善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「バンク・ジョブ」「ブラック・スキャンダル」「さすらいのガンマン」

チリの赤ワイン「エスクード・ロホ・グラン・レゼルヴァ(ESCUDO ROJO GRAN RESERVA)2021」

メドック格付け第一級シャトー・ムートンを手がけるバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルドがチリでつくる「エスクード・ロホ・レゼルヴァ」シリーズの1本。

カベルネ・ソーヴィニヨンカベルネ・フラン、シラー、カルメネール、プティ・ヴェルドをブレンド

ボルドー・スタイルで仕立てたワイン。

 

ワインの友で観たのは、民放のCSで放送していたイギリス映画「バンク・ジョブ」。

2008年の作品。

原題「THE BANK JOB」

監督ロジャー・ドナルドソン、出演ジェイソン・ステイサムサフロン・バロウズ、デビッド・スーシェほか。

1971年に起きた「ベイカーストリート強盗事件」(「ウォーキートーキー強盗」とも呼ばれる)として知られる英国史上最大の銀行強盗事件をもとにしたクライム・サスペンス。

 

テリー(ジェイソン・ステイサム)はかつて裏社会に身を置いていたが、妻子のために足を洗い、現在は中古車店を経営していた。経営は順調とはいえずギャングの高利貸しから嫌がらせを受けていた。そこにかつての恋人、マルティーヌ(サフロン・バロウズ)があらわれ、銀行強盗の話を持ちかける。ターゲットはロンドンのベイカー街にある銀行で、銀行が休みの日に地下にある貸金庫をトンネルを掘って襲う計画。貸金庫にあるのは隠し資産などの人に知られてはならない物ばかりなので、被害届も出しにくいという。

テリーは友人ら5人を誘って犯行に及び、まんまと大金を手にするが・・・。

 

実際にあった事件をもとにしていて、製作者によれば「90%は実話」なんだとか。

貸金庫の中から奪われたのはおよそ300万ポンド。当時のレート換算でいくと25億7000万円にも及ぶという。

この事件は「ウォーキートーキー強盗」とも呼ばれるが、ウォーキートーキーとはトランシーバーのことで、犯行の際、銀行の向かいのビル屋上に監視役の仲間を配置してトランシーバーを用いて連絡し合っていたが、たまたまアマチュア無線愛好家が犯人同士の会話を傍受して事件が発覚したところからこの呼び名がついたという。

 

映画では、テリーらは見事に犯行をやってのけ、大金を手にして大喜び。しかし、話はこれで終わりではなく、むしろそれからが息詰まる展開となっていく。

国史上最大の銀行強盗事件なのに、新聞はまったく報道しなくなる。どうしてかというと、政府が歴史上数回しか発したことがない「D通告」を発したからという。「D通告」というのは国家安全保障上の理由から、特定のテーマに関する報道を控えるよう報道機関に要請するというもの。なぜ政府はそんな要請を行ったのか――。

 

貸し金庫からせしめて獲物を持って秘密のガレージに逃げ込んだテリーたちは、盗んだものを確認して驚愕する。

出てきたのは、各国の通貨や宝石だけでなく、政府高官が売春宿でふしだらな行為をしているところを隠し撮りした写真、さらにロンドンのウエスト・エンド地区の警察官たちが裏社会からワイロをもらっていたことを示す裏帳簿など。中でもスキャンダラスなのが、エリザベス女王の妹であるマーガレット王女のセックス写真だった。カリブ海のどこかで奔放に戯れ遊ぶ姿を何者かに盗撮されていたという。

イギリス国王の第2王女である人が何でそんなことをと思うが、マーガレット王女は実際さまざまな浮名を流してしていて、ゴシップ紙の常連になるような人だっていたという。

だが、彼女には同情の余地もある。彼女は14歳のとき、父親である国王の侍従武官で離婚歴のある男性に一目惚れして恋に落ちる。ずっとその男性を思い続けたが、25歳のとき、王位継承権を持つ人が16歳も年上の男と結婚するなんてとんでもないと周囲から大反対を受けて破局してしまった。

それで捨て鉢になったかかどうか知らないが、その後、何人かの上流階級の男性と浮名を流したあとは、貴族でも御曹司でもないファッション写真などを撮るカメラマンと結婚。しかし、夫の不倫などで結婚生活は早々と崩壊していて、のちに離婚してしまうのだが、本作で描かれているベイカーストリート強盗事件のころは、カリブ海の島で上流階級や大富豪などとパーティー三昧の日々を送っていた。自宅で雇っていた17歳年下の庭師と2人きりで旅行に出かけたところを写真に撮られマスコミに騒ぎ立てられたりもしたらしい。

しかし、そうした王女の乱れた生活は英国政府にとって表に出してはいけない“国家秘密”だったのだろう。スキャンダル写真が公になっては一大事というので、国内治安維持を担当する情報機関MI5は写真を闇に葬ろうとしていて、それが奪われたとわかって「D通告」が発せられたのだった。

しかも、追及の手はMI5からだけではない。売春宿でのスキャンダル写真を撮られた政府高官の側や、汚職警官を陰で操る裏社会のボス、ワイロをもらっていた汚職警官自身も、血眼になってテリーたちに迫っていく。

前半は銀行強盗、後半はだましだまされる追跡劇と2部構成みたいになっている本作は、1粒で2度おいしいグリコみたいな映画だった。

 

