善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」ほか

アルゼンチンの赤ワイン「カイケン・ウルトラ・カベルネ・ソーヴィニヨン(KAIKEN ULTRA CABERNET SAUVIGNON)2019」

(メインの料理は厚切り牛サーロインステーキ)

チリのワイナリー、モンテスがアルゼンチンで手がけるワイン。

カベルネ・ソーヴィニヨン100%。

モンテスの出発点であるチリと、アンデス山脈を越えた隣国アルゼンチンでの新しい挑戦の象徴として、アンデス山脈の渡り鳥、ガンの現地名である「カイケン」と名付けられた。

 

いつもは日本酒だが、たまにはワイン。

ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していたスペイン・ベルギー・フランス・イギリス・ポルトガル合作の映画「テリー・ギリアムドン・キホーテ」。

2018年の作品。

原題「THE MAN WHO KILLED DON QUIXOTE」

監督テリー・ギリアム、出演アダム・ドライバージョナサン・プライスジョアナ・ヒベイロ、オルガ・キュリレンコステラン・スカルスガルドほか。

構想30年、何度も映画化を試みるも、そのたびに製作中止などの憂き目に遭い、ようやく完成にこぎつけたギリアム念願の一作。自らをドン・キホーテと信じる老人と若手映画監督の奇妙な旅路を描く。

 

仕事への情熱を失っていた若手CM監督のトビー(アダム・ドライバー)はスペインの田舎での撮影中、謎めいた男からDVDを渡される。それはトビーが10年前の学生時代に監督し、賞にも輝いた「ドン・キホーテを殺した男」だった。

映画の舞台となった村が近くにあることを知ったトビーは現地を訪れるが、ドン・キホーテを演じた靴職人の老人ハビエル(ジョナサン・プライス)が自分を本物の騎士だと信じ込むなど、村の人々はトビーの映画のせいですっかり変わり果てていた。

トビーをドン・キホーテの忠実な従者サンチョだと思い込んだハビエルは、トビーを無理やり連れ出し、冒険の旅へ出るが・・・。

 

ギリアム監督のドン・キホーテの映画化はまず2000年に行われ、このときのトビー役はジョニー・デップ、キホーテには「髪結いの亭主」などのジャン・ロシュフォールで撮影が始まったが、洪水によるセットや機材の被害、病気によるロシュフォールの降板などでロケ開始からわずか数日で撮影ストップとなり、製作はキャンセルされてしまった。このときのドタバタの様子は「ロスト・イン・ラ・マンチャ」と題してドキュメンタリー映画になっている。

その後も複数回再始動に挑み、そのたびに頓挫し、ようやく完成したのが本作だった。

ギリアム監督がそこまでドン・キホーテにこだわったのはなぜだろうか?

原題の「THE MAN WHO KILLED DON QUIXOTE」は直訳すると「ドン・キホーテを殺した男」となる。

妄想と現実がごちゃまぜとなり、その狭間を描くのが好きなギリアム監督にとって、妄想と現実がまぜこぜになったドン・キホーテこそ、“理想の人物”だったに違いない。

映画では時代の先端をいくCM監督のトビーが、仕方なくサンチョ・パンサとしてドン・キホーテ(と信じ込んだ老人)の旅についていく中で、トビー自身、現実と妄想の区別がつかなくなっていく。

そしてついには、死んでしまった老人に代わって、トビーは新たな「ドン・キホーテ」となり、襲いかかってきた3人の巨人に勝負を挑むが、彼が巨人と思い込んでいたのはCM撮影現場のセットの風車だった。

トビーに限らず、人はみな本当は心の中ではドン・キホーテのように夢の中で生きることに憧れていて、しかし実際には、夢と現実の狭間でもがき苦しんでいるのかもしれない。

 

ついでにその前に観たのは、民放のBSで放送していたインド映画「アラヴィンダとヴィーラ」。

2018年の作品。

原題「ARAVINDA SAMETHA VEERA RAGHAVA」

監督トリヴィクラム・シュリーニヴァース、出演NTR・Jr、プージャー・ヘグデ、スニールほか。

主演は「RRR」(2022年)や「ヤマドンガ」(2007年)のNTR・Jr。敵対する名家同士の血で血を洗う激しい抗争と運命の恋を描き、最後は意外な結末に。

 

