善福寺公園めぐり

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ルリ男くん同士のケンカは「色」で決まる

きのう本ブログで、ルリビタキの独特の色彩発現について書いた。

ルリビタキというとオスの青色が美しく、“青い鳥”として人気だが、実はルリビタキの最大の特徴はそれより、若いオスが繁殖可能であるにも関わらずメスそっくりの地味なオリーブ褐色の羽の色をしていることだという。

(鮮やかな青い羽の色のルリビタキ・オス)

ルリビタキのメス?それとも若いオス?)

オスの羽が青色になるのは2歳以上になってからで、それまでは繁殖能力があるにも関わらず地味な色のままでいる。このように成熟したのに羽の色の変化が遅れる現象はほかの多くの鳥では見られない特徴であり、「Delayed Plumage Maturation (DPM)」という名前がつけられていて、日本語では「遅延羽色成熟」と呼ばれる(日本鳥学会用語委員会、2006年)。

いったいなぜルリビタキでこのような現象が起きるのかについて研究している人がいた。

森本元さんという山階鳥類研究所の研究員で鳥類の羽衣・羽色に関する研究を行っている研究者で、彼によれば、ルリビタキのオスの外見の違いはオス同士の争い、雄間闘争に関係があるのだという。

森本さんは長年、ルリビタキを研究材料としていて、そのきっかけは、この鳥の不思議な色発現パターンに興味を持ったことだったという。

鳥や昆虫の世界ではオスとメスで色が違うのはよくあり、これを「性的二型」と呼ぶ。多くの場合、オスのほうが派手で美しい色をしていて、メスは地味。なぜオスは派手で美しいかといえば、そのほうがメスにモテるからにほかならない。

「鮮やかな個体の方が栄養状態がよかったり多くのエサをヒナへ運べたりと、メスにとって婚姻相手としてメリットがあるから」という研究成果を森本さんは紹介している。

ところがルリビタキでは、若いオスはメスにそっくりな褐色をしており、年をとると全身が青色に大きく変化していく。虫や魚などでは、性的に成熟していない、つまり繁殖年齢に達していない幼体では成魚・成虫と全く異なる外観をしていることがあるが、ルリビタキの場合、繁殖能力があるにもかかわらず幼体の色のままなのだ。

このため、繁殖期になると青いオスも褐色のオスも、それぞれのオスが1羽で1つの縄張りを持つことになる。

なぜ成熟したオスなのに幼いときのままの色合いでいるのか、と不思議に思った森本さんは、いろいろ研究した結果、このオスの外観の違いは雄間闘争に関係があることを突き止めた。具体的には、縄張り争いの「方法」に影響していたのだという。

ルリビタキは縄張り意識の強い鳥で、冬は半径数百メートルの範囲を1個体が1つの縄張りを保持して、同じ場所で暮らす。

縄張りをめぐってルリビタキのオス同士が争う際、まず脇羽をふくらませてお互いを威嚇するディスプレイから始まる。さらに争いが激しくなると素早く飛び回り、相手を追いかけ回す行動へと発展する。さらに激しさを増すと、ついにはお互いを脚でつかみあったり、つつきあったりする身体的な接触を伴う直接闘争に至っていく。

つつきあいなどによる激しい闘争は、鳥にとってケガに結びつく危険性が高いので、できれば避けたいもの。実際、多くの動物のオス同士の争いは、危険な直接闘争ではなく儀式化されたディスプレイのみで行われることも多く、直接闘争を避けるように進化していると考えられている、とは森本さんは述べている。

また、より鮮やかなオスや高齢のオスの方が、オス同士の関係においてより優位なオス(強いオス)である傾向が多くの動物で知られていて、地味な若いオスがわざわざ派手な強いオスと直接闘争を行うのはリスクが大きいと避ける傾向にあるのだという。

森本さんは、青vs青、青vsオリーブ褐色、オリーブ褐色vsオリーブ褐色の3通りで、ルリビタキのオスとオスを争わせる実験を行っている。すると、争っているオス同士の色の組み合わせの違いによって、闘争方法の激しさが異なることを見つけた。

同じ色同士の闘争では、最も激しい闘争方法である「つつきあい」まで発展することが多かったのが、異なる色同士の争いではそこまで激しくならずに「追いかけ」あう段階で勝敗が決する事がほとんどだったという。

これは、ルリビタキが互いの色を雄間闘争における信号として利用しており、互いの地位が外観から予想できる際にはリスクの高い「直接闘争」に至る前に、 勝敗を決している可能性を示唆していて、ルリビタキの場合は青色の有無が個体間の地位を伝達する信号として機能したことになる。

また、鳥類の色彩は主に、カロチノイド、メラニン、構造色によって発色されるが、青色は構造色なので、構造色の有無が信号として機能したといえる、と森本さんは分析している。

(以上の記事は、文部科学省の新学術領域「生物多様性を規範とする革新的材料技術」ニュースレター Vol.4No.2に掲載された森本さんの「鳥類における色彩と機能」を参考にしました)

外見の違いが、オスの年齢と連動しているというのも注目に値するだろう。

ルリビタキにとって青色は、オスの社会的地位を示す信号として機能しているのかもしれない。羽が青くない若オスは、まだ自分は若輩者ですよとへりくだることによって、繁殖のチャンスを何とか得ながらも生き延びて、次のステップアップを待っているのかもしれない。