善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「浮き雲」「アレクサンドリア」ほか

スペインの赤ワイン「セレステ・クリアンサ(CELESTE CRIANZA)2019」

フランスとの国境に近いバルセロナの近郊ペネデス地方でワインを造り続けて140年以上の歴史を持つトーレスのワイン。

標高900mの山の頂上、PAGO DEL CIERO(天空の畑)でつくられるワインだそうで、ワイン名の「セレステ」はスペイン語で「天空・星空」を意味し、畑から臨む満天の星空に由来しているんだとか。ラベルにも星座が描かれている。

テンプラニーリョ100%。

 

ワインを楽しんだあと観たのは、民放のBSで放送していたフィンランド映画「浮き雲」。

1996年の作品。

原題「KAUAS PILVET KARKAAVAT」

監督・脚本・編集・製作アキ・カウリスマキ、出演カティ・オウティネン、カリ・ヴァーナネン、エリナ・サロほか。

 

1990年代初頭、フィンランドは不況だった。伝統的スタイルのレストラン「ドゥブロヴニク」で給仕長を勤めるイロナ(カティ・オウティネン)は、路面電車の運転士である夫ラウリ(カリ・ヴァーナネン)とつましく幸せに暮らしていた。しかし不況の影響でラウリは整理解雇。「ドゥブロヴニク」も大手チェーンに買収され、イロナたち従業員は失職してしまう。

働き盛りのはずなのに、中年の夫婦は職探しに奔走する。苦労の挙げ句、イロナが自分でレストランを営むという目標を見つけ、2人は手を取り合って夢の実現に向かっていく・・・。

 

夫が失業し、妻も失業して、どんな展開になるのかと思ったら、夫婦愛の物語だった。

過去のない男」「街のあかり」へと続くアキ・カウリスマキ 監督のフィンランド三部作の第1作。監督独特の乾いたタッチなので夫婦愛といってもベタベタしたところはなく、どん底からたくましく立ち上がるフィンランド庶民の姿を描いている。

 

映画の中ではさまれるフィンランド歌謡が哀愁たっぷり。

 

邦題は「浮き雲」だが、原題の「KAUAS PILVET KARKAAVAT」もフィンランド語で「遥か彼方、雲は逃げる」といった意味で、やっぱり「浮き雲」らしい。

日本で「浮き雲」というと、「空に浮かんで漂う雲」が転じて「不安定でどこへ漂っていくか分からない身の上」といった意味で用いられていて、あまりいい意味には使われない。

そもそも「浮く」というのがフワフワした人の心をあらわすようで、和歌ではしばしば掛詞で使われていて「百人一首」にある「心にもあらで憂き世にながらへば恋しかるべき夜半の月かな」(三条院)という歌も、「憂き世」=「浮き世」だ。

しかし、フィンランドでは、少なくともアキ・カウリスマキ監督は、遥か彼方へ逃げていく雲を追いかけて、あるいはその雲に乗って夢を追いかけていく前向きさを示す言葉として「浮き雲」を使ってるみたいだ。

うーむ、国民性の違いかな?

 

ついでにその前に観た映画。

民放のBSで放送していたスペイン映画「アレクサンドリア」。

2009年の作品。

原題「AGORA」

監督・脚本アレハンドロ・アメナーバル、出演レイチェル・ワイズマックス・ミンゲラオスカー・アイザックマイケル・ロンズデールほか。

 

4世紀に実在した女性天文学者ヒュパティアを主人公にした歴史映画。

天文学の父といわれるガリレオ・ガリレイが生まれたのが1564年で、ヒュパティアが生まれたのは350年から370年の間とされる。370年の生まれとしてもガリレオより1200年近く前の人だ。

はじめは、4世紀の昔に女性の天文学者がいて、活躍する映画? ホンマかいな? と思いつつ観ていったが、かなり史実にもとづいて描いているみたいで、いろいろ学ぶことの多い映画だった。

 

舞台は激動のローマ帝国末期のエジプト・アレクサンドリア。明せきな頭脳を持った美しい女性天文学者ヒュパティア(レイチェル・ワイズ)は、身分や立場にとらわれることなく多くの弟子たちに熱心な講義を行っていた。

しかし、キリスト教の布教の波はアレクサンドリアにもやってきて、権力と結びつき、科学を否定するキリスト教徒たちは人々に改宗を迫り、アレクサンドリア図書館は異教の魔窟として破壊されてしまう。やがてその矛先は、改宗を拒み、天文学の新しい発見に情熱を傾けるヒュパティアに向いていく・・・。

 

アレクサンドリアの数学者・哲学者でアレクサンドリア図書館の所長テオンの娘でもあったヒュパティアは、数学者・天文学者・哲学者・教育者としてアレクサンドリアの思想界をリードする人物だったという。

映画では、惑星の楕円軌道を発見したことになっていて、ホントだとしたら天文学の歴史の常識を覆す大事件(何しろケプラーより1200年以上早く発見したことになる)だが、さすがにそれは映画ゆえのフィクションとしても(ただし、彼女を先駆者とする科学者もいるらしい)、当時、女性がそれだけの活躍をするというのはよほどの天才だったのだろう。

彼女は惨殺され、図書館が破壊されたこともあってか、著書は現存せず、論文と著書の題名がいくつか知られている程度というが、記録に残る最古の女性科学者であり、しかも古代社会において重要な役割を果たしていたというのだから、驚きだ。

