TOHOシネマズ新宿でアメリカ映画「フォールガイ」を観る。
2024年の作品
原題「THE FALL GUY」
監督デヴィッド・リーチ、出演ライアン・ゴズリング、エミリー・ブラント、アーロン・テイラー=ジョンソン、ウィンストン・デューク、ハンナ・ワディンガムほか。
音響は映画サウンドに自然でリアルな音場をつくり出すという「ドルビーアトモス」。
1980年代に放送されたテレビドラマ「俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ」をリメイクし、裏方であるスタントマン(スタントパーソン)を主人公にしたアクションコメディ。
腕利きのスタントマンだったが大怪我を負って業界から姿を消し、今はレストランの配車係をしているコルト・シーバース(ライアン・ゴズリング)のもとに、プロデューサーのゲイル・メイヤー(ハンナ・ワディンガム)から仕事の依頼が舞い込む。「どうしてもあなたが必要」と頼み込まれ、始めは気乗りしなかったものの、かつて恋仲だったジョディ・モレノ(エミリー・ブラント)が初監督をつとめる映画と知って、俄然やる気になって引き受ける。
オーストラリア・シドニーの撮影現場にやってきたコルトだったが、長年にわたり彼がスタントで代役をこなし、今回、ジョディが監督をする映画「メタルストーム」(何と、ゲイリー・クーパー主演の西部劇「真昼の決闘」のSF版だとか)の主演俳優であるトム・ライダー(アーロン・テイラー=ジョンソン)が失踪したため撮影が中断しているとゲイルから聞かされて、未練のあるジョディを助けるためならとトムの行方を追う。ところが、彼を待ち受けていたのは危険な罠だった・・・。
途中まで、ありがちな展開でB級映画かなと思って観ていたが、やがて手に汗握るアクションの連発に引き込まれていく。
自身もスタントマン出身のリーチ監督が、ライアン・ゴズリングとタッグを組んでのリアルかつ斬新なアクションがこの夏の猛暑を吹き飛ばしてくれる。スタントマンへのリスペクトや、かつての映画の数々へのオマージュとともに、映画愛が込められた作品でもあった。
本作はなかなか洒落たところのある脚本で、そこがまた面白い。
プロデューサーのゲイルからコルトへの依頼は、主演俳優トムのスタントマン(スタントの意味は「離れ業」とか「曲芸」であり、スタントをやる代役という場合は正確にはスタントダブルという)をやってほしいというのと、もうひとつ、失踪したトムを探し出してほしいということだったが、そこにはコルトを陥れようとする陰謀が隠されていた。
実はトムは、仲間の俳優たちと乱痴気パーティーをしている最中、俳優の一人から、「危険なことは他人にやらせて、あんたは自分でスタントできないだろう」といわれたことに腹を立て、突き飛ばして死なせてしまった。
それを知っているのがプロデューサーのゲイルで、俳優殺しの犯人を、スタントマンとしてトムの“影武者”をつとめてきたコルトに仕立て上げるため、彼を呼び戻したのだった。死んだ俳優の遺体を発見したときの映像もコルトの顔をCGで合成して作り替え、コルトに罪をなすりつけるニセの証拠づくりも行っていた。
本作のタイトルは「フォールガイ」。
直訳すれば「落ちる男」で、高所から落下するのを専門とするスタントマンの意味であり、実際、映画ではコルトが12階吹き抜けの高所から落下するスタントに始まり、最後も、数10mの高さのヘリからの落下シーンで終わっていて、まさしくタイトル通り。
だが、「フォールガイ」にはスラングで「身代わり」とか「かも」「だまされやすい人」の意味もあるのだそうだ。
プロデューサのゲイルは、コルトに罪をなすりつけて彼を「身代わり」に仕立てようとしたのだから、まさしくタイトル通り。なおかつ、スタントマンより自分のほうが格上という思い込みから人を殺してしまったトムも含めて、スタントマンを軽んじる勢力との対決が本作のテーマとなっていて、その後のアクションがますます熱を帯びてくる。
スタントマンが主役だけに、彼らの“得意技”が次々と出てきて飽きさせない。
カーチェイスやカージャンプに、キャノンロールというのもあって、これはドライバーが運転する車の中に設置されたキャノン砲を走行中に発射することにより、発射時の力を使って車を横転させるというスタント。吹き飛ばされた車はクルクルと回転していくので迫力満点ながらとても危険なスタントだが、これまでで最高だったのは2006年に公開された「007カジノ・ロワイヤル」の7回転。本作のキャノンロールはその記録を1回転半上回る8・5回転したというのでギネス記録に認定された。
さらに、超高所からの落下では、命綱もパラシュートもつけずに飛び下りるスタントもあって、フリーフォールと呼ばれている。
ほかにも、殺陣(ファイトアクション)や全身に火をつけられるファイヤースタントなどなど。
むろん、本作ではCG(VFX)もふんだんに使われているが、CGでは表現できないリアルな臨場感あふれるアクションは、やはりプロフェッショナルであるスタントマンによる生身の人間の体当たり演技でこそ表現できるのだろう。
本作では、コルト役のライアン・ゴズリングのスタントマンに、レーサー出身とか格闘や武道の専門家など、それぞれ専門を持つ選りすぐりの4人が立てられたとか。
ところで、悪者側と悪戦苦闘するコルトに味方したのは意外な人物(+犬)だった。
悪者側のトムのアシスタントで、トムの飼い犬の世話係をさせられているアルマ・ミラン(ステファニー・スー)と、トムの飼い犬のドーベルマン。このドーベルマンはフランス語じゃないということを聞かないらしく、名前もジャン・クロード。
アルマはプロデューサー志望で、いつか名をあげたいと思っているがトムにこき使われている。実は彼女は本人は知らずにトムの俳優殺しの証拠物件を持っていて、事件のカギを握る人物なのだが、爆走する車でのバトルに巻き込まれる。
犬のジャン・クロードも、一度会ったことがあるというコルトになぜか懐いていて、アルマともどもコルトの窮地を救う。
本作では、映画の最後にジョディが初監督をつとめた映画「メタルストーム」が、悪事が暴かれたトム・ライダーに代わってジェイソン・モモア(本人がカメオ出演)主演で完成し、予告編が映し出されるが、クレジットではプロデューサーはやはり悪事が暴かれたゲイル・メイヤーではなく、アルマ・ミランの名前になっていた。
コルトを助けたことで、アルマの夢が実現したようだ。
ちなみに、悪事を働いたトムとゲイルを逮捕するためパトカーがやってきて警官が登場するが、2人のおじさん・おばさん警官だった。
だれだろう?と思ったら、本作の原作であるテレビドラマ「俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ」でコルトを演じていたリー・メジャース(御ん年85歳)と、ジョディ役のヘザー・トーマス(同じく66歳)。
原作にリスペクトする洒落た演出だった。
音楽も印象的だった。
最初の方でコルトが涙を流すところでは、テイラー・スウィフトのバラード曲「オール・トゥー・ウェル(All Too Well(10 Minute Version))」。
ジョディ役のエミリー・ブラントがカラオケバーで歌ったフィル・コリンズの「見つめてほしい」(Against All Odds (Take A Look At Me Now))。
どうやらハリウッドでも日本発祥のカラオケが人気らしく、みんな順番待ちしてマイクを握り熱唱していた。