善福寺公園めぐり

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馬が主役の感動の舞台 戦火の馬

池袋駅そばのシネリーブル池袋で、2014年にイギリス・ロンドンの劇場で上演された「戦火の馬」の映像収録作品を観る。

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イギリスの国立劇場ロイヤル・ナショナル・シアターが厳選した名舞台をデジタルシネマ化し、映画館で上映する「ナショナル・シアター・ライブ」シリーズの1作。

マイケル・モーパーゴの小説を脚色して上演。数々の演劇賞を受賞し、スティーブン・スピルバーグが映画化したことでも大きな話題を集めた舞台だ。

脚色ニック・スタフォード、演出マリアンヌ・エリオット、トム・モリス。

 

イギリス・デボンの貧しい農民の家で生まれ育った少年アルバートは、父が競売で落札した仔馬にジョーイと名づけて大切に育てる。しかし第1次世界大戦が始まると、ジョーイは軍馬として徴用されることになり、アルバートと離れ離れになってしまう。

今から100年あまり前、史上初の世界戦争となった第1次世界大戦では、人間とともに大量の馬が動員された。戦車や飛行機が使われるようになったのもこの戦争だが、始めのころの主流はまだ伝統的な騎兵戦であり、物資を運ぶのも馬だった。

軍馬として激戦地へ駆り出されたジョーイは、英軍から独軍へと渡り、最後は使い物にならなくなったと殺されようとしたところを、16歳なのに19歳と偽って兵士となり、ジョーイを追って戦場をさまよっていたアルバートと奇跡の再会を果たす・・・。

 

この作品の主役は馬。舞台の上でどうやって登場するのかと思ったら、実に見事な馬の活躍だった。

むろん本物ではなく、パペットと呼ばれる操り人形なのだが、本物そっくりで、生き生きと躍動する姿に魅入られた。

 

最初にまず仔馬が登場するのだが、日本の文楽そっくり。文楽では人形を操ることを「遣う」といっていて、人形のかしら(頭)と右手を遣う「主遣い」、左手を遣う「左遣い」、足を遣う「足遣い」の3人で1体の人形を遣う。より微妙な動きはもちろん心情までも表現しようと世界に例を見ない日本のパペット独特の「3人遣い」が編み出され、3人のうち左遣いと足遣いの2人は全身黒ずくめで黒子に徹しているが、主遣いは紋付き袴姿で顔をさらす。

「戦火の馬」に登場する仔馬も、日本の文楽そっくりの3人遣いで、みんな顔をさらしていて、日本の文楽をヒントにつくられたという。

さらにジョーイが成長すると、一瞬にして大人の馬に変身するのだが、こちらは馬の頭は顔をさらした人形遣いが操るが、うしろの2人は馬の中に入って、前足と後ろ足の馬の足となる。これなどはまさしく歌舞伎の「馬の足」で、歌舞伎からも影響を受けているみたいだ。

 

芝居の中でたびたび出てくるアヒルも人形で、1人の人形遣いが動かしているが、滑稽な動きで笑わせる。

文楽でも、「本朝廿四孝」の「奥庭狐火の段」などでキツネが登場する場面があり、桐竹勘十郎が遣うキツネがちょこまかと動き回って楽しませてくれるが、これなんかも参考にして「戦火の馬」のアヒルが誕生したのではないか。

 

日本の歌舞伎も文楽を参考にし、文楽作品を歌舞伎にしたりしているが、まさか馬を3人遣いでやろうとまでは思わなかったようで、「戦火の馬」は、歌舞伎が(あるいは日本のほかの演劇が)文楽から学ぶべきことを先にやってしまった感じがした。

 

「戦火の馬」はスクリーンで観てもおもしろかったが、ぜひとも本物の舞台を観たい!と思ったのだった。