善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「アナザー・カントリー」他

フランス・ボルドーの赤ワイン「シャトー・レスぺランス(CHATEAU L’ESPERANCE)2014」

(写真中央の料理は、ディルと牡蠣のアヒージョ。ほかにもパプリカやニンニクなども入っているが、セリ科のハーブ・ディルの風味がアクセントになって絶品の味!)

シャトー・レスペランスは、できる限り自然に近いワイン造り(リュット・レゾネ=減農薬栽培)を行なっているシャトーという。

平均樹齢30年のメルロとカベルネ・ソーヴィニヨンブレンドで仕立てる1本で、メルロー90%、カベルネ・ソーヴィニヨン10%。

 

ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していたイギリス映画「アナザー・カントリー」。

1984年の作品。

監督マレク・カニエフスカ、出演ルパート・エヴェレットコリン・ファース、ケイリー・エルウィス、マイケル・ジェン、ロバート・アディほか。

1930年代イギリスのパブリックスクールを舞台に、同性愛や共産主義に傾倒していくエリート学生たちの姿を描いた青春ドラマ。

2012年10月にデジタルリマスター版でリバイバルされ、22年9月にもHDニューマスター版が公開された。

 

1932年、夏。パブリック・スクールの寄宿生ガイ・ベネット(ルパート・エベレット)は、第一次世界大戦で戦死した卒業生を讃えるミサで美少年ハーコート(ケイリー・エルウィス)に一目惚れする。ガイは優等生でありながら権威主義を否定して、奔放な行動力を持つカリスマ的な魅力を漂わせる人物。最終学年が始まれば自治会エリート「ゴッド」に選ばれるはずであり、ゆくゆくは外交官となってパリ駐在大使になるという輝かしい未来が約束されていた。

一方、ガイにはトミー(コリン・ファース)というレーニンに傾倒する共産主義者の親友がいて、寮生活をともにしていた。

ある日、寮生の一人が同性愛の現場を舎監に目撃され、自殺する。この事件をきっかけにガイの自由さを嫌う軍国主義者の自治会メンバーたちが動き出す。やがて、ガイが同性のハーコートと恋仲にあることも白日の下に晒され、彼の性的指向を理由に「ゴッド」への指名を拒否され、明るかったはずのガイの未来は閉ざされてしまう。

絶望の淵に立ったガイは、次第にトミーの思想に感化され、選んだ道は・・・。

 

あの時代のイギリスでは、軍国主義的で保守的な人間ほど同性愛を嫌悪していた(今の日本と似ている)。人類みな平等で性は自由であるべきというのが許せなかったのだろうが、その背景には同性愛を宗教上の罪ととらえ、古い家族制度にこだわるキリスト教の教えもあったようだ。

イギリスではつい最近まで同性愛(正確には男色)を窃盗や殺人並みの犯罪とみなしていて、21歳以上の男性同士の同性愛が合法化されたのはイングランドウェールズでは1967年になってからで、スコットランドでは1980年、北アイルランドでは1982年になるまで同性愛は違法だったという。

 

主人公のガイ・ベネットは、実在の人物ガイ・バージェスがモデル。彼は将来を嘱望されたエリートだったが、ソ連側のスパイとなり、BBCや外務省勤務を経てソ連に亡命。同性愛者だった彼がなぜソ連のスパイになったのか、バージェスのパブリック・スクールの名門イートン校時代に焦点を当てた物語だ。

イートン校(イートン・カレッジ)は1440年に創設され男子全寮制パブリック・スクール。王室のあるウィンザーテムズ川を挟んだ対岸に位置するイートンに広大な敷地を持ち、各界に多くの著名人や首相を輩出した英国一の名門校とされている。

本作では当初、イートン校内でロケを行おうとしたが拒否され、オックスフォード大学のボドリアン図書館やプレーズノーズ・カレッジ、オックスフォード中心地のブロード・ストリートなどで主な撮影が行われたという。

 

映画の序盤、中庭に教師や生徒らが集まってのミサで全員が斉唱するシーンで歌われたのはイギリスの作曲家グスターヴ・ホルスト組曲「惑星」の中の「木星(ジュピター)」の一節だった。われわれ日本人としては平原綾香が歌手デビューしたときの曲として有名だが、なぜイギリスのパブリック・スクールでみんな気をつけをして歌っているのかと思ったら、ホルスト作曲のあの部分は「我は汝に誓う、我が祖国よ」と題するイギリスの愛国歌で、イギリス国教会の聖歌でもあるのだそうだ。

