善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「ジャック・サマースビー」「ブラック・バード」

ニュージーランドの赤ワイン「セラー・セレクション・メルロ(CELLAR SELECTION MERLOT)2020」

ワイナリーのシレーニはニュージーランド北島、東寄りの海に近い都市ホークス・ベイに位置する。石の多い土壌で、熱を吸収しやすく、水はけがよいというフランス・ボルドーに似た特徴があり、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロなどのボルドー品種の栽培が盛んで、きのう飲んだのもメルロ。

芳醇な果実味と優しいタンニンが魅力の赤ワイン。

 

ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していたアメリカ映画「ジャック・サマースビー」。

1993年の作品。

原題「SOMMERSBY」

監督ジョン・アミエル、出演リチャード・ギアジョディ・フォスタービル・プルマン、ジェイムズ・アール・ジョーンズほか。

リチャード・ギアはエグゼクティヴ・プロデューサーを兼ねている。

 

南北戦争終結直後のアメリカ南部を舞台に、別人のようになって帰還した若き農園経営者の謎と、周囲の人々との交流を描く人間ドラマ。

1860年代後半のアメリカ南部テネシー州ヴァイン・ビル。この地の農園経営者であるジャック・サマースビーリチャード・ギア)が、南北戦争で南軍に従軍したため村を出てから6年ぶりで帰って来た。終戦後2年がすぎ、戦死したと思っていた村人たちや彼の妻ローレル(ジョディ・フォスター)は驚く。たしかに顔かたちは同じ。しかし、ローレルはどうしても彼が本当の夫であるとは信じられないでいた。

本物のジャックは冷酷な性格で人々から憎まれていたのに、帰って来た彼はまるで別人のように優しく品格のある男だった。自分の土地を共同農園として提供して、やせた土地に合うタバコの栽培により人々と利益を分け合う計画を熱心に推進し、以前のジャックなら黒人たちを差別的に扱っていたのに、優しく接し、黒人の使用人に小作地を譲り渡す約束をする。
タバコ栽培は成功し、サマースビーは村人たちの尊敬を集める。ところがある日、保安官がやって来てサマースビーは殺人容疑で逮捕される。以前、ポーカー賭博のトラブルでひとりの男を殺した容疑で、裁判で有罪となれば彼は絞首刑となる・・・。

 

中世のフランスで実際に起こった他人に成りすます男を描いたフランス映画「マルタン・ゲールの帰郷」(1982年)をハリウッドが再映画化したのが本作。

後半は法廷劇となり、男がサマースビーであるかどうか、ミステリーっぽい展開になっていく。

南軍に従軍し奴隷制支持のジャックと、奴隷制や黒人差別に反対するもう一人のジャック。その対比が鮮明で、途中、「白椿騎士団(KKKと同じ白人至上主義の秘密結社)」のメンバーが出てきて黒人差別を象徴する十字架を焼くシーンが描かれたりもする。ジャックが裁かれた裁判の判事は黒人で(あの時代に南部で黒人の判事がいたというのも驚きだが)、秘密結社のメンバーが身分を隠して証人として出廷し、正体がバレると黒人の判事に憎悪むき出しの悪罵を連発して法廷侮辱罪で60日の禁固刑をいい渡される場面もあった。

ジャックがジャック本人でなく偽者なら無罪となるが、本人なら有罪となって縛り首になる。しかし、偽者なら黒人の小作人たちに土地を譲ると約束した証書のサインは偽物になり、黒人たちは土地を自分のものにできなくなる。

彼の命を助けたい妻は偽者だと証言するが、ジャックの決断は・・・。

何ともやりきれない結末となるが、結局、ああいう結末しかなかったのかもしれない。

命と引き換えにしてでも正しいと思ったことを貫こうとするリチャード・ギアと、決然としなおかつ愛にあふれるジョディ・フォスターの、2人の演技が救いとなった。

 

この映画は、リチャード・ギアジョディ・フォスターが演じる“真実の愛”の物語だが、同時に今なおアメリカ社会にはびこる人種差別を告発する映画でもあった。

本作のアメリカでの公開は1993年2月だから、製作したのは前年の1992年だろう。

その年の4月末から5月はじめにかけて、ロサンゼルスでは大規模な暴動が起きている。黒人男性に過剰な暴行を加えた白人警官が無罪になったことで人種的マイノリティーの不満が一気に爆発し、街は無法地帯と化して、多数の死傷者を出した。「ロス暴動」として今も記憶に新しい。

