善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「ある機関助士」

アルゼンチンの赤ワイン「カイケン・エステート・カベルネ・ソーヴィニヨン(KAIKEN ESTATE CABERNET SAUVIGNON)2020」

(写真はこのあと牛のサーロインステーキ)

チリのトップワイナリー、モンテス社がアルゼンチンで手がけるワイン。

生産地はアルゼンチンのメンドーサ。

カベルネ・ソーヴィニヨン100%。

やわらかなタンニンでバランスのとれた味わい。

 

ワインのあと観たのは、民放のBSで放送していたドキュメンタリー映画「ある機関助士」。

1963年の作品。

監督・脚本・土本典昭、撮影・根岸栄、録音・安田哲男、音楽・三木稔

(VHSのビデオにもなっている)

 

国鉄(今のJR)は1962年5月に死者160人を出す大惨事となった常磐線三河島駅構内での列車脱線多重衝突事故を起こし、安全性が大問題になっていた。そこで、安全への取り組みを頑張ってますよと国民にPRするため国鉄によって企画され、岩波映画製作所が製作した37分のドキュメンタリー映画

ドキュメンタリーとはいえ、いやだからこそ、その迫真力は凄まじく、短編ながら力動感あふれて劇映画以上に手に汗握るような映画だった。

 

監督はその後、社会派のドキュメンタリー映画を多くつくった土本典昭

国鉄としてはPR用につくったつもりでいたが、映画は鉄道員たちが働く現場のリアルな労働環境を克明に描き、安全第一をモットーに列車を動かすため懸命になっている姿とともに、その過酷な労働をもあぶり出すものとなった。

そこで、試写会で映画を見た国鉄当局の幹部は、本作品の一般公開に難色を示し公開を見送ることを考えたらしい。しかし、土本監督が事前に労働組合や各職場から撮影許可を得ていて、大半の組合員、職場側も公開を容認し、その年の教育映画祭最高賞を受賞するなど世間の評価も高かったことから、最終的に一般公開に踏み切ったといわれる。

 

ベテランの中島鷹雄機関士と若い小沼慶三機関助士の1日の勤務を追った内容になっていて、ナレーションは小沼機関助士が担当している。

2人は国内最大級のSL、 C62が牽引する急行「みちのく」に乗務していた。

この日は朝8時に尾久機関区に出勤し、上野‐水戸間の急行「みちのく」に乗務するのが仕事で、夜8時ごろに退勤する日勤乗務だった。

2人が乗った午前中の下り急行「みちのく」青森行き列車は、上野駅からダイヤ通り正確に走って定時に水戸駅に到着。列車はその後12時間かけて青森まで向かうが、2人はここで交代して夕方まで機関区内で休息する。

最初は回想シーンも交えながらノンビリした感じで1日の動きを追っているが、夕方の水戸駅17時27分発の上野駅行き上り急行「みちのく」が、水戸駅に3分遅れて到着すると緊張が一気に高まる。

ナレーションで小沼機関助士が語る。

「定時運行を行っていれば事故は起きない。列車が乱れたときに事故は起きる」

国鉄の規則にも「機関士は列車が遅れたときは許される速度の範囲内で遅れを回復させることにつとめなければならない」と規定されているという。

しかし、取手駅上野駅間の電車(国電区間は、夕方の帰宅ラッシュで過密ダイヤになっていて遅れを回復するのは難しいため、水戸駅を出発してから取手駅に到着する前までに列車の遅れを回復して、定時運行に戻さなくてはならない。

水戸駅上野駅間に許された最高速度は徐行区間を除いて95 km/hまでであり、信号機の数は150、踏切の数は300もある。

急行ゆえ、列車は通過する駅のホームを飛んでいくようにして通過していく。列車からとらえたスピード感あふれる映像が緊迫感を増す。

緊張の1時間40分、1つのミスや誤りも許されない中、機関士と機関助士は互いに連呼し合い、機関助士は火の具合を見て石炭をくべていく。2人の息の合った正確な作業で、少しずつ遅れを取り戻していく。

上野駅到着。

「定時到着、異常ありません」

別に胸を張っているわけでもなく、彼らにとっては日常の一コマにすぎないのだろうが、人々を安全に運んでいく鉄道員の誇らしい姿がそこにあった。

今でこそ車が鉄道に取って代わり、各地のローカル線は危機的状況だが、本来、鉄道は日本の動脈であり、隅々にまで張り巡らされた毛細血管でもあった。

今だって交通ネットワークとして十分に働けるはずだと思うのだが・・・。