 

アレクサンドリアという都市も、女性が活躍できるほどの自由さを持っていたのかもしれない。

マケドニア王アレクサドロス大王は、東方遠征の行く先々でギリシャ風の都市を建設していった。アレクサンドロス大王の名を冠してアレクサンドリアと呼ばれたこうした都市はその数70カ所以上に及んだという。中でも栄えたのがエジプトのアレクサンドリアで、地中海に面した港町であり、東西を結ぶ交通の要衝だったという。

映画に登場する人々もエジプトやアフリカの土着の民というより、みなローマ人っぽい顔だちだった。主人公のヒュパティアもギリシャ系の人だったらしい。

 

映画のもうひとつの主役がアレクサンドリア図書館。70万巻ともいわれる膨大な書物(パピルス文書)を所蔵していた大図書館で、古代世界最大の規模を誇っていたという。

もともとはアレクサンドロス大王の死後、その後継者によって成立したプトレマイオス朝の時代に建設されたといわれる。ところが、映画にもあるとおり、ローマ帝国の影響下、アレクサンドリアの宗教的指導者となったキリスト教司教テオフィロスの求めに応じて、ローマ帝国の皇帝テオドシウス1世が非キリスト教の宗教施設・神殿を破壊する許可を与えたため、キリスト教の暴徒たちによって破壊され、この図書館を本拠にして活躍していたヒュパティアも虐殺された。

 

この映画は、権力と結びついた宗教の恐ろしさを描くものでもあった。

ローマ帝国の時代、もっぱら信じられていたのはミトラ教だった。

ミトラ教は太陽神ミトラを崇拝する宗教で、西アジアではゾロアスター教が成立する前からイラン人に信仰されており、やがてローマに伝えられていった。

そこに、急速に広がってきたのが、ユダヤ教にルーツを持つキリスト教だった。ミトラ教は主にローマの支配者たちが信ずる国家宗教だったが、庶民の宗教として広まっていったのがキリスト教で、やがてミトラ教に取って代わるようになった。

キリストの誕生日は12月25日となっているが、この日は冬至のころにあたり、太陽が成長を開始する日であり、太陽神ミトラの誕生日だった。キリスト教がローマで公認されるようになると、キリストの誕生日に置き換えられてしまった。

 

映画は、キリスト教が権力と結びつき、権力もまた自分たちの勢力拡大のためにキリスト教を利用し、それによって崩壊するアレキサンドリアと、魔女とされて虐殺されるヒュパティアの悲劇を描いていて、実写とCGによる映像は迫力があった。

原題の「AGORA」は、古代ギリシャの広場、集会所を意味しているのだろうが、本来は市民が集ったり交易したりする場が、虐殺の場にもなりうることをいいたかったのだろうか。

 

民放のBSで放送していた香港・中国合作の映画「恋するシェフの最強レシピ」。

2017年の作品。

原題「喜欢・你」

監督デレク・ホイ、出演・金城武、チョウ・ドンユイ、リン・チーリン、スン・イージョウ、トニー・ヤンほか。

 

恋するシェフの最強レシピ」という題名だったので、フランスあたりのオシャレなラブストーリーかと思って観始めたら、いきりな漢字のスポンサー名が出てきてびっくり。

舞台は上海で、世界で活躍する中国人の若手実業家が、料理人見習いの若い女性に翻弄されながらも心を通わせるようになっていくというロマンティックコメディだった。

 

ビジネスにも食事にも常にパーフェクトを求め、世界の味を知り尽くした実業家のルー・ジン(金城武)。彼が買収に成功した上海の名門ホテルで有名料理長が提供する料理はどれも彼を感動させるものではなかったが、見習いシェフのションナン(チョウ・ドンユイ)がつくる料理だけはジンの舌を満足させた。

ジョンナンは、ふだんはドジで無鉄砲だが、料理の腕前だけは天才肌という若い女性。ジンが指定したテーマに合わせ、完璧な料理を次々と提供していくションナン。やがて2人は食を通して心を通わせていく。ひとりで食べる“弧食”こそ食通の食べ方と思っていたジンは、人と一緒に食べる楽しさに目覚めていくが・・・。

 

ラブストーリーなのに、観ていて大笑いの連続。こんなに笑える映画は久しぶり。もちろんいい意味でいってるのだが、それはひとえに、まじめ一方の金城武に対して三枚目を演じるヒロイン、チョウ・ドンユイのオチャメ感満載のキャラゆえ。

チョウ・ドンユイ(周冬雨)は北京から約280㎞南の河北省石家荘市出身。1992年生まれというから映画公開時は25歳。舞踏を学んでいた17歳のとき、チャン・イーモウ監督に約7000人の候補者から見いだされて演技未経験ながら「サンザシの樹の下で」のヒロイン役で女優デビュー。初恋を経験する純朴な少女を熱演し「上海映画批評家賞・最優秀新人賞」を受賞。

中国では「13億人の妹」と呼ばれているんだとか。

金城武は今年49歳。日本人の父親と台湾人の母親との間に生まれ、祖父は沖縄出身。日本国籍を持つが、国際的スターとして活躍している。

 

原題の「喜欢・你」は、「」は「好き」で「你」はあなた。「あなたが好き」という意味か。

中国語でloveは「爱」、「喜欢」はlikeなので、付き合い始めのカップルをいっているのか。映画のほうも、ようやく2人が手を握ったところでハッピーエンドとなった。