本作のエグゼクティヴ・プロデューサーに名を連ねたリチャード・ギア人道主義者としても知られる人で、この事件に衝撃を受けたに違いない。それで人種差別問題を鮮明にした映画をつくろうと本作をプロデュースしたのか。あるいは、いざ撮影に入ろうとしたらロス暴動が起き、急きょ台本を書き換えた可能性もあるかもしれない。

映画はその時代を映す鏡でもある。

 

ついでにその前に観た映画。

民放のBSで放送していたアメリカ映画「ブラック・バード 家族が家族であるうちに」。

2019年の作品。

原題「BLACKBIRD」

監督ロジャー・ミッシェル、出演スーザン・サランドンケイト・ウィンスレットサム・ニールミア・ワシコウスカ、リンゼイ・ダンカンほか。

 

2014年のデンマーク映画「サイレント・ハート」をリメイクしたヒューマンドラマ。

ある週末、リリー(スーザン・サランドン)と夫で医師のポール(サム・ニール)が生活している海辺の屋敷に、家族と親しい友人がやってきた。進行性の難病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患うリリーは、自分の体が動かせるうちに安楽死を選ぶことにし、死を覚悟した彼女が家族が家族であるうちに過ごすごそうと自宅に招いたのだった。

ところが、長女のジェニファー(ケイト・ウィンスレット)と次女のアンナ(ミア・ワシコウスカ)との間にあった積年のわだかまりが顕在化し、さらにはリリーの親友リズ(リンゼイ・ダンカン)とリリーの夫ポールとが愛人関係にあるとの秘密も明かされ、安楽死を選んだリリーの決断に“待った”がかけられ・・・。

 

安楽死を選んだ彼女の決断の行方も気になるが、「ブラックバード(BLACKBIRD)」という映画のタイトルも気になる。

ブラックバードは直訳すれば「黒い鳥」を意味し、日本ではカラスを連想するが、英語のブラックバードはヨーロッパを中心としたユーラシア大陸に生息するツグミ科の鳥で「クロウタドリ」のことだという。

全身真っ黒の体に、黄色いクチバシ。

写真は以前フランスを旅行したとき(2019年7月)にストラスブールで見たクロウタドリ

日本のカラスよりかわいい感じ。

一方で「ブラックバード」は英語のスラングでは黒人という意味もある。ビートルズが1968年に発表した曲に「Blackbird(ブラックバード)」というのがあるが、作者のポール・マッカトニーによれば黒人女性の解放や人権擁護などについて歌っているという。

鳥のブラックバードであるクロウタドリはヨーロッパでは美しく鳴く鳥として親しまれていて、日本で春告げ鳥といえばウグイスだが、北欧ではクロウタドリが春を歌う春告げ鳥であり、スウェーデンでは国鳥にもなっているという。

ただし、日本同様、欧米でも「黒」には暗いイメージがあって、黒は暗黒、無、死、絶望、悲しみをあらわし、悪魔はしばしば黒鳥としてあらわれるとされるし、クロウタドリは「悪魔、冥界の神、不運、悪、ずるさなどを表す」との説もあるようだ。

マザー・グースにもクロウタドリが登場していて、「6ペンスの唄」の中に出てくるブラックバードとはクロウタドリのことで「悪魔のこらしめ」を意味するとの説もあるという。

そういえば日本のブラックバードであるカラスも、悪や不吉の象徴として描かれることが多い反面、吉兆を示す鳥とのいい伝えもあり、日本神話に登場するカラスの八咫烏(やたがらす)は導きの神とされ、日本サッカー協会のシンボルマークともなっている。

だからクロウタドリにしても、春告げ鳥とされるほど美しく鳴く鳥としての「明」と、黒いことからくる「暗」との、相反する2つのイメージを持っている。本作は、「生」と「死」の2つの決断をめぐる映画。それでつけられた題名が「ブラックドバード」なのかもしれない。