善福寺公園めぐり

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「ミッション:インポッシブル」最新作はド迫力のエンターテイメント映画

TOHOシネマズ 新宿でトム・クルーズ主演「ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE」をIMAXで観る。

2023年公開の作品。

監督・脚本・製作クリストファー・マッカリー、出演トム・クルーズ(製作も)、ヘイリー・アトウェルヴィング・レイムスサイモン・ペッグレベッカ・ファーガソンヴァネッサ・カービー、イーサイ・モラレス、ポム・クレメンティエフ、ヘンリー・ツェーニーほか。

第1作の「ミッション:インポッシブル」(1996年)から27年。シリーズ7作目となる最新作。「PART ONE」とあるから前編・後編の前編で、近いうちに「PART TWO」もあるのだろう(現時点で来年の2024年公開の予定)。

 

タイトルにある「デッドレコニング」とは船舶用語で用いられる「推測航法」の意味で、航行した経路や進んだ距離、起点、偏流などから過去や現在の位置を推定し、その位置情報をもとにして行う航法のこと。これはスパイ組織IMFを率いるイーサン・ハントのこれからの運命の譬喩にもなっていて、彼のスパイ人生の集大成の物語なんだそうだ。

イーサン・ハントを演じるトム・クルーズも今年61歳。ナマ身の体を使ったハデなアクションが売り物の映画だけに、そろそろ有終の美といきたいのだろうか。

何しろトム・クルーズは原則としてスタントマンを使わず、自らスタントを行うことにこだわりを持っている俳優として有名で、それだけに肉体的な限界の自覚も強いのではないか。

 

映画はベーリング海を潜行するロシアの原潜セヴァストポリから始まる。

次世代のステルス能力を持っている原潜のはずなのに、正体不明の潜水艦らしきものに見つかって魚雷を撃ち合い、自ら放った魚雷で撃沈してしまう。なぜ自爆したかというと、搭載されていた最新鋭のAIが進化し暴走したためと推測され、この“暴走AI”が悪の手に渡ったら大変、というので、IMFチームに指令が出される。

(この指令の出し方が原作であるテレビ映画「スパイ大作戦」と同じで、今どき見たこともないカセットテープが回って「君または君の仲間が捕らえられ殺されても当局は一切関知しない・・・」のおなじみのセリフが流れて、5秒後にシューッと消える。最先端デジタルの物語なのにアナログが登場するあたり、映画の今後の展開を暗示しているようにも思えるが・・・)

カギを握っているのは沈んだ潜水艦中にあるソースコードで、そのソースコードを解く2つで1組となるカギの争奪戦が繰り広げられる。

 

映画では“暴走AI”を「The Entity」と呼んでいて、戸田奈津子さんが担当する日本語字幕では「それ」となっている。「Entity」は直訳すると「実在」とか「存在」といった意味だそうだ。

「それ」は、デジタルネットワークに存在し、あらゆるシステムに侵入することができ、しかもその思考は従来のコンピューターをはるかに超えるもので、デジタル機器を介して人々の感情や行動に影響を与え、破壊することもできる未知の“情報兵器”だという。

そんなものを悪の側に渡したらエライことになるというのでイーサン・ハント率いるスパイチームが動き出す。

 

しかし、そういった込み入った筋書きにこだわらなくても、本作はまるでジェットコースターに乗ってるみたいなノンストップのアクションを存分に楽しめるのが魅力のエンターテイメント作品。CGをふんだんに使っているものの、生身の人間のアナログ的動きがより際立つように描かれているので、見ている方も手に汗握り、ハラハラドキドキしながら感情移入してしまう。

しかも、派手なアクションが展開するのは世界各地の名所ばかり。

まずはアブダビ国際空港での大立ち回り。

アブダビ空港はアラブ首長国連邦にあり、エティハド航空の本拠地。昔、アイルランドに行くときエティハド航空を利用したので、乗り換えのためこの空港に一時滞在したことがあるが、新しい空港で、とにかくだだっぴろい印象だった。新しいターミナルを次々建設していて、今や年間9000万人の利用者数を誇る世界最大級のハブ空港になっている。

