善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「手紙と線路と小さな奇跡」「アダプション/ある母と娘の記録」

フランス・ローヌの赤ワイン「コート・デュ・ローヌ(COTES DU RHONE)2021」

ローヌ地方の名門ワイナリー、シャトー・ド・サン・コムのワイン。

ローヌ地方はフランスの中でもボルドーに次ぐ生産量を誇り、南フランスを代表する生産地。地中海に注ぐローヌ河に沿って数々の銘醸地が連なるが、この中でローヌ全域を指す地方名として存在するのがコート・デュ・ローヌ

シラー100%でフレッシュな果実味が魅力の1本。

 

ワインの友で観たのは、民放のCSで放送していた韓国映画「手紙と線路と小さな奇跡」。

2021年の作品。

原題は韓国語で「奇跡」

監督・脚本イ・デシャンフン、出演パク・ジョンミン、イム・ユナ、イ・スギョン、イ・ソンミンほか。

1988年に開設された韓国初の私設駅「両元(ヤンウォン)駅」の実話をもとに、小さな駅づくりに奮闘する人々を描いたヒューマンドラマ。

 

数学の天才である男子高校生ジュンギョン(パク・ジョンミン)は、線路は通っているのに駅がない村に住み、毎日往復5時間かけて学校に通っている。村に駅をつくることを夢見る彼は、機関士の父テユン(イ・ソンミン)に反対されながらも、駅の開設を求めて大統領府に手紙を送り続けていた。

同級生の女子生徒ラヒ(イム・ユナ)にも協力してもらい、説得力のある手紙を書くため正書法の講義を受けたり、有名になるべくテレビの「高校生クイズ」に出場したりと、努力を続けるジュンギョンだったが・・・。

 

邦題は長ったらしいが、原題はただひとこと「奇跡」。邦題では何とか七五調の語呂を合わせようと「小さな奇跡」とかしちゃってるが、「小さいこと」では決してない。住民の力で政府を動かし過疎の村に駅をつくった「大きな奇跡」なのだ。

韓国東部の日本海近くを通る嶺東線沿線で、線路は通っているのに駅のない村があり、しかも道路も整備されていないので住民は移動する際、線路を歩いて通らなければならなかった。そこで、自分たちで駅舎をつくるから駅を開設してほしいと政府に請願し、認められて新設されたのが「両元駅」だった。

映画では住民たちは駅の待合室だけをつくったように描かれているが、実際にはホームまで住民の負担で設置されたようだ。

住民の力で過疎地に新駅をつくってしまったという、まさに「奇跡」を描いたのが本作。

 

映画の中で重要な役割をするのが、駅がないために線路を歩いていて、列車事故で亡くなった主人公ジュンギョンの姉のボギョン。彼女は幽霊となって出てきて何かとジュンギョンを励ます。彼女の存在はジュンギョンは見えるがまわりの人にはまるで見えない。そんな幽霊の彼女も、いよいよ念願かなって駅ができるころになると、自分の役目は終わったというのでフッとジュンギョンの前から消えてしまう。

何だか切なくなって胸がキュンとする展開なのだが、どこか天才囲碁棋士の幽霊が主人公の成長を見守る「ヒカルの碁」に似ていて、見ていてますます胸キュンとなってしまった。

 

ついでにその前に観た映画。

民放のCSで放送していたハンガリー映画「アダプション/ある母と娘の記録」。

1975年のモノクロ作品。

原題「ÖRÖKBEFOGADÁS」

監督・脚本メーサーロシュ・マールタ、出演ベレク・カティ、ヴィーグ・ジェンジェヴェール、フリード・ペーテル、サボー・ラースローほか。

以前にやはりテレビで放送されたのを観た「ナイン・マンス」(1976年)「ふたりの女、ひとつの宿命」(1980年)に続く、ハンガリーの女性監督メーサーロシュ・マールタの作品。

 

木工工場で働いている43歳のカタ(ベレク・カティ)は夫を亡くし、現在は妻子ある会社の同僚ヨーシュカ(サボー・ラースロー)と不倫関係にある。カタは子どもをつくることを望むが、家庭崩壊を恐れるヨーシュカは断り、「一人で育てる」というカタの言葉にも耳を貸さない。

そんなある日、工場見学に来た近くの寄宿学校の17歳のアンナ(ヴィーグ・ジェンジェヴェール)から、付き合っている若い男と会うために部屋を貸してほしいと頼まれる。それを契機に、アンナと母娘のような、年の離れた友だちのような奇妙な友情関係が芽生えるが・・・。

 

男性中心の社会の中で、さまざまな抑圧を受けながらも負けずに生きていく女性たちが描かれているが、見た目は弱々しそうだけど、実はたくましく生きる姿が印象的な映画だった。

本作は、メーサーロシュ・マールタ監督が歳の離れた2人の女性の交流を描き、1975年の第25回ベルリン国際映画祭で女性監督として初めて金熊賞を受賞した記念すべき作品。

彼女は1931年ブタペスト生まれというから、今年93歳。

今、世界的に彼女の再評価が進んでいるのだそうで、初期作品の修復も行われて2019年のベルリン国際映画祭や2021年のカンヌ国際映画祭でも上映されるなどしてきた。

日本で知られていない監督の一人で、本作は長く日本で劇場公開されていなかったが、2023年5月に「メーサーロシュ・マールタ監督特集上映」として「ナイン・マンス」「ふたりの女、ひとつの宿命」などの作品とともに東京を始め各地の劇場で初公開された。