善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「オリーブの林をぬけて」他

チリの赤ワイン「モンテス・クラシック・シリーズ・マルべック(MONTES CLASSIC SERIES MALBEC)2019」f:id:macchi105:20211022073847j:plain

チリを代表するワインメーカー、モンテス社のワイン。

左手にワイングラスをかかげ、右手にブドウを持つ天使のラベルで知られる。

マルベック100%のエレガントな味わい。

 

ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していたイラン映画オリーブの林をぬけて」。

1994年の作品。

原題「ZIR-E DERAKHTAN-E ZEYTOON」

監督・製作・脚本・編集アッバス・キアロスタミ、出演ホセイン・レザイ、タヘレ・ラダニアン、モハマッド=アリ・ケシャヴァーズ、ザリヘ・シヴァほか。

アッバス・キアロスタミ監督の「友だちのうちはどこ?」に始まる「ジグザグ道三部作」の完結編で、映画の撮影中、出演していた青年が相手役の女性に愛を告白するラブストーリー。

今回の映画は、前作の「そして人生はつづく」の撮影中の出来事をもとにつくられたという。三部作はいずれも撮影した場所の近辺に住む地元の人たちが“素人俳優”として出演しているが、前作では大地震の翌日に結婚した若い夫婦が登場している。しかし、キアロスタミ監督があとでよく聞いてみると、新婚の夫役を演じたホセイン・レザイは、妻役のタヘレ・ラダニアンに以前プロポーズして断られていたという。そこでキアロスタミ監督が、このエピソードをもとにつくったのが本作。

映画のような実際の物語のような映画。

 

テヘランから350キロほど北の村で、映画監督(モハマッド・アリ・ケシャヴァーズ)は「そして人生はつづく」の新郎新婦のシーンを撮影するため、新婦役のオーディションに集まったたくさんの娘たちに話しかけている。その中の美しい娘がタヘレと名乗り、役を彼女に決定する。助監督のシヴァ(ザリフェ・シヴァ)はタヘレ(タヘレ・ラダニアン)を迎えに彼女の家に行くと、注文した田舎服ではなく、しゃれた服を着ているので着替えさせて出かける。

撮影現場では、新郎役の青年が女性に緊張してしまって話せないため、代わりに撮影キャンプにいた雑用係のホセイン(ホセイン・レザイ)を抜擢。いよいよ撮影を始めるが、演技がうまくいかず何度も撮り直しとなる。

監督やスタッフたちが撮り直しの準備していると、その度ごとに、みんなには見えない場所でホセインはタヘレに愛を訴えて求婚するのだが、彼女は黙ったまま何も答えない。

 

実は撮影に入る前、すでに彼はタヘレに求婚していたが、祖母(両親は亡くなっていたため祖母が親代わり)から、「字が読めない、家もないあんたなんかに孫はやれないよ」と冷たくことわられていたのだった。

撮影の現場に向かう車の中で、ホセインは映画監督にこう訴えていた。

「何で字が読めない男、家もない男ではダメなんですか? 結婚して子どもができたとき、もし、ぼくも妻も字が読めなかったら、子どもの宿題をだれがみてやるんですか。ぼくは字が読めないから、教育のある妻がいいんです」

真剣に語るホセインに監督はこう聞く。

「字が読めないと断られて、君はとても腹を立てているね。いったい何に腹を立てているのかね?」

ホセインは答える。

「地主同士とか、金持ち同士は結婚してるけど、字の読めない同士の結婚はダメです。字の読める者が読めない者と、金持ちが貧乏人と、家のない者はある者と、結婚して助け合えば、世の中はきっとよくなります」

 

