善福寺公園めぐり

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9月文楽公演 荒唐無稽「嫗山姥」+ソバ「さわらび」

半蔵門国立劇場小劇場でチョー久しぶりに文楽鑑賞。f:id:macchi105:20200916102525j:plain

国立劇場に行くのも久々。本来なら3月に尾上菊之助が歌舞伎「義経千本桜」の佐藤忠信・源九郎狐と平知盛、初役のいがみの権太の“三役完演”に挑むというのでチケットも買ってあったが、コロナ禍で公演中止となっていた。

 

ようやく劇場公演が再開しての文楽だが、歌舞伎座と同様、席は前後左右に空席を設け、ことに声を張り上げる太夫の前というか下(声は上から降ってきて、すぐそばの席だとそれが心地よいのだが)付近は広範囲に座れなくなっていた。

 

今回観た(聴いた)のは第1部「寿二人三番叟(ことぶきににんさんばそう)」と「嫗山姥(こもちやまんば)廓噺の段」。

「寿二人三番叟」は、三番叟が袖や鈴を振る姿には災厄をもたらす邪気を払う意味もあって、劇場の再開を寿ぐ演目。

「嫗山姥」は近松門左衛門の作で、源頼光の四天王の一人、坂田金時(金太郎)誕生につながる、実に荒唐無稽な物語。

 

坂田金時の父、坂田蔵人時行は、廓の遊女八重桐と夫婦になったが、父の仇、物部平太を討つため妻と別れ、煙草屋源七となって流浪し、大納言兼冬の館で頼光の許婚である沢瀉姫の機嫌をとるが、そこへやってきたのが紙布姿の八重桐。

八重桐は自分と別れて仇も討たずに姫の機嫌をとる時行を見て、裏切られた思いで怒り心頭。時行への当てつけのため、時行との廓での馴れ初めや、恋の鞘当ての物語をおもしろおかしく語り始め、ついには時行が追ってるはずの敵は、すでに妹糸萩が討ったと明かす。

それを聞いた時行は面目なさに切腹。無念の夫の魂は、切腹した切り口から炎の塊となって出て八重桐の胎内に宿り、八重桐は神通力を得て鬼女となる。姫を奪いに乱入した高藤勢を追い払い、金時を産むため足柄山へ飛び去っていく。

 

こんなハチャメチャな文楽、初めて見たが、実に楽しかった。

メイン(奥という)の場面での義太夫語り竹本千歳太夫、三味線は豊澤富助、人形役割は八重桐を桐竹勘十郎、ほか。

そもそも勘十郎を見たさにこの演目を選んだのだが、時行との馴れ初めを語る廓噺や、敵の足軽たちとのチャンチャンバラバラまで、ほとんど八重桐が一人活躍するので、勘十郎の魅力を存分に堪能した舞台となった。

 

中でもおもしろかったのが、沢瀉姫を前に八重桐が語る廓噺だが、床本(文楽の台本)を元に現代風に訳すとこんな感じ。

 

「恥ずかしながら私は傾城をしてまして、その中でも坂田のなんとかというお人(わざと当てつけで言ってる)なんか、やってきた初日から丸三年、もう私にベタ惚れで、昼も夜も通ってこられて、水も漏らさぬ仲になりました。

せやけど同じ廓に小田巻いう太夫がおりまして、その女ときたら私といい仲の坂田はんのところへ毎日百通、二百通もの恋文を書いて、その量といったら馬に背負わせたら7頭半、舟に積んだら千石船、車に乗せたらエイヤラサー。それほど小田巻しつこく言ってきてもますます深まる二人の仲。

とうとう小田巻、腹を立て、打掛けをひらりと取って捨て、白無垢ひとつでふくらはぎも見えるくらいの勢いでドドドドッと駆けてきて、私の上に馬乗りになり、『やい八重桐、あの男を私に寄こすか寄こさないか、いやかおうか二つに一つ、返事をしろ』と胸ぐらつかんでいきり立つ。

こっちもひるんでいらりょうかと、『こらぁ、オダマキだかクダマキだか知らんけど、この広い日本にあってあの人以外にも男はあるやろ。それほど大事なお人やったら、どうして私より先に惚れなかったんじゃい、この男盗っ人め』と言い返して、投げ飛ばしてやりましたわ。

そうしたら小田巻飛んで行って、障子はバリバリ破れて三味線も踏み倒して、縁の下をコロコロ~ッと転がっていきまして、庭の木にぶつかって庭石の上で仰向けなり、鼻血がブーッと一石六斗三升五合五勺。

『そりゃ喧嘩が始まった。大事のこっちの太夫さんに加勢してやれ』というんで、遣り手の婆から仲居、飯炊き、座頭、按摩、巫女さん、山伏、占い師と出てきまして、もう大騒ぎですわ。

あっちの方では叩きあいの喧嘩、こっちでは打ち合い、踊り合いってなことになって、棚も竈(へっつい)も煙草盆も、片っ端から割れまくって、その音を聞いて『地震だー、いや雷だー、世直し騒動だー、くわばらくわばら』って騒ぎになりまして、誰かが水の入ってるタライに蹴つまずいてひっくり返したら、座敷も水だらけで今度は『津波だー』と騒ぎが広がり、お座敷猫を馬ほどもあるネズミがくわえて駆け出すやら、屋根の上ではイタチが踊るやら、それはもう神武以来の悋気争いとなりましたんや~」

 

昔も今も、痴話ばなしはオーバーになるんだろうか。

近松門左衛門といえば、今から300年ぐらいも前の江戸時代中期に活躍した人形浄瑠璃・歌舞伎の作者で、「曽根崎心中」や「冥途の飛脚」「国性爺合戦」「心中天網島」「女殺油地獄」などの名作を残したが、こんな滑稽な作品もあったのか。

 

 

11時開演で終わったのが12時半すぎ。ネットで見つけた地下鉄・半蔵門駅近くの「蕎麦小路さわらび」で昼食。

何年も国立劇場に通っているが、この店は知らなかった。

10席ほどの小さな店だが、夫婦2人でやってるらしい。

ソバを打つご主人が奥からの「おまちどうさま」の声と、接客する女将さんのさりげない笑顔がうれしい。

メニューの最初にあった「鴨そぼろぶっかけ蕎麦」(1500円)を注文。f:id:macchi105:20200916102745j:plain

鴨肉のそぼろなんて珍しい。

細かく刻んだイブリガッコも入っていて、味に工夫が見られる。

 

お酒のつまみもいろいろあるようで、今度は夜に行ってみよう。