組曲「惑星」は1914年から16年にかけて作曲され、1918年に詞がつけられた。この年はドイツの降伏により第一次世界大戦が終わった年であり、1番では祖国への忠誠心、2番では平穏な理想の国家について歌っている。

この曲を生徒たちが歌いあげるシーンが映画の展開を暗示している。なぜなら、本作のタイトルである「アナザー・カントリー」はこの曲の歌詞から取られているからだ。

「And there's another country, I've heard of long ago~」と歌う部分の歌詞は日本語訳では次のようになっている。

 

そしてもう一つの祖国があると、はるか昔に伝え聞かされた。
かの国を愛する者には最も愛しく、かの国を知るものには最も偉大であり、
かの国には軍隊が無く、王も存在せず、
人々の敬虔な心が砦となり、受難は誇りとなる。
人々の魂ごとにその静かなる輝きは増し、
かの国が歩む道のりは穏やかで、その先には常に平和である。

Wikipediaより引用)

 

この部分は、もちろん作詞した人はまるで違うことを考えただろうが、少なくとも映画の主人公たちは、同性愛が許され、共産主義が許されるような自由で誰もが平等な「もうひとつの国」を思い描いたのではないだろうか。

 

ついでにその前に観た映画。

民放のBSで放送していたアメリカ映画「HER/世界でひとつの彼女」。

2013年の作品。

原題「HER」

監督・脚本スパイク・ジョーンズ、出演ホアキン・フェニックススカーレット・ヨハンソンエイミー・アダムスルーニー・マーラオリヴィア・ワイルドほか。

 

近未来のロサンゼルスを舞台に人間と人工知能とが愛し合うラブストーリー。

他人の代わりに思いを伝える手紙を書く代筆ライターのセオドア(ホアキン・フェニックス)は、長年連れ添った妻と別れ、傷心の日々を送っていた。

そんなとき、発売されたばかりのAI(人工知能)型OSを手に入れたセオドアが自宅で起動させると、人格を持ったOS〈サマンサ〉(スカーレット・ヨハンソン)があらわれる。声だけの存在ながら、知的でユーモアもあるサマンサにセオドアは次第に惹かれていき、そしてサマンサもまた・・・。

 

近未来ならホントにありそうな話。

現実世界の女性ではなく、コンピュータから発せられる人工知能の声にひかれ、次第に“彼女”と過ごす時間に幸せを感じるようになっていく男の物語だが、それだけでなく、人工知能のほうもまた、男に恋心を抱くようになっていく

聞こえてくる「声」はただの声ではない。AIがつくり出した「人格を持った声」に恋するとなると、そこにいるのは「サマンサ」という一人の女性だった。こうして人間と人工知能との境界は消えていくのだが、どうしても乗り越えられない問題がある。それは現実世界では愛というものをどうしてもセックスと結びつけたくなるからだ。

プラトニックに徹するならこの映画はまさしく近未来を予言する映画かも?と思ったが、セオドアの男としての欲望を察知したのか、サマンサから代理セックスサービスを提案される。セオドアの部屋にカメラとイヤホンをつけた代理の女性がやってきて、サマンサの音声に合わせて体を動かすのだが、どこかで見たシーンだなーと思ったら「ブレードランナー2049」でまったく同じシーンがあった。

人工知能のヒロイン・ジョイが主人公のブレードランナーと抱き合いたい。しかし、ジョイは人間の心を持っているが実体はなく、どうやったって肉体的に愛し合うことはできない。そこで彼女は娼婦を雇い、その娼婦に自分を“同期”させることで肉体を獲得し、ブレードランナーはジョイと娼婦の体を介してつながっていく。

ブレードランナー2049」は2017年の作品なのに対して本作は2013年だからこっちのほうが作品としては早いが。

しかし、ブレードランナーは娼婦を介してAIとつながるが、本作でのセオドアは代理の女性を拒絶してしまう。彼はむしろ、肉体はなくても常に彼の隣にいるサマンサを愛したのだったが、結局はサマンサは機械であることから絶望を感じてしまう。

 

スカーレット・ヨハンソンがサマンサ役で声のみの出演。アカデミー賞の呼び声も高く、「声だけの演技で初のアカデミー賞主演女優賞ノミネートか?」と騒がれたが、結局、主演女優賞でのノミネートはなく、作品賞を含む5部門にノミネートされて脚本賞を受賞。