善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「サムライ」「西部無法伝」「ナイトクローラー」

イタリア・ヴェネト州の赤ワイン「コルテ・ジャーラ・リパッソ・ヴァルポリチェッラ(CORTE GIARA RIPASSO VALPOLICELLA)2020」

ワイナリーはアレグリーニ。ヴェネト州の伝統製法リパッソでつくる赤ワイン。

リパッソとは、アマローネというこの地方独特のワインをつくったときの搾りかすを加えて再発酵させる手法。より濃厚でコクのある味わいに仕上がるという。

ブドウ品種はコルヴィーナ・ヴェロネーゼ、ロンディネッラ。

コクと旨味が味わえる1本。

 

ワインの友で観たのは、民放のCSで放送していたフランス映画「サムライ」。

1967年の作品。

原題「LE SAMOURAI」

監督・脚本ジャン=ピエール・メルヴィル、出演アラン・ドロン、フランソワ・ペリエ、ナタリー・ドロン、カティ・ロジェほか。

当時31歳のアラン・ドロン演じる孤独な殺し屋=サムライの死を、メルヴィル監督によるあらゆる説明を省略した(よくいえばムダを省いた)独特の映像美で描いた「フレンチ・フィルム・ノワール」と称される作品のひとつ。

 

トレンチ・コートに中折れ帽(欧米では「フェドーラ」と呼ばれる)のジェフ(アラン・ドロン)は、仕事に対して完璧主義を貫く優秀な殺し屋。クラブ経営者殺害の依頼も、盗難車のナンバー・プレートを取り替え、恋人ジャンヌ(ナタリー・ドロン)にアリバイ工作を頼んで難なく片づけた。

だが、廊下でバッタリ出くわしたピアニストのヴァレリー(カティ・ロジェ)に、はっきりと顔を見られてしまう。

警察の一斉検挙によりジェフも連行される。ところが、面通しのとき、ヴァレリーはジェフを見て「この人じゃない」と首を振る。それでも、捜査責任者の警部(フランソワ・ペリエ)はジェフを疑い、彼に尾行をつけるが・・・。

 

仕事(殺人)に出かけるときのジェフのルーティンがかっこよすぎる。

アパートのドアを開ける前、鏡の前に立って中折れ帽のひさしをピリッとなぞり、出かけていく。

「サムライ」であるからには完璧でなければならないと、帽子のひさしの角度にまでこだわるこの場面を見ただけで、彼の孤独感とニヒリズムが浮かび上がってくる。

映画の始めに「サムライの孤独ほど深いものはない。ジャングルに生きるトラ以上に、はるかに孤独だ」という「武士道」からというフレーズが出てくるが、新渡戸稲造の「武士道」にはそんな言葉はなく、監督のメルヴィルが創作した言葉だそうだ。

「サムライ」は孤独であり、また完璧でなければならない。その結果、ジェフは最後には自らの死を選ぶしかなくなるのだ。

 

この映画は驚くほどセリフが少なく(最初の10分ほどはまるでセリフなし)、なぜジェフがクラブ経営者を殺さなければならなかったのか、依頼主はどんな人物なのか、そもそもジェフはどんな男なのか、警察はどんな理由で彼を疑い追っているのか、ジェフを目撃したピアニストのヴァレリーはなぜ彼を守ろうとしたのか、さっぱりわからない。

夜のパリの裏道や地下鉄での彼の行動を見ながら類推するしかないのだが、そうした説明は、この映画では不要と監督は思ったのだろうか。

ただひとつ明らかなのは、犯人である自分を目撃しながら「この人は違う」とかばってくれたピアニストに対して、彼はいいようのない恩義を感じていたことだ。

ジェフは、自分の正体がバレるのを恐れたクラブ経営者殺害の依頼主から、口封じのためジェフを目撃したピアニストを殺すことを依頼され、彼は「仕事」としてそれを受ける。クラブでピアノを弾く彼女にピストルを向けるが、張り込んでいた刑事たちの銃撃を浴びて死んでしまう。警部が駆け寄って彼の銃を調べると、弾倉には弾が1発も入ってなかった。

