善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「コントラクト・キラー」ほか

チリの赤ワイン「マプ・グラン・レゼルヴァ・カリニャン(MAPU GRAN RESERVA CARIGNAN)2020」

(写真中央のカニは、セイコガニの初物)

フランス・ボルドーのシャトー・ムートンを所有するバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド社が、チリで手がけるワイン。

生産地は銘醸地として知られるセントラル・ヴァレー、マウレ・ヴァレー。

ワイン名の「マプ」は、チリの先住民族であるマプーチェ族の言葉で「大地・地球」を意味しているという。

ピュアな果実味が際立つカリニャン100%。

 

ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していたフィンランド・イギリス・ドイツ・スウェーデン合作の映画「コントラクト・キラー」。

1990年の作品。

原題「I HIRED A CONTRACT KILLER」

監督・脚本・製作・編集アキ・カウリスマキ、出演ジャン=ピエール・レオ、マージ・クラーク、ケネス・コリーほか。

 

ロンドンで暮らすフランス人のアンリ(ジャン=ピエール・レオ)は、15年間も勤めた水道局を突然解雇される。退職の記念として渡されたのは安っぽい時計で、しかも壊れていた。

彼はずっと孤独に生きてきた男で、クビになる前の職場でも1人ポツンと離れて昼食を食べ、家でも1人で、恋人もいない。趣味は鉢植えの花に水をあげることぐらい。

生きることに絶望したアンリは、もう死ぬしかないと自殺を図るが、ことごとく失敗。ある日、カフェで読んだ新聞に目を吸いよせられる。「コントラクト・キラー=雇われ殺し屋」。これだ!と思った彼はギャングのアジトを訪ね、自分自身の殺害を依頼する。

ところが、もう死ぬんだから酒とタバコを飲もうとパブに行き、そこで花売りのマーガレット(マージ・クラーク)と出会う。たちまち恋に落ちた彼は生きる希望を取り戻すが、殺し屋(ケネス・コリー)はすでに差し向けられていた・・・。

 

フィンランドの映画監督にして脚本家・編集者・プロデューサーでもあるアキ・カウリスマキ監督の「過去のない男」を観て以来、彼のファンとなり、テレビで放送されると必ず録画して「街のあかり」「浮き雲」「レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ」と観てきたが、本作で5本目。

相変わらずの無表情、つぶやくようなセリフ、時折はさまれる「名言」など、“カウリスマキ調”は快調。

今回の名セリフは、医者の言葉で「神を信じなければ地獄も存在しない」。だから安心して死になさいということか。

もうひとつ、殺し屋に追われるアンリに国外逃亡をしようと迫るマーガレットのセリフ。「労働者階級に祖国なんて必要ないわ」。

 

アンリ役のジャン=ピエール・レオ「大人は判ってくれない」でデビューして以来、トリュフォー作品に多く出演しヌーヴェルヴァーグの申し子ともいえるフランスの名優だが、カウリスマキの手にかかると仏頂面の孤独な男に変じていた。

 

ところでこの映画、観ているうちにある映画を連想した。

ジャン=ポール・ベルモンド主演の「カトマンズの男」(1965年)だ。

どんな話かというと、父の莫大な遺産を持つ大富豪のアルチュールは、あらゆる快楽に飽きて自殺を試みるが全て失敗。1カ月以内に死ねば大金を支払うとの保険をかけたことにより殺し屋からねらわれるようになるが、クラブで出逢ったストリッパーに一目惚れすると死ぬのはいやになり、2人で逃避行を始める・・・。

何と話のスジはそっくりで、違うのは主人公が大富豪ではないところと、舞台がロンドンであること。つまり、「カトマンズの男」を元ネタにしてつくられたのが本作の「コントラクト・キラー」だったのだが、あんなにもまるで違う映画になるものかと驚いてしまう。さすが映画は魔術、カウリスマキは魔術師だ。

 

実は「カトマンズの男」には原作があり、それはジュール・ヴェルヌが1879年に発表した小説「必死の逃亡者(原題は和訳すると「ある中国人の中国における受難」で、「カトマンズの男」もフランス語の原題は小説と同じだ)」。

ということは「コントラクト・キラー」の原作の原作はジュール・ヴェルヌの小説ということになる。

カトマンズの男」では主人公を中国人からフランス人のジャン=ポール・ベルモンドに変え、舞台も香港やカトマンズに移しているが、ジュール・ヴェルヌの小説も「カトマンズの男」も主人公は大富豪なのに対して、それとはまったく逆の、失業者でカネもなく、孤独で無口な男を主人公にしたのが「コントラクト・キラー」。

大富豪ではなく貧乏人を主人公にしたところが、いかにも反骨心あふれるカウリスマキらしいし、しかもその主人公をジャン=ポール・ベルモンドに対抗するようにジャン=ピエール・レオに演じさせているところが何とも心憎い。

 

ついでにその前に観た映画。

民放のBSで放送していたフランス映画「オルフェの遺言 私に何故と問い給うな」。

1960年の作品。

監督・主演ジャン・コクトー、出演エドゥアール・デルミ、マリア・カザレス、フランソワ・ペリエなど。ほかにも画家のハブロ・ピカソ夫妻やユル・ブリンナージャン・マレーなども出演している。

 

詩人ジャン・コクトーが時をさまよい自らの人生をたどる。現実と虚構が入り混じるファンタジックな映像詩。

物語はジャン・コクトーの前作「オルフェ」の終幕近い場面から始まる。

「オルフェ」はギリシア神話オルフェウス伝説を題材に、コクトーが現代に当てはめて描いた戯曲「オルフェ」(1925年)を1949年に映画化した作品。詩人オルフェが死の世界にいる王女と出会い、妻よりも王女を愛するようになって苦悶する物語。

オルフェは生と死の世界をたびたび往復するが、コクトー自身が演じる詩人があらわれ、現代、古代、死の国などをさまよい続け、詩的な映像で綴られた芸術家の“遺言”ともいえる作品となっている。

 

ジャン・コクトー(1889年~1963年)はパリ郊外の裕福な家庭に生まれるが、9歳で父が自殺。20歳のころから詩人として頭角をあらわし、やがて総合芸術に魅せられてバレエ作品を制作するようになる。以後、ジャンルを問わず、詩人、小説家、評論家として著名になるだけでなく、画家、映画監督、脚本家としても活躍。親友でありファンでもあったエディット・ピアフががんにより47歳で亡くなると、コクトーはそれを知ってショックを受け、ピアフが亡くなったその日の夜、就寝中に心臓発作を起こし、ピアフを追いかけるように74歳で亡くなっている。