善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「エンパイア・レコード」「彼岸花」

いつもは日本酒だが,たまに飲むワイン。

スペインの赤ワイン「3055・メルロ・プティ・ヴェルド(3055 MERLOT PETIT VERDOT)2020」

(写真はこのあと牛肉の山椒風味焼き)

ワイナリーのジャン・レオンとは創業者の名前。彼は19歳のとき、貧しいスペイン移民としてアメリカに渡り、さまざまな職をへてニューヨークでレストラン経営に成功。第2の夢としてカタルーニャでワイナリーを立ち上げた。

ラベルにある「3055」とは、若き日のジャン・レオン氏がニューヨークに渡って最初に就いたタクシー運転手のライセンス番号という。初心忘れるべからず。

フレッシュかつスパイシーな調和の取れた味わい。

 

ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していたアメリカ映画「エンパイア・レコード」。

1995年の作品。

監督アラン・モイル、出演リヴ・タイラーレニー・ゼルウィガー、アンソニー・ラパリア、ロリー・コクレーン、ジョニー・ホイットワース、ロビン・タネイほか。

買収の危機にさらされた老舗のレコード店を舞台に、個性的すぎる店員たちが巻き起こす騒動を描いた青春コメディ。

店が大手レコード店に吸収合併されるのを知ったルーカス(ロリー・コクレーン)は、買収を食い止めるため入金するはずの9000ドルを持ってカジノへ。しかし、結果はすってんてん。翌朝、それを知った店長のジョー(アンソニー・ラパーリア)はカンカンになるがすでに後の祭り。

A.J.(ジョニー・ホイットワース)は、コリー(リヴ・タイラー)に愛の告白をするつもりだったが、彼女はキャンペーンで来店する落ち目のアイドルに「処女を捧げるわ!」と舞い上がっていて、コニーやジーナ(レネー・ゼルウィガー)とソリが合わないデブラ(ロビン・タニー)は、遅刻してきたからと自分の頭を丸刈りにしてしまう。

そんなハチャメチャな店員たちが、店の存亡の危機を知って一致結束。チャリティーライブを開くことを思いつく・・・。

 

リヴ・タイラーは本作の当時18歳。その後、2001年からの「ロード・オズ・ザ・リング」シリーズにアルウィン役で3作連続で出演。当時26歳のレネー・ゼルウィガーも2001年公開の「ブリジット・ジョーンズの日記」でアカデミー主演女優賞にノミネートされた(19年の「ジュディ 虹の彼方に」でアカデミー主演女優賞を受賞)。

今をときめくハリウッド・スターたちの駆け出しのころがわかるのが古い映画を見る楽しみ。

 

ついでにその前に観た映画。

民放のBSで放送していた日本映画「彼岸花」。

1958年の作品。

監督/小津安二郎、脚本/野田高梧、小津安次郎、原作/里見弴、出演/佐分利信有馬稲子山本富士子久我美子田中絹代佐田啓二高橋貞二笠智衆桑野みゆき浪花千栄子渡辺文雄中村伸郎、北竜二、高橋とよ、長岡輝子ほか。

小津監督初のカラー作品。デジタル修復版なので60年以上前の作品とは思えないほどの鮮明な画像。

出演陣はどなたも懐かしい顔ぶれ。たしか、有馬稲子山本富士子久我美子の3人は90代、桑野みゆきは80代でお元気のはずだが。

 

会社常務の平山(佐分利信)は、妻・清子(田中絹代)とともに出席した旧友・河合(中村伸郎)の娘の結婚式に、同期仲間の三上(笠智衆)が現れないことを不審に思っていた。実は三上は自分の娘・文子(久我美子)が家を出て男と暮らしていることに悩んでおり、いたたまれずに欠席したのだった。三上の頼みで平山は銀座のバーで働いているという文子の様子を見に行くことになる。

一方の平山にも、適齢期を迎えた娘・節子(有馬稲子)がいた。彼は節子の意思を無視して条件のいい縁談を進める傍ら、平山の馴染みの京都の旅館の女将・佐々木初(浪花千栄子)の娘・幸子(山本富士子)が見合いの話を次々に持ってくる母親の苦情をいうと「無理に結婚することはない」と物分かりのいい返事をする。

しかし、節子には、親に黙って付き合っている谷口(佐田啓二)という相手がいた・・・。

 

主人公の会社や家庭の様子、旧友仲間が料理屋で飲むシーンなど、登場する役者の顔ぶれからセットのつくり方までを含めて、以前に観た「秋刀魚の味」とまるで同じ。しかし、「秋刀魚の味」は1962年の作品だから本作の方が古い。

両作品ともテーマは共通していて、初老の父親と婚期を迎えた娘との関わりが、父親の「頑固さ」や「老い」とともに描かれている。本作の父親は佐分利信で「秋刀魚の味」は笠智衆。頑固度は佐分利信のほうが強そうで、小津監督は、役者を変えることにより同じテーマをより味わい深くしようとしたのだろうか。

 

頑固度のより強い佐分利信が父親の本作は、他人には娘の自由恋愛を認める一方で、自分の娘には自分のメガネにかなった相手でなければ結婚を許さないという、かなり自分勝手な昭和的頑固オヤジ。

しかし、そんな古きよき?時代の家父長的オヤジの時代も、もう終りですよ、ということをこの映画はいってるようだった。

夫に従うばかりで何でもハイハイいってる妻の田中絹代の、夫の見てないところでの不敵な笑顔、関西弁をまくしたてる浪花千栄子山本富士子親子のあっけらかんとした明るさがそれを暗示している。

さらに、おそらく旧制中学時代の友人同士なのだろう、同窓会の旅行に出かけ、旅館で笠智衆漢詩を吟じるシーンがある。元田永孚(もとだ・ながざね)という人の「楠帯刀の歌」と題する漢詩で、「楠木正行(まさつら)、如意輪堂の壁板に辞世を書するの図に題す」と吟じ始め、けっこう長い時間、えんえんと詩吟が続く。

この「楠帯刀の歌」というのは楠木正成の子・正行の父への忠節、さらには天皇への忠節を称えたもので、元田永孚明治天皇の侍講、つまり教育係を長い間勤め、教育勅語の起草にもあたった人物。この詩を彼は1877年(明治10年)11月21日の観菊の宴で明治天皇の前で披露したという。

笠智衆の詩吟にジッと聞き入る佐分利信を始めとする家父長的オヤジたち。

笠智衆が「もうこれくらいでいいだろう」と途中でやめると、オヤジたちはいっせいに楠木正行にまつわる伝承「桜井の別れ」を歌った明治時代の唱歌「桜井の訣別」を大声で歌い出す。「桜井の別れ」は忠臣愛国・仁義忠孝の物語として、軍国主義時代の戦前の修身や国史の教科書に必ず載っていた逸話という。

「青葉茂れる桜井の・・・」

昔の人はこの歌を何も見ないで歌える。「教育勅語」と同じように学校で教えられ、覚えさせられ、だれもが暗唱できるほどの歌だったのだろうが、いかにもノスタルジックで、時代錯誤感がありありとしたシーンだった。

歌い終わって、感無量だったのかもしれないが、半分はやけっぱちで、虚しい気持ちのほうが強かったに違いない。翌日、みんなと別れた佐分利信は、京都の浪花千栄子の家に寄ってから、あれだけ娘の結婚に反対していたのに、転勤で広島に引っ越した2人に会いに行くのだった。