舞台映像の「上映」の可能性を探る連続上映会を行っているEPADによる井上ひさし作「天保十二年のシェイクスピア」2002年上演作品のデジタルリマスター上映を渋谷PARCO劇場で見る。
EPADとは「緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業」の略で、もともとはコロナ禍で舞台芸術業界が危機に陥った際、文化庁の文化芸術収益力強化事業の一環としてスタートした事業だが、舞台作品の高画質&高音質収録や各所に散らばっている舞台映像の収集を行なう一方、上映会も行っていて、今年1月には1985年に初演されたときの唐十郎率いる状況劇場による「ジャガーの眼」の舞台映像を東京・品川区の天王洲アイルで上映している。
「天保十二年のシェイクスピア」は1974年1月初演で井上ひさしの比較的初期の作品。こまつ座(井上ひさし主宰で井上作品のみを上演する劇団)ができる前で、西武劇場プロデュースとして出口典雄演出により上演された(キャストは木の実ナナ、峰岸隆之介(峰岸徹)ほか)。
江戸末期の下総国の旅籠(はたご)街・清滝村が舞台で、旅籠を仕切る老侠客と3人の娘たちによる身代譲りを発端にした骨肉の争いを描いているが、講談・浪曲で人気だった「天保水滸伝」に出てくる侠客たちとシェイクスピア全37作品が融合した壮大な音楽劇、というより、井上ひさしの“遊び心”あふれた作品といえようか。このとき井上ひさし39歳。言葉の探求者としての彼の若さが爆発した作品となっている。
シェイクスピア全作品の要素を盛り込んだ大作であるため初演時の上演時間は4時間以上に及び、そのためか、その後、再演されることはなかった。
このころ井上ひさしは小説でも分厚いのを出していて、1981年に単行本となった「吉里吉里人」は小さい文字で2段組834ページもあり、枕替わりになるほどの本の厚さだった(もちろん中身のおもしろさも分厚い)。
初演から28年もたった2002年、日本劇団協議会10周年記念公演として赤坂ACTシアターで(ほかに大坂でも)いのうえひでのり( 劇団☆新感線主宰)演出により再演され、そのときの映像が今回、上映された。
あまりにも長いというので鴻上尚史が企画監修という肩書きで戯曲のカットに関わっており、映像を見た限りでは上演時間が3時間40分ぐらいに縮まっていた。おかげでシェイクスピア全作品を網羅するという“お約束”が守られていないという批判もあるらしい。
出演は上川隆也、沢口靖子、古田新太、池田成志、阿部サダヲ、橋本じゅん、西牟田恵、熊谷真実ほか。
演出のいのうえひでのりはロックやヘビメタを大音量に使ってライブコンサート並みの派手な照明を駆使するのが特徴の人だけに、本作もハードロックがにぎやかに、ミュージカル仕立ての刺激的というか騒々しい感じの舞台。
作品自体がシェイクスヒアの作品をパロディ化し、その上さらにエロと暴力と任侠で塗りたくっているだけに、江戸末期の猥雑な雰囲気を出すにはよかったかもしれないが・・・。
会場入口では「堀尾幸男 舞台美術の記憶Ⅰ」と題して舞台美術家・堀尾幸男の舞台作品の模型も展示されていた。
(歌舞伎座「三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち」2019年)
上映が終わったのは午後9時前。PARCO劇場Ⅰ階下の7階にあるオイスターの店「スパイラル渋谷パルコ店」が開いていた。
午後9時のラスト・オーダーに間にあって、岩ガキと真ガキ4種食べ比べとシーザーサラダを注文。
生ガキはどれもプリプリ・旨味たっぷり・ジューシーで、生ビールとの相性バツグンだった。