チリの赤ワイン「モンテス・リミテッド・セレクション・ピノ・ノワール」(MONTES LIMITED SELECTION PINOT NOIR)2022」
ワイナリーは「チリ発、チリ人だけのチリワインカンパニー」として1988年設立のモンテス。ボトルに描かれている天使の由来は、創業者の一人が交通事故から奇跡的に助かった際、天使の存在を感じたことがきっかけとなり、以来、天使はモンテスのシンボルとなっているという。
生産地はチリのワイン産地の中で中部に位置するアコンカグア。アンデス山脈にある南米最高峰のアコンカグア山(6960・8m)のふもとの河川流域にブドウ畑が広がっている。
やわらかで飲みやすいワイン。
ワインの友で観たのは、NHKBSで放送していた日本映画「乱れる」。
1964年のモノクロ作品。
製作・監督:成瀬巳喜男、脚本:松山善三、出演:高峰秀子、加山雄三、三益愛子、草笛光子、白川由美、北村和夫、浜美枝ほか。
苦悩の表情を浮かべたまま走る高峰秀子をとらえたラストシーンが忘れられない映画。
舞台は高度成長期の地方の小さな酒店。結婚してわずか半年で夫を戦争で亡くした礼子(高峰秀子)は、嫁ぎ先の店を18年にわたって一人で切り盛りしてきた。
義理の弟・幸司(加山雄三)は、東京の会社を辞めて実家に戻ったが、酒に溺れ、けんかに明け暮れていた。
そんな幸司を礼子はいつもかばい、優しく迎えていた。ある日、幸司は、礼子に長年抱いてきた本当の思いを打ち明ける・・・。
時代は高度経済成長期だが、景気がいいのは東京などの大都会で、本作で描かれるような地方都市(舞台となったのは静岡県の清水市)では、スーパーマーケットの進出で地元の商店街は疲弊していく。1個11円で売っている卵がスーパーでは半額以下の5円。これではとても太刀打ちできず、ついには将来を悲観した商店主の自殺まで起こる。
高度経済成長といいながら、もうこのころから一極集中が始まっていて、地方は衰退を始めていたのだ。そういえば守屋浩が「僕の恋人東京へ行っちっち」と歌った「僕は泣いちっち」が発売されたのは1959年だった。
本作のヒロインの礼子は、19歳で嫁にきて夫はすぐに出征して亡くなり、以後、18年間を未亡人として生きたから37歳ぐらいで、まだ若い。2人の間に子どもはなく、戦後、焼け野原にバラックを建てて店を再建し、亡き夫の妹弟たちを育ててきた。
亡き夫の2人の妹たち、長女の久子(草笛光子)と次女の孝子(白川由美)は結婚して家を出ていたが、久子が持ってきたのが酒屋をスーパーにしないかという話だった。スーパーができれば長男の幸司が社長になり、話を持ってきた妹の夫は専務になってもらうという計画で、そうなると、子どももいない、血もつながっていない義姉の存在が疎ましくなってきた妹たち(ニクまれ役の草笛光子がニクらしいほどウマイ)。
一方、7歳のときから義理の姉の姿をずっと見てきた末弟で25歳になる幸司は、姉たちとはまるで違っていた。彼は大学を出て就職し、地元で働くが、東京に転勤が決まると会社を辞めてしまい、家に居候するみたいにして、仕事もせず、気ままな生活を送っている。
なぜ彼は東京への転勤を拒んだのか。それは義姉の礼子と一緒にいたかったからだ。彼はずっと彼女を慕っていて、ついには恋するようになっていたのだった。
そしてついに彼は礼子に「あなたが好きだ」と告白してしまう。
商店街の衰退、それに手塩にかけてきた店のスーパー化で自分の居場所がなくなってきたのと、義弟の幸司からの突然の告白。板挟みの中で、彼女が選択したのは、この家から出て行くことだった。
その後の、礼子と、家を飛び出してあとを追う幸司の旅の物語が悲しくも美しい。