「サムライ」である彼は、ピアニストへの恩に報いるため、自ら死を選んだのだった。

あるいは、警察は彼を疑い、地下鉄や街の中で執拗に彼を追っていたから、権力への抵抗としての死だったのかもしれない。

 

どこか暗い陰を持つ感じのピアニストのヴァレリーを演じたカティ・ロジェが印象的だった。

彼女はこの映画とき22歳。もともとフランスの海外県でカリブ海の南にある西インド諸島グアドループ出身で、フランスでモデルやアナウンサーとして活躍中、テレビ番組に出演しているところをメルヴィルの目に留まり、スカウトされたという。この映画がデビュー作だった。

おそらくメルヴィル監督は、ヴァレリーにピッタリの役者を探しに探していて、ようやく見つけたのが彼女だったに違いない。

その後も何本かの映画に出ていたようだが、59歳のときの2004年5月、マラケシュ動脈瘤破裂により亡くなったという。

 

ついでにその前に観た映画。

NHKBSで放送していたアメリカ映画「西部無法伝」。

1971年の作品。

原題「SKIN GAME」

監督ポール・ボガート、出演ジェームズ・ガーナー、ルイス・ゴセット・ジュニア、スーザン・クラークほか。

原題の「SKIN GAME」」とは「いかさま勝負」「詐欺(さぎ)」「ペテン」「いんちき」の意味。南北戦争の前夜、白人と黒人の2人のペテン師コンビが巻き起こす騒動を描く西部劇コメディー。

 

南北戦争勃発4年前の1857年、白人のクインシー(ジェームズ・ガーナー)と黒人のジェイソン(ルイス・ゴセット・ジュニア)は、南部の諸州に残っていた奴隷制度を逆手にとって、各地を荒らし回る名コンビのペテン師だった。2人は所有者と奴隷になりすまして競売を行い、売られたジェイソンがすぐに脱走して稼いだ金を山分けしていた。

ところがある日のこと、情け知らずの奴隷商人に目をつけられて事態は急変。途中、出会ったジンジャー(スーザン・クラーク)という美女がじつは盗みのプロだっだりして、ひと騒動起こした挙げ句にジェイソンは奴隷収容所、クインシーは留置場行きとなってしまう・・・。

 

アメリカの奴隷制度はいつごろから始まったかというと、1776年の独立以前、イギリスの植民地だった1619年に、20人の黒人が奴隷としてヴァージニアに連れてこられたのがアメリカ最初の黒人奴隷だった、といわれている。

この最初に連れてこられた黒人奴隷には、日本にも関わりがあるとの説がある。

江戸時代初期に日本の仙台藩で建造されたガレオン船(遠洋航海が可能な帆船)にサン・ファン・バウティスタ号というのがあった。仙台藩主だった伊達政宗の命により建造したもので、仙台からイスパニア(スペイン)やローマへ赴いた支倉常長ら慶長遣欧使節による航海に使用されたりしたが、同船のその後の行方は不明だった。

2018年になって、アメリカの奴隷史研究を行っている歴史家の調査により、同船はイスパニアによる奴隷船として運航されていたとの説が明らかとなった。歴史家の説によると、1619年、同船は奴隷貿易により黒人奴隷を乗せてメキシコに向かっているとき、オランダ船と交戦。オランダ船は奴隷船に乗っていた黒人奴隷を奪取してヴァージニアに到着。この船に乗っていたのがアメリカ最初の黒人奴隷というわけで、日本で建造された船が奴隷船となって一役買っていたことになる。

 

その後、アメリカには次々と黒人奴隷が連れてこられるようになり、アメリカ建国当時、オリジナルの13州のうちマサチューセッツをのぞく12州が奴隷制を認めていたという。合衆国発足とともに多くの州がマサチューセッツにならって奴隷制を廃止したが、メリーランド、ヴァージニア、デラウェアノースカロライナサウスカロライナジョージアの南部の6つの州は引き続き奴隷制を維持した。