その一念で、撮影現場での休憩のスキをねらって必死の思いで求婚するホセインなのだが、タヘレはノーというわけでもなく、ただうつむいて、何も答えない。

そして映画の最後、撮影を終えたタヘレが家へ歩いて帰っていく。そのあとをホセインが追う。

オリーブの林を抜けて、草原の中のジグザグ道を行くタヘレ、追うホセイン。

2人の姿が遠景でとらえられていて、真っ白い米粒ほどの大きさでしかないから、表情なんかはまるっきりわからない。

やがてホセインはタヘレに追いつき、2人は立ち止まって向かい合う。

向かい合ったのはほんの数秒で、タヘレはまた家に向かって歩き出す。

ホセインは元の方向に戻ってくるのだが、駆け足だ。しかもジグザグ道をクネクネ走るのではなく、草原の中を一直線に、ときどき転んだりしながら走ってくる。

笑ってるのかそれとも泣いてるのか、まるでわからないがとにかく走ってくる。

ホセインの姿がオリーブの林の中に消えたところで映画は終わる。

 

何て美しいラストシーン!

彼女はきっと「イエス」と答えたに違いない。

 

ついでにその前に観た映画。

民放のBSで放送していたアメリカ・フランス・ルーマニア・スペイン合作の映画「ゴールデンリバー」。

2018年の作品。

原題は「THE SISTERS BROTHERS」

監督ジャック・オーディアール、出演ジョン・C・ライリーホアキン・フェニックスジェイク・ギレンホールリズ・アーメッドほか。

 

映画を見始めたら原題は「THE SISTERS BROTHERS」、しかも西部劇とわかって、ハタと思い出した。

何年か前に読んだ小説がパトリック・デウィットの「シスターズ・ブラザーズ」(茂木健訳、東京創元社)という西部劇ふうミステリーで、その映画化作品だった。

小説の方はおもしろくて一気読みした記憶がある(何しろ拙ブログでも紹介している)。話の筋は忘れてしまったが、映画とは内容がだいぶ違ってた気がするが・・・。

 

ゴールドラッシュに沸く1851年。殺し屋のイーライ(ジョン・C・ライリー)とチャーリー(ホアキン・フェニックス)は兄弟で、姓がシスターズなのでシスターズ・ブラザーズ。映画では兄のイーライは心優しく普通の暮らしを望み、弟のチャーリーは粗暴な野心家となっているが、雇い主の“提督”からウォームという男(リズ・アーメッド)を“始末”するように命ぜられ、旅に出る。

実はウォームは金を見分ける薬をつくることに成功した化学者で、“提督”はこの薬を自分のものにしようとねらっていたのだった。

やがてシスターズ兄弟は、自分たちの仲間のモリス(ジェイク・ギレンホール)とウォームが一緒にいるところに合流。ところが、ともに黄金に魅せられた4人の男たちは成り行きから一緒に行動することになり、そのうちに妙な友情も生まれて、ついに大量の金を見つけることに成功するが・・・。

 

殺し、殺されるようとする西部劇だが、最後は何ともあったかいハッピーエンドで終わる。このあたりは原作と似ている気がする。

見た目はごつくて怖そうな感じながら実は心優しい兄は、長い間、音信を断っていたわが家に帰って、母に迎えられる。するとカメラはノーカットでパンしていきながら、ベッドの上で安らぐ兄、お風呂につかりながら幸せそうな兄、やはり家に帰ってほっとした表情の弟を映していってエンドとなる。

結局、一文なしになったが、命だけは助かった兄弟。このあたりの幸せそうな兄弟のシーンは、溝口健二の「雨月物語」(1953年)のラスト近くにとてもよく似ていた。

雨月物語」では、戦国の世、貧しい陶工が自分がつくった陶器で一儲けし、美しい女性と知り合う。妻子を捨ててその女性と生活を共にするのだが、やがてその正体は死霊だったと気づき、故郷に逃げ帰る。

一文なしになり、命からがら荒れ果てた家の中に入ると、中は少しも荒れ果ててはなく、暖かい囲炉裏の火があり、やさしく迎える妻の姿があり、男は幸せに包まれるのだった。

しかし、家の中をながめるうち、やがて男はその光景が幻であり、妻も子もすでにこの世にいないことを悟る。

 

わが家に帰って安堵のため息をついた殺し屋のブラザーズ兄弟にとって、それは幻影ではなく、果たして本物の幸せだったのだろうか。