善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

1985年初演の「ジャガーの眼」舞台映像

1985年に初演されたときの唐十郎率いる状況劇場による「ジャガーの眼」の舞台映像を、東京・品川区の天王洲アイルで観る。

りんかい線天王洲アイル駅から5分ほどのところにある寺田倉庫E HALLで開催された「天王洲電市」での上映会。コロナ禍で舞台芸術業界が危機に陥ったため、文化庁の文化芸術収益力強化事業の一環として緊急事態舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(EPAD)というのがスタート。EPAD事業はオンラインにも力が入れられているが、上映会も行うというので出かけていった。

 

かつて状況劇場はアングラ演劇を牽引し、紅(あか)テントで知られる。2000年前後あたりに黒テントの舞台は何回か観たが、紅テントの芝居は舞台も映像も初めて。

1985年6月15日の新宿・花園神社境内に設置した紅テントでの公演を、開場前の境内に観客が集まっている様子からカーテンコール、観客がゾロゾロ退場していくところまで、記録映画ふうに撮影していて、むろん舞台は完全収録。

ジャガーの眼」の初演は同年の4月で、その後6月にかけて連続して上演されているから、6月15日の公演は連続上演の最後のほうのようだが、客席は満員で、熱気であふれ返っていた。

だからなのか、役者は興奮しきって怒鳴りまくっている感じで、何をいってるのか、唐十郎のセリフも含めてまるでわからない。客席の観客たちもわからずに見てたのではないか。

2Kで撮ってるから映像もくっきりしてないし、録音もよくないからなおさら聞き取りにくいのかもしれないが、それがかえって記録映画ふうになっていて臨場感を醸し出していた。

 

幸いなことに2014年6月に、同じ花園神社の境内に特設された紫テントで新宿梁山泊の「ジャガーの眼」を観ているので、だいたいの話のスジはわかる。

人から人へと移り渡る“ジャガーの眼”と呼ばれる眼球をめぐる物語。

失った自分の片目の代わりに、ジャガーの眼を移植した青年しんいち。そのジャガーの眼はかつての持ち主の恋人のくるみを呼び寄せ、青年を平凡な日常から非日常へと導いていく。一方の探偵・田口は、助手くるみの依頼を受けて、“幸せのリンゴ””を追って路地をさまよう・・・。

 

記録映像で初演当時の「ジャガーの眼」を観て、唐十郎の演劇が少しはわかるようにな気がした。

彼の芝居の原点はきっと、生まれ育った浅草の芝居小屋や見世物小屋だったのだろう。

だから神社の境内にテント小屋を建て、あえて昔の下町の場末の大衆演劇を彷彿させる熱気ムンムンのドタバタ劇をやって、山の手ふうの上品な新劇に逆襲したのではないか。

だから彼の芝居は決して難解な前衛劇ではなかった。観客を楽しませるエンターティメントだった。

 

観ていて気になったのが「善福寺」を連発していたこと。これは2014年に新宿梁山泊の公演を観たときも同じだが、しきりに「善福寺」や「善福寺川」の地名が出てくる。

毎朝、善福寺公園を散歩している本ブログとしては気になるのも当然だ。

どうやら、ジャガーの眼の元の所有者は、くるみと一緒に善福寺川のそばのアパートで暮していたことがあったらしく、それでジャガーの眼の記憶の中で「善福寺」が出てくるようだ。

ではなぜ、作者の唐十郎ジャガーの眼の元の所有者を善福寺川に住まわせたかといえば、彼は生まれ育ちは台東区だが、大人になってから善福寺に近い西荻窪に住み、その後も本天沼、南阿佐谷、成田東と移り住むなど善福寺川周辺と縁が深かったようだ。南阿佐谷には、自宅を兼ねた状況劇場の稽古場があったという。

さらに、もともと「ジャガーの眼」は、1983年に亡くなった唐十郎の先輩である寺山修司の追悼作品としてつくられたもので、寺山修司も杉並区と縁が深い。

彼は新婚時代を永福町で送っているし、劇場を出て、街の真っ只中で観客も役者も住民も劇中に巻き込む“市街劇”を上演したとき、舞台となったのが荻窪や阿佐谷、それに善福寺川流域のあたりだった。

ジャガーの眼」の劇中、「善福寺川の雲になります!」というセリフがあったが、あれは寺山修司への熱い思いを言葉にしたのかもしれない。

 

記録映像が終わったのがちょうどお昼ごろで、会場近くの「ホワット・カフェ」というレストランで昼食。

2人で行ったので、サバの文化干しと厚切りポークのランチをシェアして食べる。

 

寺田倉庫E HALLから天王洲アイル駅にかけての街の風景。

天王洲アイルは運河に囲まれた水辺の街。江戸時代から倉庫街として栄えてきたというが、今はオフィスや高層住宅も多いみたいだ。

街を歩くと変わった建築やアート作品を目にする。

三味線を弾く女性を描いた巨大壁画。

東横INN品川港南口天王洲アイルの壁一面に描かれたもので、タイトルは「“The Shamisen” Shinagawa 2019」。作者はアメリカ・カリフォルニア州生まれのARYZ(アリス)さん。

浮世絵を題材にしたものという。

向かいの塀にもアート作品。

壁画アートを中心に活躍するDIEGO(ディエゴ)さんが天王洲アイルの活気あるイメージを表現した作品だとか。

 

これもアートかしら?

 

帰りに、たまに行く最寄り駅近くの魚屋をのぞくと、おなかプリプリで肝がたっぷりの旬のカワハギを見つけて購入。

ついでに買ったナマコとともに晩の食卓へ。

カワハギは刺し身にして、たっぷりの肝醤油でいただき、骨まわりは煮つけにする。

ついつい酒の進む夕食でした。