歌舞伎座「四月大歌舞伎」第3部「ぢいさんばあさん」「お祭り」を観る。
「ぢいさんばあさん」は1915年に発表された森鴎外の短編を原作とした新歌舞伎の名作のひとつ。宇野信夫作・演出で1951年に初演。
ぢいさんは仁左衛門、ばあさんは玉三郎の息の合った“ラブラブ・コンビ”。
この2人が同作で夫婦を演じるのは94年が最初で、今回で12年ぶり5回目というが、大した盛り上がりがあるわけではなく、基本的にはただ2人が互いに見つめ合い、手を握り合うだけの芝居なのだが、それだけでも見ていて幸せな気分になってしまうから不思議。
仁左衛門と玉三郎は去年は4月、6月に「桜姫東文章」の上の巻・下巻、9月には「東海道四谷怪談」と熱演が続き、今年2月には仁左衛門が「義経千本桜」の「渡海屋・大物浦」を「これが最後」の一世一代でつとめたが、ときには“息抜き”も必要とラブラブの芝居となったのか。
森鴎外の原作は、江戸時代・天明期における文人、大田南畝(おおたなんぽ)が記した随筆「一話一言」に収録された史実をもとに書かれた短編小説。
麻布竜土町に隠居してきたひと組の老夫婦が経た37年間にも及ぶ苦難の過去が描かれているが、原作では夫婦の情愛が淡々と描かれ、また、淡々と描かれているがゆえに一層心に残るものがあって、まるで一編の童話のような趣がある。
歌舞伎で原作と違うところは、70をすぎて37年ぶりに再会したぢいさん・ばあさんの前に、若い2人の夫婦(仁左衛門が演じる武士の弟のせがれ夫婦)があらわれるところ。
若い2人は、ぢいさん・ばあさんのラブラブぶりを見て、2人をうらやましがり、自分たちもぢいさん・ばあさんのように仲よく、末永く生きていくことを誓う。
見ていて思ったのは、あの若い2人は、37年前のぢいさん・ばあさんではないかということだった。若い2人を登場させたことで、ぢいさん・ばあさんは、年齢的には70をすぎる老人になったが、それからだって人生のやり直しはいくらでもできる、ということをいいたかったのではないか。
年はとっても気持ちさえ若ければ、まだまだ人生は楽しめる――そんなことを思わせる舞台だった。
舞台がハネたのが夜の8時半ちょいと前。
新型コロナ蔓延防止の重点措置の期間が終わり、夜も多少は遅くまでお店が開いているというので、歌舞伎座から歩いて数分のところにある和食の店「和もと」へ。
軽くイッパイやりながら舞台の余韻を楽しむ。
このお店、たまにしか行かないがちゃんと覚えてくれていて、ご主人も親切で、もちろん料理のウデもよく、味は一級品。
ビールのあとは日本酒。
料理は、まずはお通し。
ホタルイカに、マーマレードが添えてあって、これがビールに合う。
刺身盛り合わせ(マグロにタイにイカ)。
新じゃがいもとフキの煮物。
白魚の唐揚げ。
ヤキトリも何本か。
このところヤキトリ屋にも行ってないから久々の味。
シメはおにぎりと、お新香(糠漬け)。
幸せな気分で帰宅。