善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「天才作家の妻 40年目の真実」他

イタリア・ピエモンテの赤ワイン「ドルチェット・ダルバ(DOLCETTO D’ALBA)2021」

(写真はこのあと牛焼肉)

はるか14世紀のころトスカーナ州フィレンツェでワインづくりを始めたというアンティノリが、イタリアの北西部、アルプス山脈の南西麓に広がるピエモンテで手がけるプルノットのワイン。

ブドウ品種はピエモンテの固有品種ドルチェット。

プルノットはピエモンテ州ランゲ丘陵のタナロ川の右岸に位置しているが、このあたりのブドウ畑の景観は2014年に世界遺産に登録されている。

 

ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していたスウェーデンアメリカ・イギリス合作の映画「天才作家の妻 40年目の真実」。

2017年の作品。

原題「THE WIFE」

監督ビョルン・ルンゲ、出演グレン・クローズジョナサン・プライスクリスチャン・スレーターほか。

“天才作家の妻”を演じたグレン・クローズアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、彼女にとって7度目のアカデミー賞候補になったが、結局、受賞を逃した。

しかし、本作は彼女の演技を見るための映画といえるほどの作品。

 

 “現代文学の巨匠”と呼ばれているアメリカの作家ジョゼフ(ジョナサン・プライス)はノーベル文学賞を授与されることになり、妻のジョーン(グレン・クローズ)と息子とともに授賞式が行われるストックホルムにやってきた。

だが、彼らの前に記者ナサニエルクリスチャン・スレーター)が現れたことで状況は一変する。ナサニエルはかねてからジョゼフの経歴に疑いを抱いており、彼らを執拗に追い回し、問いただす。

実はジョーンとジョゼフの間には、他人には、家族にさえも明かせない「秘密」があった。

ジョーンは学生時代から豊かな文才に恵まれており、かつて作家を志していたが、それを断念した過去がある。ジョゼフと結婚後、ジョーンは夫のゴーストライターとなり、世界的作家となる彼の成功を支えてきていたのだった。

ところが、これまで一見完璧に見えた2人の関係が、ジョゼフのノーベル文学賞受賞をきっかけに崩壊していく・・・。

 

ノーベル賞の授賞式に向かうためアメリカからコンコルドで飛んでいくシーンがあったから、コンコルドが就航していた2003年以前の物語だろうと思ったが、時代背景は1992年だという。

そのころの出版業界は今以上に男社会で、女性作家は軽く見られ、「女性作家の小説は売れない」と烙印を押されていて、才能ある女性が夢を諦めて家庭に入ったケースも少なくなかった。

本作の主人公のジョーンも、女性蔑視の風潮に失望して作家になる夢を諦め、ジョゼフとの結婚後は彼の“影”として自らの才能を捧げ、夫を支え続けたのだった。

ノーベル賞受賞式とその後の晩餐会のシーン。ずっと夫の“影”として尽くしてきた複雑な感情をひた隠しにした彼女は、夫とともに会場に向かう。

人生最高の晴れ舞台でスポットライトを浴びる晴れやかな顔の夫。実際には性欲だけは旺盛で二流の小説家でしかないのだが、そんな夫とは対照的に、“天才作家の妻”として慎ましくするしかなかった彼女。

長年連れ添った夫婦の絆を大切にしようと耐えてきた彼女だったが、ノーベル賞授賞式という世界中が注目する眩いばかりの華麗な一大イベントがきっかけとなって、ついに彼女の心に火がつく。本当の自分の人生を取り戻そうと行動に出るのだった。

 

原作は2003年に出版されたアメリカの作家メグ・ウォリッツァーの小説「妻」(原題は映画の原題と同じ「THE WIFE」)で、夫はフィンランドのあまり有名ではない賞を受賞する設定になっているらしいが、それを大胆にもノーベル賞にしちゃうところがいかにもハリウッドらしい。

 

ついでにその前に観た映画。

民放のBSで放送していた韓国映画「偽りの隣人 ある諜報員の告白」。

2020年の作品。

原題「BEST FRIEND」

監督イ・ファンギョン、出演チョン・ウ、オ・ダルス、キム・ヒウォンほか。

 

軍事政権下の韓国で、民主化を求めて自宅軟禁された政治家と彼を監視する諜報員との不思議な交流を描いた映画。

1985年、国家による弾圧が激しさを増す韓国。野党政治家イ・ウィシク(オ・ダルス)が次期大統領選に出馬するために帰国した。空港に到着したウィシクは国家安全政策部により逮捕され、自宅軟禁を余儀なくされた。

ウィシクを監視するため、諜報機関愛国心だけは人一倍強いユ・デグォン(チョン・ウ)を監視チームのリーダーに抜擢。隣家に住み込んだデグォンは、24時間体制でウィシクの監視任務に就くことになった。

デグォンは盗聴器ごしに聞こえる、家族を愛し、国民の平和と平等を真に願うウィシクの声を聞き続ける中、上層部への疑問を抱くようになる。そんな矢先、ウィシクと彼の家族に命の危険が迫り・・・。

