で使われるサンスクリット文字(いわゆる梵字)をもとにつくられたとする歴史ミステリー。

ハングル創製についてはナゾの部分もあり、どのようにしてつくられたかは諸説あるらしい。映画でも冒頭、史実をもとにしたフィクションとことわっているので、歴史のIFというか、本当はこうだったんじゃないかという仮説を描いた映画といえる。

 

朝鮮王朝(李氏朝鮮)の第4代国王・世宗(1397‐1450年)の時代。朝鮮には自国語を書き表す文字が存在せず、上流階級層だけが中国の漢字を使っていた。そんなことではやがて国は滅びると悟った世宗は、誰でも容易に学べ、書くことができる朝鮮独自の文字をつくることを決意。仏教寺院の僧侶シンミに文字づくりの協力を求める。

しかし、これには家臣たちは大反対。当時の朝鮮王朝は、仏教を国教としていた高麗を倒して成立した王朝であり、仏教に代わって儒教を国教にしていた。仏教の僧侶は最下層の賤民に落とされていて、そんな者たちと新しい文字をつるなんてもってのほかと反発したのだった。

世宗は糖尿病を患っていて、合併症による失明の危機にあり、命もそう長くはなさそう。家臣たちの抵抗にあいながらも、僧侶たちと手を取り合い、新たな文字づくりに突き進んでいく・・・。

 

国を成り立たせるには「言葉」こそ大事、というのはまさにそのとおりだと思う。

そこで誕生したハングルは、もともとインドの言語で仏教で使われるサンスクリットにもとづいているというのは意外な話だ。ということはハングルはもともと外来語ということなのだろうか。

しかし、日本の文字だって中国の漢字、つまり外来語をもとにつくられているのだから、外国の文字を参考に自国用に改変するというのはあり得ることだろう。

 

映画では、膨大な数がある漢字のような表意文字ではなく、1つの文字が1つの発音で表されるような表音文字を求めて行き着いたのが仏典だった。

仏典はもともと表音文字であるサンスクリットで記されていた。そこでサンスクリットを手本にして開発されたチベット文字パスパ文字モンゴル帝国の宮廷で使われた文字)を参考にしながら、独自の文字の開発を進めていき、国民の誰でもが覚えやすく使いやすい24文字からなるハングルを創製していく。

 

映画には日本からの使節団も登場している。使節団は、朝鮮でつくられた八萬大蔵経の版木を譲ってくれと国王に求める。朝鮮は儒教の国になったのだから、仏教の教典なんていらないだろうという図々しい要求だった。

大蔵経とは仏教経典を総集したもので、1236年から15年の歳月をかけて彫り上げられ、版木が8万枚以上あるというので「八萬」の名がある。

仏力により国を守ろうと、版木に一文字彫っては仏を拝み、すべての文字を手彫りしていくという気の遠くなるような手間と時間のかかる信仰の産物が八萬大蔵経だった。

日本の使節団の虫のいい要求は拒絶されるのだが、このとき、版木を保管していたのが僧侶シンミであり、国王はシンミを知り、彼の協力を得てハングル創製に取りかかるのだった。

そのきっかけをつくったという意味で日本もハングルづくりに一役買っていた?

 

日本が「版木を譲ってくれ」といってきたエピソードはフィクションではなく、実際にあったことらしい。

朝鮮王朝の太祖の時代の1398年、足利幕府は八萬大蔵経の版木を求めて使者を遣わしたが断られ、それでも諦めきれずに世宗の時代の1423年にも2人の僧を派遣して譲ってほしいと頼んだという。丁重に断られると、2人の僧は承服せずに絶食して版木を求め、世宗は三度も家臣を遣わして絶食を止めさせたというエピソードが残っているのだとか。

おねだりすればらえるというものではないと思うのだが・・・。

日本に持ち去られなかったおかげで八萬大蔵経は韓国南部の慶尚南道にある海印寺に現存していて、版木を保管している海印寺大蔵経経板殿は世界文化遺産に登録されている。

そして、版木をもらえなかった代わりなのか、この版木から印刷された大蔵経が日本にもたらされ、東京の増上寺と京都にある大谷大学が所蔵しているという。