南インドのラーヤラシーマ地方では、敵対する2つの村の名家の間で、血で血を洗う抗争が続いていた。12年間のロンドン留学から村に戻ってきた青年ヴィーラ(NTR・Jr)は、迎えに来た父親たちを敵対する村の者たちに殺害されてしまう。

怒りに震えたヴィーラはその場に死体の山を築く。報復を恐れた祖母の頼みでハイダラーバードへ赴いたヴィーラは、文化人類学を専攻する学生アラヴィンダ(プージャー・ヘグデ)と出会い恋に落ちる。暴力の連鎖を断ち切ることを決意したヴィーラは、再び故郷へ戻るのだが・・・。

 

物語の舞台となるアーンドラ・プラデーシュ州内陸部のラーヤラシーマ地方はデカン高原南端部に位置し、昔ながらの風習が今なお残る農村地帯。映画ではファクショニスト(派閥主義者)と呼ばれる人々が派閥同士で抗争し、多数の死者も出ている様子が描かれているが、実際に起こっていることだという。

ラーヤラシーマ地方では、農村社会に根を下ろす裕福な大地主とその地域に住む人々とがある種の運命共同体をつくっていて、トップに立つ人物は首長ほどの権力を持っているという。そんなところでの暴力の連鎖を如何にして断ち切るのか。

従来の映画だったら、“正義の男”が痛快な技で悪者をボカスカやっつけて一見落着となるところだが、それでは暴力の連鎖はいつまでもとまらない。暴力が当たり前の地で、“暴力のDNA”を受け継いでいるとさえいわれる男が、いかにして暴力なしに問題を解決するか。意外な解決法とは、男優先ではなく、女性から学んで彼女らに表舞台に立ってもらうこと。

MeToo運動の影響を受けたような映画だった。

 

劇中、NTR・Jrを中心としたダンス陣の踊りがスゴすぎる。「早送りでは?」と目を疑うほどの驚異の高速ダンスを踊っていたが、あれは本物?

出演者たちの踊りのキレキレ度はもちろん本物。それをさらに高速に見せるため、多少のコマ落とし的な処理は加えられているだろうが、そこが映画の魔術。爽快なダンスだった。

 

民放のBSで放送していたアメリカ映画「大いなる陰謀」。

2007年の作品。

原題「LIONS FOR LAMBS」

監督・制作・主演ロバート・レッドフォード、出演メリル・ストリープトム・クルーズマイケル・ペーニャアンドリュー・ガーフィールドほか。

 

トム・クルーズが自らエグゼクティブを務める新生ユナイテッド・アーティスツの第1回作品。ロバート・レッドフォードメリル・ストリープトム・クルーズの3人が、大学教授、ジャーナリスト、上院議員の3つの視点から対テロ戦争の裏にある政治家たちの思惑を浮かび上がらせる。

 

大統領への野望を抱く共和党のアーヴィング上院議員トム・クルーズ)は対テロ戦争で名を売りたいと考え、ジャーナリストのロス(メリル・ストリープ)に最新の作戦をリークする。同じころ、大学教授のマレー(ロバート・レッドフォード)は学生面談で、将来を悲観している教え子に2の先輩の話をする。2人は自分たちの可能性を試すために軍に志願し、アフガニスタンでアーヴィングの仕掛けた作戦に従事しようとしていた・・・。

 

学生面談で教授役のロバート・レッドフォードが教え子に語るエピソードが印象的だった。

それは第一次世界大戦中、勇敢に戦場で戦うイギリス軍兵士たちの姿を目にしたドイツ軍兵士の言葉だった。

「自分で戦う気持ちなどない愚かな司令官(羊)のために、最前線で勇敢に戦う兵士たち(ライオン)は命を投げ出している。権力の座にいる者たちにとって、兵士の1人や2人が死んだとしても何でもないことなんだ」

 

邦題は「大いなる陰謀」で、まるで陰謀がいいことのような響きがあるが、原題は「LIONS FOR LAMBS」。

直訳すれば「羊のためのライオン」となるが、ここでいう羊とは、実際には危険なところに行かない臆病者の比喩であり、ライオンは理想に燃える勇敢な者を指しているようだ。

アメリカはベトナム戦争での敗北以降も「テロとの戦い」などと称してアフガニスタンイラクなどに軍隊を送り込んだりしている。しかし、戦争の指導者たち、つまり政治家は安全な場所で机上の空論を立てているにすぎず、無謀な作戦を強いられて戦場で命をかけて戦っている兵士のことなどはさほど考えていない、ということをこの映画ではいいたかったのかもしれない。