清水から東海道線で東京へ。上野からは東北本線に乗って、礼子のふるさとである山形県の新庄に向かう。
列車内の2人の様子が延々と描かれるが、あの当時は上野から新庄まででも一番早い急行に乗って7~8時間ぐらいかかっていたから、長い長い「道行」だった。
礼子は座っているが、最初は満員で立っている幸司、少し離れた席が空いたので座る幸司。背中合わせに座る幸司。ついには向かい合って座る幸司。長い道行が2人の間の溝を埋めて互いを近づけていって、やがて心を許し合うようになる。ついに礼子はいう。
「次の駅で降りましょう」
降りたのは新庄の少し手前、銀山温泉の最寄り駅である大石田駅だった。
若い幸司から愛の告白を受けて、ついに礼子はいうのだった。
「私だって女です」
そこまで義弟から慕われて、彼女は自分の中にずっと秘めてきた男を愛する気持ちに気づき、ついに心乱されたのだった。
しかし、銀山温泉で2人は結ばれない。葛藤しつつも、結局は礼子は一線を越えることができず、義弟の愛を拒む。
捨て鉢になる幸司。宿を飛び出し、温泉街の飲み屋で酒を浴びるほど飲み、フラフラになりながら人けのない夜中の温泉街をさまよい歩く幸司。
結局、幸司は宿に戻らず、翌朝、崖から落ちた男の遺体が担架で運ばれていく。
宿の2階からそれを見て、幸司と知って飛び出す礼子。
苦悶の表情で、運ばれていく幸司のあとを追う礼子の顔がアップになって、映画は終る。
悲しさと美しさが二重写しになる、映画史に残るようなラストシーンだった。
ついでにその前に観た映画。
民放のCSで放送していた台湾映画「ナイルの娘」。
1987年の作品。
原題「尼羅河女兒」
監督ホウ・シャオシェン、出演ヤン・リン、ジャック・カオ、ヤン・ファン、ツイ・フーション、リー・ティエンルーほか。
ホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督のフィルモグラフィー中、自伝的作品系列から離れた異色のアイドル映画。
ネオン輝く台北に住むシャオヤン(暁陽)は、母を若くして亡くし、警官の父は遠方で働いている一家の長女。妹の面倒を見ながらアルバイトをし、夜間学校に通っている。
一方、よからぬ仲間とつるむ兄シャオファン(暁方)は泥棒を繰り返し、いかがわしいビジネスに手を染めてピンクハウスという名のホストクラブ風レストランを始める。
シャオヤンは、日本の漫画「ナイルの娘」を愛読していて、兄が深夜に「仕事」といいながら「窃盗」を繰り返していてもあまり気にもとめず、窃盗品である流行の赤いウォークマンをもらって喜んでいる。
兄たちとつるんでいる若い男に恋しているが、彼はヤクザの情婦とできてしまい、結局は殺されてしまう。そして兄も・・・。
気だるい感じの青春の終わりの物語。
4Kデジタル修復版なので画像は鮮明。
レコード会社が出資し、台湾で人気だったアイドル歌手のヤン・リン(揚林)主演の作品。
映画に出てくる「日本の漫画『ナイルの娘』」とは、細川智栄子あんど芙〜みんによる長編漫画「王家の紋章」のことだという。
「王家の紋章」は秋田書店発行の雑誌「月刊プリンセス」で1976年10月号から連載していて、いまだ終わらない“大河ロマン漫画”だそうだ。
作者の細川智栄子さんは今年89歳。48年前から「王家の紋章」の連載を始めて、古代エジプトを舞台に現代からタイムスリップした女性の活躍を生涯にわたり連載し続けるのだとか。
月日がたてば青春は終わるが、終わらない青春もある、と本作の監督ホウ・シャオシェンは“見果てぬ夢の物語”である漫画「ナイルの娘」に重ね合わせて本作を描いたのだろうか。