善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

映画「ザリガニの鳴くところ」&成増・徳兵衛

イオンシネマの優待券があったので、映画館を探すと、東京23区内にあるのは東武東上線東武練馬駅近くにあるイオンシネマ板橋のみ。

そもそもイオンの立地戦略からして、すでに栄えている繁華街ではなく、「キツネやタヌキが出るようなところ」にショッピングセンターをつくり、そこを新しい繁華街にしようというものだから、イオンに併設する映画館も都心から遠く離れた郊外に立地している。

それでも最近は、都心部での劇場展開もめざしているそうで、今のところもっとも都心型なのがイオンシネマ板橋ということになる。

バスと電車を乗り継いで行って、先月から公開中のアメリカ映画「ザリガニの鳴くところ」を観る。

2022年製作の作品。

原題「WHERE THE CRAWDADS SING」

監督オリビア・ニューマン、出演デイジーエドガー=ジョーンズ、テイラー・ジョン・スミス、デビッド・ストラザーンほか。

 

全世界で累計1500万部を売り上げたディーリア・オーエンズの同名ミステリー小説を映画化。

1969年、ノースカロライナ州の湿地帯で、裕福な家庭で育ち婚約者もいる若い男の変死体が発見された。容疑をかけられたのは、「ザリガニが鳴くところ」と呼ばれるような湿地帯の奥でたったひとり育ち、“湿地の娘”と揶揄される女性カイア(デイジーエドガー=ジョーンズ)。起訴され被告人となって法廷にあらわれた彼女の姿に、それまでの半生がダブッて映し出される。

6歳のときに親に見捨てられ、家族は散り散りとなり、学校にも通わず、花、草木、魚、鳥など、湿地の自然から生きる術を学び、ひとりで生き抜いてきた彼女。同じように自然を愛する青年テイト(テイラー・ジョン・スミス)と出会い、カイアの世界は変化していくのだが・・・。

 

原作も読んでいるが、映画もよくできた作品だった。

湿地を映し出す映像が美しく、VFXも巧みに使われているが違和感がない。

湿地というとジメジメとしていて鬱蒼としたジャングルみたいな暗いイメージがあるが、それはアドベンチャー映画に出てくる熱帯の湿地で、アメリカ、少なくともノースカロライナの湿地は、広大で、見通しもよく、夜になれば満天の星に包まれるような“明るい湿地”だった。

さまざまな生命の息吹に満ちあふれていて、そこにたたずめば、ひとり生きなければならなかった孤独な少女の心を癒してくれる。カイアとって湿地は母なる存在であることがわかる。

 

バックに流れる音楽が秀逸だった。

楽曲を手がけたのはマイケル・ダナという映画音楽の作曲家で、これまでも映画『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』でアカデミー賞の作曲賞を受賞している。

本作でダナは、この映画の舞台であるノースカロライナ州の湿地帯の音を表現するため、自然を音楽の中心に据えようとした。そこで貝殻など天然の海洋楽器を集めるミュージシャンと協力して、バンジョーフィドルカントリーミュージックで使われるヴァイオリン)、オートハープなどこの地域の伝統楽器と組み合わせた楽器編成を取り入れる工夫をしたという。

エンディングで流れるのは、世界的に知られるシンガーソングライター(何しろグラミー賞11回受賞)、テイラー・スウィフトがこの映画のために書き下ろした新曲「Carolina」。

彼女の曲もどこかカントリーミュージックふうに聞こえたが、映画のイメージに合わせたのかと思ったら彼女のもともとのルーツはカントリーと知って納得がいった。

物語の舞台がノースカロライナ州なので、「カロライナ」とは人名のようでもあるが、そこに広がる自然そのもののことだろう。

「私は迷子として生まれ、ずっと孤独に生きてきた。これからだって孤独のままだろうけど、なぜ私が何年もさまよっているのか、鳥のように自由で軽やかなのか、カロライナは知っている・・・」

 

しかし、映像と音楽であれだけ湿地の自然を美しく描いているものの、原作である小説にはかなわない。

優秀な書き手にかかれば、絵のない文字の世界はむしろ読み手に空想の翼を広げさせ、映像では表現できない、より豊かな自然の中に誘(いざな)ってくれるのか。

映画を観て、あらためてディーリア・オーエンズが書いた小説「ザリガニの鳴くところ」の世界観というか自然観に共鳴し、自然とそこに生き、共生する、人間を含めた無数の命を感じた。

 

映画を見たあとは、東武東上線東武練馬駅から2つめの成増駅近くの居酒屋「徳兵衛」でイッパイ。

一軒家の隠れ家的な雰囲気で、女将さんを中心にした家族経営の店のようだ。

炉端焼きが自慢らしく、炉端のまわりにカウンターがコの字になっていて、13席ほど。2階にもテーブルがあるらしい。

 

この店の変わっているところ(いや、ホントはいいところ)は、店の奥に日本酒セラーがあって、一升瓶がズラリと並んでいる。客は自分でそこに行って気に入ったのを持ってきて女将さんに渡すと、徳利に注ぎ分けてくれる。

何て楽しいシステム!

もちろん、どんな酒にしようか迷ったときは女将さんからのアドバイスもあるので安心できる。

女将さんは富山の高岡のご出身だそうで、メニューにも富山の海の幸がズラリ。

酒も富山の酒が多く、飲んだのは、新潟県との県境に近い朝日町の「林」など。

外は冬の寒さで氷雨が降っていたので、女将さんの勧めで途中から砺波市の「玄」をぬる燗でいただく。

 

料理はまずお通し。

 

富山名物のホタルイカなどの昆布締め。

たしか、富山は昆布消費量が全国1位と聞いたことがある。その理由は、北海道からの北前船の寄港地になっていたからで、富山湾で獲れるキトキトの魚を北海道の昆布(天然の昆布はほぼ北海道産)で締める料理が名物の1つとなっている。

昆布締めに使った昆布はあとで炉端で焼いてくれて、これも一品料理となる。

 

ほかにも炉端で焼いてもらったもの。

まずはナガイモ。

 

続いて、ミョウガ、ホタテ、アスパラガス。

 

白子焼きはバター風味。

 

イカの一夜干しの炙り。

ワタつきなのでお酒にピッタリ。

シアワセな気分で帰還。