善福寺公園めぐり

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100年前のトム・クルーズ「キートンのセブン・チャンス」

東京・銀座の「銀座メゾンエルメス」10階にあるミニシアター「ル・ステュディオ」でバスター・キートン監督・主演の「キートンのセブン・チャンス」を観る。

バスター・キートンチャールズ・チャップリンハロルド・ロイドと並んで「世界の三大喜劇王」と呼ばれた伝説の喜劇俳優であり映画監督であり脚本家。

1895年生まれで、1966年肺がんのため70歳で亡くなっている。

ちなみにチャップリンは1889年生まれで1977年死去。キートンより少しお兄さんで少し長生きしている。

本作は1925年の作品というから、今から98年前の最初だけカラーでほとんどモノクロの無声映画だが、抱腹絶倒の傑作コメディ。100年近くたってもおもしろさは変わらないというのはスゴイことではないか。

2022年にデジタル修復されて再上映されたので、画面はくっきり、鮮明だった。

 

原題は「SEVEN CHANCES」。

監督・主演バスター・キートン、ほかに出演はT・ロイ・バーンズ、スニッツ・エドワーズ、ルース・ドワイヤー、ジーン・アーサー

 

1916年にブロードウェーで上演されたロイ・クーパー・メグルーの同名の舞台劇をもとにした作品。

証券会社を経営するジミー(バスター・キートン)は金融詐欺に巻き込まれ、資金調達をしなければ刑務所行きも免れないという危機に陥っていた。

そんな中、ジミーに700万ドルという巨額の遺産相続話が舞い込む。しかし、その条件は27歳の誕生日の午後7時までに結婚すること。そして、今日がその誕生日だった。

ジミーはかねてから思いを寄せていたメアリー(ルース・ドワイヤー)にプロポーズをするが、ささいな行き違いが原因でふられてしまう。失意のなか、弁護士(スニッツ・エドワーズ)に言われるがまま、7人の女性をピックアップして求婚するジミー。

だがどれも断られてしまい、ついには道行く女性に手当たり次第求婚するが、まるでダメ。しびれを切らした経営パートナー(T・ロイ・バーンズ)が花嫁募集の広告を勝手に新聞の夕刊に載せてしまう。

「幸運をつかみたいものは午後5時までにブロードストリート教会に花嫁姿で来られたし」。すると大金目当ての求婚者がどっと押し寄せてきて、逃げるジミー、追いかける数100人の花嫁の大群、走って走って、走るジミー、空前絶後の追いかけっこが始まった!

無表情が特徴のキートンの体を張った演技が見もので、トム・クルーズ顔負け。

ボートから川に飛び込んだり、クレーンのフックに吊り下げられて振り回されたり、断崖絶壁から飛び下りたり、最後は坂の上からゴロゴロ転がってくる大岩を含めて何100個もの石に追われながら逃げまどう。

見ていて「どこかで見たシーンと似ているなー」と思ったら、ただいま上演中のトム・クルーズの最新作「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」とそっくり。

ただし、トム・クルーズはCGやスタントマンにだいぶ助けられているが、CGなんかない時代のバスター・キートンは、生身の体を張ってのアクロバティックな超絶演技に挑戦していた。

走って、走って全力疾走するシーンはトム・クルーズも得意としていたが、走るフォームはバスター・キートンのほうがサマになっていた。

まさに100年前のトム・クルーズここにあり、という感じだが、トム・クルーズバスター・キートンにはかなわないだろう。

何しろ彼は両親が舞台芸人だったので3、4歳のころから家族と一緒に舞台に立っていて、父親が彼を観客席に放り投げる荒っぽい芸もあったため、児童虐待の疑いで取り調べを受けたこともあったほどだったとか。階段から落ちたときも平気な様子だったので「バスター(頑丈な男の子、大した奴)」の芸名がついたという。

彼の類まれなる身体能力は、天分もあるだろうが、子どものころからの苦労により培われていたようだ。

 

映画を見ていてギャグの連続に大笑いしたいところだったが、なぜかまわりは静か。銀座の、エルメスビル内のミニシアターとあって、お客さんも上品なのか、あまり笑い声は出ない。ついついこちらも遠慮してしまったが、銀座にドタバタ爆笑映画は似合わないかも。