善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「博士と狂人」他

チリの赤ワイン「エスクード・ロホ・グラン・レゼルヴァ(ESCUDO ROJO GRAN RESERVA)2019」

フランス・ボルドーメドック格付け第一級のシャトー・ムートンを手がけるバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド社がチリで造るワイン。

カベルネ・ソーヴィニヨンカベルネ・フラン、シラー、カルメネール、プティ・ブェルドをブレンド

ブドウ栽培地はチリの首都サンチアゴの南に広がるセントラル・ヴァレー

 

ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していたイギリス・アイルランド・フランス・アイスランド合作の映画「博士と狂人」。

2019年の作品。

原題「THE PROFESSOR AND THE MADMAN」

監督P・B・シェムラン、出演メル・ギブソンショーン・ペン、ナタリー・ドーマー、エディ・マーサンほか。

 

1928年の第1版刊行まで実に70年以上を費やした世界最大の英語辞典「オックスフォード英語大辞典」(通称OED)の誕生秘話をドラマチックに描いた映画。原作は、全米でベストセラーとなったノンフィクション「博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話」。

 

スコットランドで貧しい仕立て屋の長男として生まれたジェームズ・マレー(メル・ギブソン)は、14歳で学校を卒業するも経済的理由から進学は許されなかった。しかし、その後も独学で言語学を学び、卓越した知識と英語辞典作成の熱意を買われて1869年、オックスフォード大学からOED3代目の編纂主幹に任命される(このとき彼は学士でもなく、OED編纂後に博士号を授与されたという)。

彼は、シェイクスピアの時代まで遡ってあらゆる英語をその語彙の変遷とともに収録するとして、英語の用例を印刷物や記録から徹底的に集めることにした。自分たちの力だけではとても間に合わないというので、彼が考えたのは人海戦術だった。専門家や学者ではなくて、単語と用例を郵送してほしいという呼びかけ文を書物という書物に挟み込んで、広く一般人に呼びかけたのだ。

そこで出会ったのが、精神を病んだアメリカ人の元軍医ウィリアム・チェスター・マイナーだった。彼はマレーと違って裕福な家庭に生まれ外科医となるが、軍医として南北戦争に従軍し、そこでの殺戮の様相を見て精神を病んだといわれる。病気治療のためロンドンに滞在中、妄想から見ず知らずの男性を射殺してしまい、精神病院に収容される。隔離病室で本を読むことを許されたマイナーはある日、本に挟まっていた英語辞典編纂のためのマレーからの呼びかけを目にする。

これをきっかけに、2人の天才は辞典づくりという壮大なロマンを共有し、固い絆で結ばれていく・・・。

 

映画のはじめ、辞典は「言葉の海」を行く羅針盤だ、みたいなセリフがあったが、そういえば三浦しをんの小説「船を編む」も国語辞典編纂の話で、同様にして「言葉の海」という言葉がちりばめられていた。言葉を海にたとえるのは洋の東西を問わず共通した発想なのかもしれない。

 

メル・ギブソンショーン・ペンの共演も見どころかあった。

性格俳優のショーン・ペンが温かい心を持ちながら精神を病んだ人物を演じるのはわかるとしても、アクション俳優と思っていたメル・ギブソンがもの静かな学者役をやるのは意外だったが、実はこの映画はギブソンが長年温めていた企画だという。

原作であるノンフィクションが出版された1998年の時点で映画化を希望し、20年がかりで実現したのだそうだ。

 

言葉をめぐる映画だけに、心に残る言葉がいくつもあった。

「闇を恐れることなく、世界を見つめることから偉大で美しい芸術は生まれる」

「闇の中で生きてきたこの私に、あなたは光で照らすことを求めてくれた。力を合わせて闇を退けよう。光で打ち勝つ日まで」

「鉄は鉄に磨かれ、友は友に磨かれる」

「本を読む間だけは、誰からも追いかけられずにすむんだ」
「言葉の翼があれば、人は世界の果てにだって行ける」

 

ついでにその前に観た映画。

民放のBSで放送していたアメリカ映画「ヘンリー・フール」。

1997年の作品。

監督ハル・ハートリー、出演トーマス・ジェイ・ライアン、ジェームズ・アーバニアク、パーカー・ポージーほか。

 

ニューヨークのクイーンズ地区で暮らす内気な青年サイモン(ジェームズ・アーバニアク)は、自由奔放な姉フェイ(パーカー・ポージー)やうつ病の母を養うため、ゴミ収集人として冴えない人生を歩んでいた。そんな彼の日常が、謎めいた浮浪者の男ヘンリー・フール(トーマス・ジェイ・ライアン)が自宅地下室に住み着いたことで一変。天才作家を自称するヘンリーに勧められて詩を書き始めたサイモンは隠れた才能を見出され、詩人として注目を集めるようになるが・・・。

 

サイモンの詩はすばらしいらしく、ついにはノーベル文学賞まで受賞してしまう。しかし、映画では肝心の詩の内容はまったく出てこないので、ノーベル賞に値する名作なのか、まるでわからず、残念。