きのう10月30日は東京・池袋にある東京芸術劇場コンサートホールへ。
モーツァルトの歌劇「フィガロの結婚~庭師は見た!~」の再演を観る。
前から3列目、舞台中央付近のSS席。中央付近の前の2列はコロナ対策のためか、あるいはキャンセルか、空席だったので最前列で観る気分。
会場は少なくとも1階は満員で、男女半々ぐらいか。クラシック好きのおじさまが多い気がした。
「庭師は見た!」の副題にもある通り、普通の「フィガロの結婚」ではなく、かなり荒唐無稽のオペラ。
もちろんオーケストラの曲も歌われるアリアや合唱も間違いなくモーツァルトの「フィガロの結婚」で原曲どおりなんだが、時代設定や演出が度肝を抜く感じで、「時は黒船の世、ところは長崎、港が見える丘。そこに伯爵と伯爵夫人を乗せた黒船がやってまいります」というところからオペラが始まる。
登場人物のうち、アルマヴィーヴァ伯爵と伯爵夫人、伯爵の小姓のケルビーノは元のオペラどおりながら、それ以外は日本人という設定で、スザンナはスザ女、フィガロはフィガ郎、マルチェリーナはマルチェ里奈、バジリオは走り男、アントニオは庭師アントニ男、という具合で物語が進行していく。
ということは、まさしく井上&野田版「フィガロの結婚」。
管弦楽は主にオーケストラ・ピットに入って演奏するのを目的に編成されたという「ザ・オペラ・バンド。出演は、ヴィタリ・ユシュマノフ、ドルニオク綾乃、大山大輔、小林沙羅、村松稔之、廣川三憲ほか。
初演は5年前のことで、「好評につき」というので今年、再演が決まって、当初はアルマヴィーヴァ伯爵と伯爵夫人、それにケルビーノは海外で活躍中の外国人歌手を予定していたが、新型コロナウイルスの影響で来日がキャンセルされ、キャストの交代を余儀なくされた。
それでも、野田演出ということで演劇的要素が強まり、今までのオペラとはまるで違うおもしろさを堪能できた。
幕末の長崎での物語というわけで、日本語と原曲どおりのイタリア語が飛び交う舞台。
日本人同士のやりとりは日本語でやり、アリアも日本語。一方、伯爵夫妻がからむ場面ではイタリア語で歌う。日本語の字幕が出るのでわかりやすい。
ただし、アリアはやっぱり日本語よりイタリア語の方が美しいと思ったが・・・。
ドタバタ調の演出はいかにも野田らしく、文楽みたいな人形ぶりで役者が動いたかと思えば、歌舞伎のようにミエを決めたり、剣を突き刺すマジックに皿回しの大道芸と、とにかく楽しく、爆笑シーンもたびたび。
途中、オケ・ピットで指揮棒を振ってる井上がくるっと客席に振り向いて「きょうは東京芸術劇場の30周年だ!」とセリフを叫ぶシーンまであった。
こんな楽しいオペラって、いいねー。
そもそも「フィガロの結婚」というオペラは、いろんな話が出てきてこんがらかるものの、要は使用人の娘が結婚式をあげるというその日に、何とがその前に自分のものにしてしまおうと雇い主である伯爵がいい寄るという内容。最後は伯爵夫人にバレてお小言をもらって、それで丸くおさまる話だけに、多少ハチャメチャになったって問題はない。
ただし、今回のオペラでは、幕切れですべて水に流して大団円になるはずが、予想外(現代人なら当然なのだが)の結末が待っていて、ちょっぴり風刺を利かせていた。
午後6時半開演で終わったのが10時すぎ。
帰り道、満月が漆黒の高い空にあり、きのうは十三夜だった。