善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

プロフェッショナル 濃口尚彦

9日放送のNHK「プロフェッショナル・仕事の流儀 魂の酒 秘伝の技~杜氏(とうじ)・濃口(のぐち)尚彦」を見る。
かなり昔、濃口さんの酒づくりの現場を、一晩泊まり込みで見学したことがある。
現在、濃口さんは石川県加賀市の「常きげん」という酒蔵の杜氏をしているが、
当時は同じ石川県鶴来町にある「菊姫」の杜氏
濃口さんが作った「菊姫大吟醸」は11年連続して全国清酒鑑評会金賞受賞の快挙をなしとげていて、
すでに伝説の杜氏となっていた。
印象に残ったのは、経験とカンに加えて、科学の目を駆使した酒づくりをしていたことだ。
コメの含水率をきっちり計って表にしていたし、
浸水時間もストップウォッチ片手に何分何秒まで正確に計っていた。
麴室の湿度も細かくデータ管理していた。
酒の原料はコメと水、たったこれだけだ。これに菌を繁殖させて酒ができる。
ほとんど自然の営みであり、それをいかにうまくコントロールするかが人間、つまり杜氏の仕事だが、
なにしろ自然相手だけに、毎回毎回が試行錯誤だという。
自分自身が培った数十年の歴史、それに科学の目も加えて、
あらゆる情報を総動員して、自然の営みに寄り添おうとしていたのだろう。
番組でも、
「わかったと思ったらダメ。わからないと思うところから始める」
「菌を思いどおりにしようとするのでなく、自分を菌に合わせることだ」
という意味のことをいっていた。
濃口さんの酒づくりは60年を越えたという。
だが、米づくりと同じに、酒づくりは基本的に1年に1回だから、60回しか作っていないことになる。
それだけ、毎年毎年が真剣勝負なのだろう。
「この酒、ムダには飲まぬぞ」(と長谷川平蔵ふうに)
番組では何枚かのモノクロ写真が映し出されていたが、
濃口さんの鋭い眼差し、まるで花が咲くように菌がハゼた様子が、動く映像以上にすばらしかった。
写真集「大吟醸」の著者でもある写真家の河野裕昭氏の作品である。
(番組の最後にクレジットが出ていた)