善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

映画「洞窟」とチェ・ジェウンの個展と種子爆弾

銀座のメゾンエルメス10階にあるミニシアター「ル・ステュディオ」で、イタリア・フランス・ドイツ合作の映画洞窟」を観る。

2021年の作品。

原題「IL BUCO」

監督ミケランジェロ・フランマルティーノ。

1961年、洞窟学者による探査チームが、イタリア半島南部のカラブリアにある洞窟の探査を行い、地下687mの地底に到達。これは当時、世界で第3位となる記録的深さだったという。これに着想を得てつくられた、セリフは一切なしのドキュメンターふう映画。

 

海岸沿いの駅で電車から降り立った探査チームの一行は、トラックに乗り換えて峡谷にある平和で静かな村に到着。カウベルをつけた放牧の牛がのんびりと草をはむ草原の一角にポッカリと開いた地獄穴から、命綱のロープとヘルメットの一団が、ヘッドライトを頼りに地中深くまで続く洞窟の探査に乗り出していく。

地中深く潜っている人たちの様子とともに、それを見守るようにたたずむ老いた牛飼いの男の寡黙な姿と眠るような死が描かれる。

 

老いた牛飼いの牛を呼ぶ声だろうか、独特の節回しのよく響く声と、エンドロールで流れる水滴の音が、いずれも美しいメロディーを奏でているようで心に残った。

 

映画のあとは、同ビルの8、9階で開催中の「エコロジー:循環をめぐるダイアローグ」展。会期は2024年5月31日までで、さまざまなアーティストの作品が展示されるそうだが、第1弾は韓国のアーティスト、チェ・ジェウン(崔在銀)の個展「新たな生(La Vita Nuova)」(24年1月28日まで)。

チェ・ジェウンは1953年韓国・ソウル生まれ。76年の来日を機に、いけばなと出合い、草月流3代目家元である勅使河原宏に師事。80年以降は、“生”そして自然との理想的な共存関係をテーマにアート制作を続けているという。

「白い死(White Death)」は白くなった死珊瑚を用いた作品。

今年1月、30年ぶりに沖縄を訪れた際、浜辺に打ち上げられた大量の死珊瑚を見て衝撃を受けたという。沖縄の海では現在、地球暖化や水質汚染などが原因で90%の珊瑚が白化、つまり死んでしまってしているという。

作品に使った死んだ珊瑚は地元の許可を得て借用し、会期終了後は返還する予定。

 

毎朝の散歩で見つけた植物や花のドライフラワー

チェは「自然の中には私たちが名前すら知ることのないまま消えていくものもある。私たちは自然のごく一部しか知らない。まず名前を知るところから始め、未来へつなげたいというメッセージを込めた」と語っている。

 

チェは2015年から「大地の夢プロジェクト(Dreaming of Earth Project)」を展開している。

朝鮮半島を南北に隔てる北緯38度付近の非武装地帯(DMZ)は全長約250㎞、幅約4㎞におよんでいて、ここには大量の地雷が埋められており、休戦から70年たった現在も立ち入り禁止。しかし、70年間人間が足を踏み入れなかった結果、皮肉なことにここは自然のルールで動いている地球上でも稀有な場所となった。ここでは5000種近い動植物が生息しており、希少動物が146種、絶滅危惧種が101種、絶滅保護種が81種も存在しているといわれる。

チェは、このエリアから自然のルールを学び、それを活かした社会づくりを進めようと同プロジェクトを構想。賛同した建築家の坂茂やアーティストの川俣正、リー・ウーファン(李禹煥)、クリスチャン・ボルタンスキーなども参加して、DMZの北と南をつないで地雷を踏まずに行き来できる竹製の空中庭園とか、境界線で使われていた鉄条網を溶かして上を歩けるようにした金属板など、さまざまなプランを提案しているという。

 

おもしろい発想だなと思ったのが「種子爆弾」。

立入禁止のDMZをそのまま維持しながら「森の回復」を図るため、エリア内に立ち入ることなく、空中から投げ入れる「種子爆弾」、つまりシードボム(Seed Bomb)を使って森を形成しようという計画だ。

用意するのは乾いた泥粉、種子、それに水。少しづつ水を加えながら、種子を入れた泥団子のようにこねていって、陶器をつくる要領でよく練り、空気を抜きながら丸くしていく。

このようにしてつくられたシードボムを空中から投下する方式は、人間の手が届きにくいところに空中から投下することで森の造成を誘導する方法であり、植栽繁殖を最初は人為的に行うが、やがて植物が自らの力で森を形成していくようになるのだという。

シードボムのイラストも紹介されていたが、ドローンを使ってねらった場所まで飛んで行って、空中からシードボムを投下するやり方のようだった。