南北戦争のころまでには州の数は34に増えていたが、1860年奴隷制の拡大に反対するリンカーンが大統領に当選したとき、奴隷州は15州あり、奴隷制度のない自由州は19州だった。

本作の主人公2人は自由州の住民で、黒人は自由市民だったが、ひとたび奴隷州に入れば、まかり間違えれば黒人は奴隷として扱われることになる。何ともコワイ話だ。

 

南北戦争は、奴隷州のうち11州がアメリカ合衆国から脱退してアメリカ連合国を建国。連邦政府との間で南北戦争に突入した。

このときの南部の奴隷州はヴァージニア、ノースカロライナサウスカロライナテネシージョージアアラバマ、フロリダ、ミシシッピアーカンソールイジアナ、テキサスの11州。

一方、デラウェア、メリーランド、ケンタッキー、ミズーリの諸州は奴隷州だったが、アメリカ連合には加わらずに中立の立場を取った。

南北戦争終結後、1865年にアメリカ合衆国憲法修正第13条の成立で奴隷制は廃止された。憲法修正には全州の4分の3の州からの批准が必要で、それは1年以内に達成されたが、最後になったミシシッピ州が批准したのは、130年後の1995年のことだったという。

 

 

民放のBSで放送していたアメリカ映画「ナイトクローラー

2014年の作品。

原題「NIGHTCRAWLER」

監督・脚本ダン・ギルロイ、出演ジェイク・ギレンホールレネ・ルッソリズ・アーメッドビル・パクストンほか。

モラルを踏み越えて特ダネ映像を追い求める報道パパラッチの狂気を描いたサスペンス。

 

ロサンゼルスの街で、学歴もコネもないまま孤独に生きるルイス(ジェイク・ギレンホール)。道徳心もない彼は、建設現場から夜中に資材を盗んで生計を立てるコソ泥として生きてきたが、ある晩、交通事故現場を通りかかって、事件・事故の現場にいち早く駆けつけてはビデオで撮影し、スクープ映像をTV局に映像を売り込む報道パパラッチの存在を知る。

これこそ自分の生きる道とひらめいたルイス。早速カメラと無線傍受器を買い、事故現場を撮影してローカル局に映像を売り込むと、ディレクターのニーナ(レネ・ルッソ)は、視聴率アップのためさらに過激な映像を要求。ドブネズミからハイエナへ。ルイスは人の死を飯のタネにして、のし上がっていく・・・。

 

ナイトクローラー」とは「夜を這う生きもの」という意味だが、アメリカでは主として「暗黒街」や「犯罪現場」でうごめく人々を指す隠語として使われていて、本作では、夜の街をはい回り、事件や事故現場にいち早く駆けつけて刺激的な映像を撮影してはTV局に高値で売りつける報道パパラッチのこと。

まるで腐肉に群がるハイエナのごとく他人の不幸を食い物にしてひたすらセンセーショナルな特ダネを追い続ける彼らの知られざる生態を、脚本家出身でこれが初監督作となるダン・ギルロイが赤裸々に激写。

主役のギレンホールは、9㎏減量して目をギラつかせたアンチヒーローを不気味に“怪演”。共演のレネ・ルッソは監督の妻でもある。

 

VIPを追いかけるパパラッチの存在は世界中で知られているが、アメリカではニュース報道も似た状況にあるといわれる。警察無線を傍受し、事件現場に急行してはセンセーショナルな動画を撮り、テレビ局に売りつける人々がいて、かつてフリーランスのニュースカメラマンは「鋭く刺す」という意味の「スティンガー」と呼ばれていたが、最近では「ナイトクローラー」と呼ばれるようになっているそうだ。

そんな報道パパラッチの実態に迫った初めての作品が本作という。