本作はまだ建設中だった新ターミナルのオープン前に、特別許可を取って撮影したそうだが、まだ開業前なのにいかにも開業中のように大改造して、エキストラも何百人も集めただろうが、とんでもない製作費・人件費がかかったに違いない。

 

ローマ市内の歴史的街並みでのカーチェイスもすごかったが、もっとすごかったのがスペイン広場の石の階段を車でドドドッと下っていくシーン。

この階段は映画「ローマの休日」でオードリー・ヘップバーン扮する王女がジェラートを食べるシーンでも有名だが、ここでのカーチェイスがすさまじく、よく当局は撮影を許可したと思うほど。イーサンを追う暗殺者パリスの装甲車両が階段を駆け下ってブロックが破壊されるシーンまであるが、さすがにあれは違う場所で撮ったのをCGで加工してミックスさせたのだろう。

 

 水の都ヴェネチアもロケ地になっている。ここも以前、旅行で行ったことがあるが、車の通行が禁止されているから資材運びも含めて、撮影は大変だっただろう。

迷路のような地形で観光客でごった返す場所だから、撮影は夕方6時から朝6時までしか許可が下りなかったという。このためか、ほとどが夜のシーンだった。

ドゥカレー宮殿での大パーティーのシーンも、夜間だから貸し切りで撮影が可能になったのだろう。ここも以前、行ったことがあるが、もとヴェネチア共和国の総督邸兼政庁であった建造物で、8世紀に創建され、14世紀から16世紀にかけて現在の形に改修され、内部は美術館となっている。

車を乗り入れることができないため、照明だけでも総勢55名の電気技師が20隻の荷船で機材を運び、昼夜を問わずヴェネチアの運河を移動し、手作業でセットまで運んだんだとか。

 

しかし、本作で何より手に汗を握ったのがオーストリア・アルプスを走るオリエント急行列車でのシーン。実際の撮影はノルウェーあたりで行ったらしいが、迫真力のある映像にするため、撮影のためだけに本物そっくりの列車をつくり、その車両を撮影のためだけに時速96・5キロで走らせ、車両の中だけでなく車両の上でのアクションも繰り広げられたという。

さすがに車両の屋根の上での格闘シーンは止まっている状態で撮り、あとでCGで処理したとは思うが、実際に格闘するアナログ(人間)とCGによるデジタルの融合がつくりあげた映画ならではの迫力と臨場感ある映像だった。

雄大な山々に囲まれた切り立った断崖絶壁から飛び立つシーンも、ノルウェーをあちこち探して撮影地を見つけたらしいが、「俳優人生で最も危険」とトム・クルーズ自身が称する撮影を敢行。彼はこのシーンのためにモトクロスジャンプの練習を1万3000回もやったという(映画の最後に列車からのスカイダイビングのシーンもあるが、この練習も500回以上やったとか)。

 

しかし、本作で何より釘付けになったのが、最後の最後、大峡谷を渡る橋が爆破されて1両、2両と車両が落下していく中で、イーサン・ハントと新相棒でシリーズ初出演のグレース(ヘイリー・アトウェル)による垂直になった車内でのぶら下がっての演技。

これも実際に車両を谷底へ落として撮影したそうだが、2人の足の下に谷底が見えるものだから、見ているこちらも一緒に谷底に落ちそうな怖さを味わい、2人が助かったときには自分も助かった気持ちになった。

こんなときが、ああ映画っていいな!と思える瞬間。

 

暗殺者パリス役のポム・クレメンティエフもいい味を出していたが、グレース役のヘイリー・アトウェル、イルサ役のレベッカ・ファーガソンと、女性が活躍する映画でもあった。