善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「Q&A」

ポルトガルの赤ワイン「デュアス・キンタス・ティント(DUAS QUINTAS TINTO)2021」

ワイナリーはポルトの北、ポルトガル最北部ドウロに1880年設立されたラモス・ピント。

ドウロは自然環境をいかしてドウロ川沿いに広がるブドウの段々畑で有名なところであり、ユネスコ世界文化遺産にも登録されている。

そういえば6年ほど前にポルトガルを旅行したとき、ドウロ川下流ポルトに泊まったっけ。

ドウロにある2つの畑から収穫されたポルトガルの伝統的な品種、トゥーリガ・ナシオナル、トゥーリガ・フランカ、その他をブレンド

骨格のしっかりとした深い味わいのワイン。

 

ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していたアメリカ映画「Q&A」。

1990年の作品。

原題も邦題と同じ。

監督・脚本シドニー・ルメット、出演ニック・ノルティティモシー・ハットン、ジェニー・ルメット、アーマンド・アサンテ、パトリック・オニールほか。

ニューヨークの酒場の裏口で、ベテラン刑事のブレナン(ニック・ノルティ)が麻薬の売人を射殺する事件が起きる。ブレナンは正当防衛を主張するが、事件を担当することになった元警官で新米の地方検事補アル(ティモシー・ハットン)は、目撃者の1人である麻薬ディーラー、テックス(アーマンド・アサンテ)の証言と食い違うことから、ブレナンに疑惑の目を向けるようになる。

ブレナンは暴力的で人種差別発言も平気でするような男だが、刑事としては成績優秀で、まわりから一目置かれる存在。さらに、なぜかニューヨーク州の次期検事総長の座をねらうアルの上司のライリー(パトリック・オニール)も、ブレナン追及にマッタをかけようとするのだった・・・。

 

主役はてっきり腐敗した悪徳刑事ブレナンを追及する正義に燃えた新米の検事補アルかと思ったら、そうではなくてブレナンのほうだった。

アルは、ニューヨーク市警と検察組織に巣くう汚職と腐敗と対決しようとするものの、結局は巨大組織の闇に阻まれ、挫折してしまう。したがって映画の主役も、決して枯れることのない“悪の華”のほうなのだ。

そんな結末で終わるくらいだから、ホンモノのニューヨーク市警や検察も、映画と同じに腐敗にまみれてるんじゃないのかと心配してしまうほど。

 

監督・脚本のシドニー・ルメットは「十二人の怒れる男」の監督で知られる人。彼はもともとテレビで活躍していて、黎明期のテレビドラマ製作に携わる売れっ子作家だったという。テレビ局をやめて初の映画作品としてつくったのが、名作として名高いヘンリー・フォンダ主演の「十二人の怒れる男」(1957年)で、33歳のときだった。

映画の舞台となったのはニューヨークの裁判所だったが、このあとも、ルメットは自身の出身地であるニューヨークを舞台に硬派の社会派作品をつくり続け、リアリズムに徹した骨太の演出が彼の特徴でもあったという。

十二人の怒れる男」がまさにそうした作品であり、本作では、悪を主役にして描くことで、腐敗にまみれた警察・検察社会をあぶり出したかったのだろうか。

 

タイトルの「Q&A」とは検察による「尋問調書」のことだという。

日本では、汚職とか政治がらみの事件は地検特捜部が直接最初から捜査に着手することもあるが、ふつうは、まず警察が捜査して容疑者を逮捕したのちに検察に送致、つまり送検して、そこからが検察の仕事となって起訴にまで至る。

しかし、本作を見ると、捜査の対象が刑事であるためか、容疑の段階から検察が乗り出し、検事補が責任者となり刑事を従えて捜査していて、検事補による尋問調書(Q&A)が供述証拠となる。

アメリカでは連邦、州、郡、市のそれぞれに検察の組織があるが、連邦検察官は大統領が任命するものの、各地方の検察組織の長たる地方検事は公選制により選挙で選ばれ、その下に検事補や事務官がいる。

選挙で選ばれるぐらいだから公正だと思いきや、人間、権力を握るとヘンな欲が出てきて、むしろ不正に走りやすくなるのだろうか。

 

検察や警察が汚職や腐敗にまみれたままで終わる本作に、すっきりしない後味が残った。

唯一の救いは、ラストで、挫折した検事補のアルがかつての恋人ナンシー(ジェニー・ルメット)に求婚するシーンだった。

2人は学生時代に恋仲だったが、彼女の父親が黒人だと知らなかったアルが初めて父親に会ったとき、黒人だったので激しく動揺した姿を見て、彼女はアルに疑問を持ち、彼の元を去ったのだった。

正義感が強くて、いかなる不正も許さないと意気込んでいるはずでも、心の底に根強く残っていた人種差別の意識。しかし、それでも彼女のことを思い続けていたアルは、捜査当局に巣くう腐敗の壁に屈して、いっとき自暴自棄になるも、人種差別的な意識を持っていた自分を反省して、もう一度人生をやり直そうと彼女に改めて求婚したのだった。

アルの元恋人ナンシーを演じたジェニー・ルメットは、監督のシドニー・ルメットの娘でもある。

本作で、彼女は母親は白人だが父親が黒人という設定で出演しているが、実際の彼女も、父方はポーランドユダヤ人の血を引いていて、母方はアフリカ系アメリカ人、ヨーロッパ人、ネイティブアメリカンの血を引くが植民地時代以降のアメリカに広くルーツを持つ、とWikipediaにある。彼女の母方の祖母は、アフリカ系女優・シンガーの先駆者であり、公民権運動にも加わったレナ・ホーンだった。

ということはつまり、父親のシドニー・ルメットはアフリカ系の女性と結婚してジェニーを誕生させたわけなのだから、本作で描かれているアルは、アフリカ系女性に恋した監督自身の物語であるのかもしれない。