善福寺公園めぐり

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きのうのワイン+映画「遠い太鼓」「未来世紀ブラジル」

イタリア・ヴェネト州の白ワイン「ヴィニエティ・デル・ソーレ・ソアーヴェ(VIGNETI DEL SOLE SOAVE)2020」

イタリア東北部ヴェネト州ヴェローナの北、ワイン生産地として知られるヴァルポリチェッラで最近、新石器時代の6300年前のブドウの花粉と種子が発見されたという。ということはすでにこのころからここではブドウ栽培が行われていて、ワインがつくられていたかもしれない。

そのヴァルポリチェッラの東にあるソアーヴェ村周辺でつくられるのがイタリアを代表する白ワインで、さわやかなレモン、ライムなどの柑橘類の香り。 

 

ワインの友で観たのは、NHKBSで放送していたアメリカ映画「遠い太鼓」。

1951年の作品。

原題「DISTANT DRUMS」

監督ラオール・ウォルシュ、出演ゲーリー・クーパー、マリ・アルドン、リチャード・ウェッブほか。

 

ゲーリー・クーパー主演で、「真昼の決闘」の前年の1951年の作品、題名が「遠い太鼓」というので、てっきり西部劇かと思ったら、湿原の広がるフロリダを舞台にアメリカ軍と先住民との壮絶な戦いを描く戦争歴史映画だった。

 

1776年7月4日の独立宣言により東海岸の13州から出発したアメリカは、先住民を追い立てながら西へ南へと入植地を広げていくが、南部のフロリダ地方では7年間にわたり先住民のセミノール族との戦争が続いていて、熾烈を極めていた。

その戦争さなかの1840年アメリカ海軍はフロリダの沼地に浮かぶ島で防備にあたっていたワイアット大尉(ゲーリー・クーパー)のもとへ海軍の部隊を送る。

ワイアット大尉の指揮のもと、セミノール族が根城にしていた砦を破壊することに成功し、捕虜となっていた民間人の男女を救う。アメリカ海軍の奇襲に気づいたセミノール族の戦士は群れをなして追いかけてくる。ワニや毒蛇がうごめく湿地帯での逃避行と、先住民との戦いが始まる・・・。

 

1951年という時代背景もあって、先住民は野蛮なインディアンとして描かれ、白人が勝利をおさめる。唯一の救いは、主人公のワイアット大尉の亡くなった妻は先住民で、2人の間には息子がいて大事に育てられていた、ということか。

西部劇に出てくる軍隊というとアメリカ陸軍所属の騎兵隊だが、本作はフロリダで海軍が活躍する物語。フロリダは沼など湿地が多い地域だけに、海軍が先住民との戦いで大きな役割を果たしていたようだ。

今でいうなら海兵隊なのか、隊員たちはランドセルみたいな小型のバッグを背負っていたが、当時の制服や装備を再現したものなのだろう。

手づくりの舟などで川や沼地を決死の覚悟で行軍し、ホンモノの砦での大爆発、水中での決闘と、70年前の作品とは思えないほどのかなり凝った映像。

映画の最後に、特別の許可を得てフロリダの国立公園内や、かつてスペインが築いた石づくりの砦(1819年に買収するまでフロリダはスペイン領だった)でのロケを敢行したとクレジットにあった。

フロリダ半島の最南端に、今は世界遺産にも選ばれているエバーグレーズ国立公園があり、ここは淡水と海水が交わる広大な湿地帯として有名なところ。ワニのアリゲーターやクロコダイル、野鳥などが多数生息している。本作の撮影はここで行われたという。

また、映画で使われた砦は、やはりフロリダ州セントオーガスティンにあるサンマルコス砦というアメリカ本土における最古の石造要塞で、フロリダがスペイン領だったころの1695年につくられた。

今だったらこんなところで火薬を爆発させたりしてロケするなんてとても難しいだろうが、当時は許された。その意味でも歴史的な映画といえる。

 

その前に観た映画。

民放のBSでだいぶ前に放送していたイギリス映画「未来世紀ブラジル」。

1985年の作品。

原題「BRAZIL」

監督テリー・ギリアム、出演ジョナサン・プライス、キム・グライスト、ロバート・デ・ニーロマイケル・ペイリンほか。

 

テリー・ギリアム監督の「バロン」(1988年製作)が面白かったものだから、彼の監督作品というので録画しておいたもの。「バロン」は荒唐無稽、奇想天外なバカバカしさを通り越した面白さがあったが、本作は、徹底的に情報管理された近未来社会を描きつつ現代社会を風刺するSFふうの映画だった。

 

20世紀のどこかの国。中央政府の情報管理により、国民は厳しく統制・管理され、それに反発する爆弾テロが頻発していた。そんな中、情報省のコンピューターがテロの容疑者「タトル」を「バトル」と打ち間違え、無実の男性バトルが強制連行されてしまう。

その一部始終を目撃した上階の住人ジル(キム・グライスト)は誤認逮捕だと訴えるが、取り合ってもらえない。情報省に務めるサム(ジョナサン・プライス)は、上司の頼みで誤認逮捕の責任回避をしようとするが、同時に彼の心の中には自分の仕事に対する疑問が生まれていた。

抗議にやってきたジルと出会ったサムは、やがて彼女と恋に落ちる。彼女が逮捕されると彼は彼女を助け出し、2人は逃亡を始めるが・・・。

 

管理社会への風刺がテーマ。しかし、主人公はそれと立ち向かうというより、逃げて逃げて逃げてばかりいる。

題名に「ブラジル」とあり、全編にわたってブラジルの作曲家アリ・バホーゾが1939年に作詩・作曲したサンバ曲(「ブラジルの水彩画」、英語圏では「ブラジル」の名で知られるという)が流れるが、ブラジルが出てくるわけではない

なぜブラジルなのか。ギリアム監督は、イギリスの工場の近くで撮影をしていたとき、夕陽が沈もうとする光景を見て「こんな薄汚れた場所でも楽園をイメージさせる音楽を聴けば、一瞬でもブラジルの美しい砂浜にいる気分なることができるだろうか?」と思ってサンバの曲「ブラジル」をバックに流し、題名をブラジルにした、というようなことをインタビューで語っている。

逃げて逃げて結局は悲劇的に終わる物語を楽天的な音楽で彩ることで、風刺をより際立たせようとしたのだろうか。

エンディングを巡ってギリアム監督と映画会社の間で意見が衝突したため、複数のバージョンが存在するという。

ギリアム監督のオリジナル版は、ハッピーエンドに終わったように見せてそれは夢だったとして悲劇的な終わり方。一方、映画会社の方は、悲劇で終わる最後の部分はカットして一般受けするハッピーエンドバージョン。

ハッピーエンドバージョンはアメリカでテレビ放送され、ギリアム監督が自ら再編集したオリジナル版は劇場公開された。きのう観たのもオリジナル版だった。