 

映画の冒頭、「この映画はフィクションです」と断り書きが出るが、始まってすぐに、時は1985年で、大統領選挙に出馬するため帰国し自宅に軟禁された野党政治家とは、のちに第15代大統領となるキム・デジュン(金大中)であり、彼がモデルの映画とすぐにわかる。

実在のキム・デジュンはまさしく1985年2月、チョン・ドゥファン(全斗煥)が大統領の軍事政権下で、亡命先のアメリカからの帰国を強行するも軟禁状態に置かれる。その後、公民権を回復して87年の大統領選挙に出馬している(このときは敗れて97年の選挙で当選)。

韓国ではパク・チョンヒ(朴正煕)による軍事クーデター以降、軍事独裁政権が続いていたが、パクが3期目をめざした71年の大統領選挙にキム・デジュンが野党の代表として立候補し、パクに僅差にまで迫った。その後、彼は韓国中央情報部(KCIA)のターゲットになり、大統領選挙の直後には交通事故を装った暗殺工作に遭い、73年には日本に滞在中にKCIA工作員に拉致され、危うく抹殺されかかる。

80年には、民主化を求めて活動中だったキムが逮捕されたのがきっかけとなって、流血の大惨事となる「光州事件」が起きている。

映画で描かれているのは、韓国の人々が権力によって苦しめられ、自由にものがいえなかった時代。そんな時代背景を観客は当然知っていて、シリアスな物語として始まるのだが、イ・ウィシクを24時間監視するチームのメンバーがみんなドジなものだからコメディのような展開に大いに笑いが出て、何だか肩がほぐれる感じとなる。

それはどうやら監督が意図したことみたいで、イ・ファンギョン監督はインタビューで、実際に韓国の1980年代半ばはこの映画のように決して笑いに変えられる状況ではなく、多くの人々が憂うつな日々を過ごしていた。だからこそ、ただ暗いだけではダメで、戯画化したかった、というようなことを語っている。

作家で劇作家の井上ひさしの言葉に「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」というのがあったが、どこか通じるところがあるかもしれない。

 

民放のBSで放送していたアメリカ映画「愛されちゃって、マフィア」。

1988年の作品。

原題「MARRIED TO THE MOB」

監督ジョナサン・デミ、出演マシュー・モディーンミシェル・ファイファー、ディーン・ストックウェル、マーセデス・ルール、アレック・ボールドウィンほか。

 

マフィアのフランク(アレック・ボールドウィン)を夫に持つアンジェラ(ミシェル・ファイファーは、豪華な家具に囲まれて暮らしているが、それらは夫が持ち込んだ盗品で、彼女は夫との生活に内心うんざりしていた。

そんなある日、ファミリーの親玉トニー(ディーン・ストックウェル)の愛人と浮気していたフランクが、浮気がバレて殺害されてしまう。

未亡人になったアンジェラは盗品をすべて処分し、息子を連れて安アパートに引っ越して新生活を始めるが、彼女にぞっこんのトニーが猛烈なアプローチを仕かけてくる。

一方、トニーを逮捕するため潜入捜査していたFBI捜査官マイク(マシュー・モディーン)は、アンジェラの家に盗聴器を仕込み監視するが、次第に彼女に惹かれていく・・・。

 

韓国映画の「偽りの隣人 ある諜報員の告白」は隣家から諜報機関が盗聴するが、本作ではアパートの上の階から盗聴し、やがて両者が親密度を増していくところは同じ。

原題の「MARRIED TO THE MOB(MOBと結婚)」の「MOB」とは、ギャング・マフィアなどのヤクザ集団のことらしい。「MOB」はほかに「群衆」「民衆」などの意味があり、アニメ用語の「モブキャラ」は「その他大勢の名前のないキャラクター」のこと。

 

映画が始まってまず二枚目俳優のアレック・ボールドウィンが出てきたから、彼が主役かと思ったらすぐにマフィアのボスに殺されてしまい、アレレ主役はだれ?

すると、つぎにまた二枚目(FBI覆面捜査官役のマシュー・モディーン)が出てきて、彼こそ主役と思って見ていくと、まさしく主役だった。

しかし、敵役のマフィアのボス役のディーン・ストックウェルが、悪役なんだけどなかなか笑わせる演技で目立っていて、彼はこの映画でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされた。

また、やはり映画が始まってすぐに「マンボ・イタリアーノ」という曲が流れた。「マンボ・イタリアーノ、ヘイ・マンボ!」と歌うノリのいい曲で、この映画のテーマ曲かと思ったら、つくられたのは1954年。全米10位にランクされたヒット曲で、翌55年にソフィア・ローレン主演のイタリア映画「殿方ごろし(原題PANE,AMORE E...)」という映画の中で使われたそうで、いろいろと勘違いすることの多い映画だった。

だいたいいつも、新聞のラテ欄などから適当に選んで録画しておいたのを何日かあとになって観るが、いつも予備知識なく観るものだから、意外な“出会い”や“発見”があったりする。それがまた映画を観る楽しみでもある。