ついでにその前に観た映画。

民放のCSで放送していたアメリカ映画「ブラック・スキャンダル」。

2015年の作品。

原題「BLACK MASS」

監督スコット・クーパー、出演ジョニー・デップベネディクト・カンバーバッチジョエル・エドガートンケビン・ベーコンほか。

ジョニー・デップがFBI史上最高の懸賞金をかけられた実在の凶悪犯ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャーを演じたクライムドラマ。

 

1970年代、サウス・ボストン。ここで生まれ育った幼なじみの3人は長じて、ホワイティはアイルランド系マフィアのボス(ジョニー・デップ)、ジョンはFBI捜査官(ジョエル・エドガートン)、ホワイティの弟であったビリーは州上院議員ベネディクト・カンバーバッチ)となる。3人は密約を結び、共通の敵であるイタリア系マフィアの駆逐を図る。

しかし、歯止めのきかなくなったホワイティは法の網をかいくぐって絶大な権力を握るようになり、ボストンで最も危険なギャングへとのし上がっていく・・・。

 

ホワイティは実在の人物で、FBIの情報提供者となって自分の縄張りを荒らすマフィアを追い払うため、30年間にわたってマフィアの情報を提供。一方でその立場を悪用して数々の犯罪を引き起こしてきたという。

しかし、やがて殺人などの犯罪が明らかとなり、ホワイティは逃亡。彼を手助けしたFBI捜査官のジョンは第二級謀殺の有罪判決を受けて40年の刑が宣告され、ホワイティの弟のビリーは上院議員を辞職し、マサチューセッツ大学の学長になったがジミーと連絡を取り続けていることがわかって辞任する。

ホワイティは16年にわたり逃亡生活を送った末、2011年に逮捕され、殺人11件、恐喝、強要、マネーロンダリング資金洗浄)、銃器の不法所持などの罪で2回の終身刑をいい渡される。服役中の2018年に獄中死。享年89という。

 

映画が始まったとき、主役のホワイティ役のジョニー・デップは、とてもジョニー・デップに見えなかった。

パイレーツ・オブ・カリビアン」のジャック・スパロウなど実在しないキャラクターのときはけっこう誇張したメイクだが、実在した人物を演じるときは「その人、真実、歴史に対する責任を背負うことになる」として、外見をできるだけ正確に再現することにつとめるという。このため、本作では頭がはげた姿を演じるため、特殊メイクに毎日2時間かけたんだとか。

そういえば「MINAMATA-ミナマタ-」で写真家のユージン・スミスを演じたときも、かなり本人に近いメイクや演技にこだわったようで、ユージン・スミスと行動を共にした元妻で映画の製作にも協力したアイリーン・スミスさんは、撮影中に「ユージンがいる」と思えた瞬間があった、と話していた。

 

民放のCSで放送していたイタリア・スペイン合作の映画「さすらいのガンマン」。

1966年の作品。

原題「NAVAJO JOE」

監督セルジオ・コルブッチ、主演バート・レイノルズ、ニコレッタ・マキャヴェッリ、アルド・サンブレル、タニヤ・ロペールほか。

アメリカ先住民ナバホ族の平和な集落が、ある日突然、無頼の盗賊に襲われた。一味の首領はダンカン(アルド・サンブレル)という残忍な男であった。集落は一瞬にして灰と化したが、ただひとりジョー(バート・レイノルズ)だけが生き残った。

一味はその後も悪事を重ね、現金輸送列車を襲撃したり、例によって何の罪もないインディアンを殺し、町を破壊していったが、やがてジョーによる復讐が始まる・・・。

 

いわずと知れたマカロニ・ウエスタン。

同種の映画は数あれど、主人公は邦題にあるようなガンマンではなく、すこぶる腕の立つネイティブアメリカンの男。残忍な場面もあったが見応えのある作品だった。

とても気に入ったシーンがあった。

ジョーは町の人に「町を守ってやるから自分を保安官にしろ」というが、それを聞いた保安官が「アメリカ人しか保安官になれない」と鼻で笑ったのに対して、ジョーの反論。

「お前の生まれはどこだ?どうせ移民でやってきたんだろう。おれたちは父親も祖先もずっとここで生まれ、育った。本当のアメリカ人はおれたちだ」

聞いてて思わず拍手したくなった。

 

監督のセルジオ・コルブッチは、セルジオ・レオーネと並ぶマカロニ・ウエスタンの人気監督で、同じ年にフランコ・ネロ主演の「続・荒野の用心棒」も撮っているからすごい量産ぶりだ。

映画が始まって冒頭の音楽がいかにもエンニオ・モリコーネっぽかったので、クレジットを注目して見ていたら、「レオ・ニコルス」とあった。なんだ違うのか、モリコーネの弟子かな、と思ったら、あとでエンニオ・モリコーネの変名とわかった。

何でも、アメリカ向けの映画ではこの名を使っているのだとか。そういえば配給はアメリカの会社だったし、セリフも英語だった。

原題の「NAVAJO JOE」と歌うメロディーが繰り返し流れる。おかげで映画が終わったあともしばらく「ナバホ・ジョー」のメロディーが頭から離れなかった。

ジョーと悪党どもとの対決の場面では雄たけびや強烈なドラムの響きが入ったりして、哀愁とエキサイティングがまぜこぜになったようなモリコーネの音楽だった。