日曜日に東京・銀座のシャネル銀座ビル4階のシャネル・ネクサス・ホールで、福田麻子のヴァイオリン・リサイタルを聴く。午後2時からのマチネ。
シャネルでは、若手音楽家育成のため1年を通じて5回の演奏機会を提供する「シャネル・ピグマリオン・デイズ」という音楽プログラムを開催している。
シャネルの創業者のガブリエル・シャネルは、同時代の多くのアーティストたち支援するパトロン、すなわち才能を信じて支援し開花させる「ピグマリオン」だったという。
詩人のジャン・コクトー、作曲家のイゴール・ストラヴィンスキー、画家のサルバトール・ダリ、パブロ・ピカソ、マリー・ローランサン、映画監督のルキノ・ヴィスコンティなどとの友情はつとに知られている。
彼女の精神を受け継ぎ、2005年から始まったのが「シャネル・ピグマリオン・デイズ」だ。
今年選出された演奏家の一人が福田麻子。
1996年生まれというから今年26歳の新鋭。2歳よりヴァイオリンを始め、東京音楽大学、同大学院修士課程を首席で卒業、修了し、現在は同大学院博士後期課程2年に在学中という。
演奏曲目は、ブラームス(ハイフェッツ編曲)「5つのリート 作品105」第1曲「調べのように私を通り抜ける」、シューマン「ヴァイオリン・ソナタ第1番イ短調 作品105」、ブラームス「F.A.F.ソナタ 第3楽章 スケルツォ ハ短調。WoO.2」、グリーグ「ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ト長調 作品13」。
ピアノは吉武優。
玉虫色に輝くドレス姿でさっそうとあらわれた福田さん。
抜群の技巧で、美音を響かせ、ときに力強く、ときにやさしく、情感あふれる演奏だった。
とくに、グリーグの「ヴァイオリン・ソナタ第2番」が感動的だった。
グリーグはノルウェーの作曲家だが、ノルウェーの土着のメロディーなのか、とても民族的な響きが印象に残る曲だった。この曲を作曲したとき、グリーグはまだ24歳だったという。何という早熟の完成度。それをほぼ同世代の福田さんが弾いたところに価値がある気がした。
シャネル・ネクサス・ホールは全席120席ぐらいしかない小ホールで、運よく前から2列目の中央の席に座ったから、まるで演奏者の息づかいまで聞こえるような演奏を堪能できた。
オーケストラを聴くなら大ホールだろうが、リサイタルだったらこのくらいの規模のホールで聴くのがとてもよい。
そういえばピアノの巨匠リヒテルは、ピアノのコンサートを開くとき、大ホールでやるより旅を重ねながらの小ホールコンサートがいい、というようなことをいっていた。