善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

渡辺保・高泉淳子 昭和演劇大全集

渡辺保高泉淳子『昭和演劇大全集』(平凡社)を読む。

渡辺保の『明治演劇史』を読んでいたら『昭和演劇史』も書いていると知り、手に取った次第。こちらは高泉淳子との対談集なので読みやすかった。

本書は、2007年3月から09年3月まで、NHKBSで放送した新劇から新派、新国劇東宝現代劇松竹新喜劇、アングラ劇、小劇場までの31本の舞台に京劇の来日公演について、2人が対談したのを480ページの本にまとめたもの。

渡辺氏は歌舞伎批評の第一人者としてつとに有名だが、ほかの新劇をはじめとする現代劇にも詳しく、さすがと思った。
ただし、読んでいくと、アングラ劇はどうも生理的にあまりお好きではないように感じたが・・・。
戦後のはじめから60年代、70年代ごろまでの芝居については渡辺氏の独壇場で、高泉サンはもっぱら聞き役。しかし、その後になると高泉サンが熱っぽく語りだして、その対比もおもしろかった。

ちなみに高泉サンは女優であり演出家、劇作家。遊◎機械/全自動シアターとかいう劇団をつくって活躍していたが、芝居はみたことない。子どもがまだ小さかったころ、フジテレビの「ポンキッキ」に出演していたのをついでに見ていて、騒々しい人だなーと思っていたが、その後、やはり女優の高畑淳子と混同したりしていた。

本書を読むと、なかなかいいことをいっている。本書の後半部分は渡辺サンより高泉サンの芝居の見方・感じ方に共鳴した。

それより、本書を読んで「へー!?」と思ったのが、「離見の見(りけんのけん)」ということ。
世阿弥が『花鏡』という伝書で述べていることで、これすなわち「役者は観客席から見ている観客の目を通して自分を見、演じなければいけない」という意味だという。

えっ? これってブレヒトの「異化効果」のことじゃないの? と思ったら、同じことを思った人がいて、それは、本書には出てこないが、能楽師で俳優の観世栄夫だった。

また、シェイクスピア研究の第一人者で、歌舞伎や能など日本の古典芸能にも精通している菅泰男サンという学者は『ヴァチカン献能記』でこう述べている。

「(ブレヒトの)『異化』は『同化』に対する『異化』、千田是也氏苦心の訳で、それに異論はないが、世阿弥には『離見』『離見の見』という言葉があって、この方がブレヒトの言葉のすなおな訳になるだろう」

なお、本書で取り上げられているのは次の32作品。

桜の園アントン・チェーホフ
「大寺学校」久保田万太郎
瞼の母長谷川伸
「元禄忠臣蔵・大石最後の一日」真山青果
「沢氏の二人娘」岸田國士
「火山灰地・第一部」久保栄
「花咲く港」菊田一夫
女の一生」森本薫
「夕鶴」木下順二
「炎の人・ゴッホ小伝」三好十郎
「近代能楽集」三島由紀夫
「どれい狩り」安部公房
「貴妃酔酒」ほか 京劇来日公演
「佃の渡し」北條秀司
「三人姉妹」アントン・チェーホフ
「マリアの首」田中千禾夫
村岡伊平治伝」秋元松代
「セツアンの善人」ベルトルト・ブレヒト
「マッチ売りの少女」別役実
ジャガーの眼唐十郎
船場の子守歌」松竹新喜劇
「美しきものの伝説」宮本研
「なぜか青春時代」蜷川幸雄清水邦夫
ベルサイユのばら・アンドルとオスカル」宝塚歌劇団
レミング 壁抜け男」寺山修司
アメリカ」「翼を燃やす天使たちの舞踏」佐藤信
「小町風伝」太田省吾
熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン」つかこうへい
上海バンスキング斎藤憐
「頭痛肩こり樋口一葉井上ひさし
鈴木忠志の「リア王ウィリアム・シェイクスピア
「小指の思い出」野田秀樹