原題は「The Life We Bury」
新人作家のデビュー作。といっても複数の大学で学んだあと、25年間、刑事専門の弁護士として働き、現在は引退。2014年に発表したのが本作というから、決して若い作家ではなさそうだが、なかなかおもしろかった。
21歳のミネソタ大学の学生、ジョー・タルバートが主人公で、彼の語りで物語が進行していく。
貧しい母子家庭に育ちながら苦労して学費を工面し、酒に溺れた母親と自閉症の弟のいる実家を飛び出して念願の進学を果たしたジョー。大学の授業で年長者の伝記を書くことになり、書くにふさわしい身近な年長者がいなかった彼は、近くの老人ホームを訪ねてインタビューが可能な老人を紹介してもらうことにする。
そこで紹介されたのが、30数年前、14歳の少女をレイプして殺害した上、遺体を物置小屋で焼却した冷酷非道な殺人犯、カール・アイヴァソンだった。終身刑で服役したものの、がんで余命数カ月となり、仮釈放を認められ老人ホームで最後の時をすごしているのだった。
カールは臨終の供述をしたいとインタビューに応じる。話を聞いてジョーは事件に疑問を抱き、真相を探り始めるが……。
ありがちな展開で、ありがちな結末で終わるが、登場人物たちがそれぞれつらい過去や人には言えないような罪の意識を持っていて、それが本筋に絡んで物語に厚みを持たせている。それに若い主人公ジョーのピュアな語り口にも好感が持てて、ミステリーというより青春小説としてもおもしろく読めた。
そして何より読後感がさわやか。最後の方は読んでいて涙が出とまらなくなってしまった。
以下はネタバレになってしまうかもしれないが、途中、暗号の話が出てきて、ちょっとしたトリビアに出くわした。
アメリカでキーボード入力の授業などで使われるのに次の文章があるという。
The quick brown fox jumps over the lazy dog
和訳すれば「すばしっこい茶色のキツネが怠け者の犬を飛び越える」となるが、実はこの文章はアルファベット26字を全て使い、かつ重複がなるべくない短文なんだそうだ。
日本語の「色は匂えど散りぬるを・・・」と同じで、いわば英語版「いろは歌」というわけなんだね。