善福寺公園めぐり

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数学者訪問 輝数遇数 PART I

現代数学社発行の単行本「数学者訪問 輝数遇数 PART I」を読む。

写真/河野裕昭、文/内村直之・亀井哲治郎・里田明美・冨永 星・吉田宇一。

 

現代数学社は「現代数学」という月刊誌を発行していて、2015年4月号から「数学者訪問」という連載をスタートさせている。毎回1人の数学者に登場してもらい、写真と文章でその人を紹介しようという企画のようだが、その連載を1冊の本にまとめたのが本書。「輝数遇数」という題名はオヤジギャクのようでなかなかシャレてる。

sin cos tan (サイン コサイン タンジェント)もわからないまったくの門外漢としては、フェルマー予想とはこうであるとか、数学とは何ぞやとかいわれたら困ってしまうが、その人がどんなきっかけで数学者の道を歩むようになったのかどんな思いで数学を研究しているのかとかいうことだったら、その人の人生をのぞけるような気がして、とても興味深い。

 

読んで驚いたのは、文章を書いているのはみなさんが数学にかかわるジャーナリズムの世界にいる人たち。ということは数学を論評・解説しようとする「数学ジャーナリズム」というのがあるらしいこと、さらに驚いたのは、数学者を撮り続けるカメラマンがいることだった。

 

あとがきを読むと、もともと「現代数学」の連載は、「数学のジャーナリスト・イン・レジデンス (JIR=Journalist in Residence in Mathematics) プログラム」というのが出発点らしい。

これは数学の研究を外部から見てもらい、将来的には社会と数学を近づけようという試みで、大学における数学の研究・教育の現場に、ジャーナリストなどが一定期間滞在しながら研究・教育に関して自由に取材する機会を提供するプログラムだそうで、2010 年から始まっているという。

この研究会での雑談の折りに、日本酒づくりを克明に撮り続けているカメラマン、河野氏がいることが話題になり、「それなら数学者を撮ってもらえないか」ということで数学者の撮影が始まり、連載につながったらしい。

日本酒づくりと数学者の日常、どこか似ているところかあるのだろうか。

なるほど、プロフィールを見ると、河野氏はフリーカメラマンとして水俣病カネミ油症や、全国に残る水車の撮影に取り組み、吟醸酒と出会ってからは各地の酒蔵で蔵人たちと寝食を共にしつつ酒づくりを取材している、とある。

 

だからなのか、本書は写真がふんだんにつかわれていて、「数学者の写真集」のようだ。

数学者の“顔”って、何となく冷たい感じで眼光鋭いイメージがあったが、本書に登場する数学者の何と優しい目、柔和な顔。難問を解き明かそうとする人は、実は優しい目と柔和な顔を持っているのだろう。

数学の教室では今も黒板と白いチョークが必須とわかって、なぜかホッとする気分にもなった。