善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

交尾についての覚え書き

今年は毎朝、善福寺公園を1周する散歩中にやけにたくさんの鳥や昆虫の交尾を見た。

気になったことをまとめてみた。

 

まずは春先にハシビロガモカルガモの交尾。

写真はハシビロガモの交尾。f:id:macchi105:20200913162316j:plain

こちらはいずれも水上で行われていた。オスが上に乗っかって、メスはほとんど水面下に没している感じだった。

ハシビロガモカルガモも体の浮力が大きく潜水できない非潜水型のカモ。だからオスの重みで水中にブクブクッということはない。

 

かなりボケてるがカワセミの交尾。f:id:macchi105:20200913161903j:plain

アオサギの交尾。f:id:macchi105:20200913162421j:plain

カワセミアオサギも含めて、ほとんどの鳥類、爬虫類、両生類、軟骨魚(サメ、エイなど)、およびごく一部の哺乳類(ビーバーなど)では、生殖器のことを正確には「総排泄腔」という。総排泄腔とは直腸(つまり肛門)・排尿口・生殖口を兼ねる器官という意味で、早い話が肛門とおしっこをするところと子どもを産むところが一緒の場所に開口している。

なぜ一緒なのか。便、尿、子どもを産む、精子を受け渡す、これらに共通しているのはいずれも「排出」ということだ。体の前後がはっきりした動物の場合、生きるために必要なセンサーは頭にあり、その近くに栄養を取り込む口がある。栄養分は消化・吸収されていらないものは後ろに排泄される。子どもを産むという行為も、排出・排泄する行為の1つと捉えられたのだろう。

 

哺乳類では排泄口と生殖口とが分離していったが、発生学的には、総排泄腔につらなる直腸・排尿口・生殖口のうち前二者が重要で、生殖はおまけだという。

なぜかといえば、生存のためには排泄口が何より重要で、生殖は無性生殖でだって可能。オスとメスの出会いによる有性生殖になって、生殖ルートが必要になったとき、新たな器官を形成するコストやリスクを考えて、一部既存の排泄ルートに必要な部分を共有しようとしたのではないか。

つまり、体外に出る必要のある生殖細胞の通り道として転用されたのが排泄ルートだった。

だからもともとヒトも総排泄腔だったと考えられ、実際、今でも、胎児のときの4~9週の間は総排泄腔を持っていて、成長するに連れてそれぞれの出口が分離していく。

ただし、女性の生殖口は排泄口から独立するが、男性は相変わらず排出する機能のための排尿口と生殖口はつながったままになっている。

なぜかというと、生殖口が「おまけ」でつくられたように、子どもを産むことなく遺伝子を運ぶだけの役割しか持たないオスは、あくまでメスの「ついで」につくられたからだろうか。

 

テントウムシの交尾。f:id:macchi105:20200913161754j:plain

テントウムシのオスはメスの生殖口に交尾器を挿入すると、体を左右に動かしながら、まるでサンバを踊るようにして精子を受け渡す。

この“腰振りダンス”はボディーシェイキングという交尾に不可欠の行動で、この行動を意図的に止めたところ卵が孵化しなかったという実験結果もある。

この行動をサンバにたとえたのがチェリッシュの「てんとう虫のサンバ」。だからこの歌は結婚式でよく歌われるという(今はわからないが)。

 

ツマキシャチホコの交尾。f:id:macchi105:20200913161929j:plain

オスもメスも木片に擬態しているので、交尾していると1本の木片にしか見えない。

ムシヒキアブの交尾。f:id:macchi105:20200913162600j:plain

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キバラヘリカメムシの交尾。f:id:macchi105:20200913162632j:plain

メスの上に乗ったままのアメンボのオス。f:id:macchi105:20200913162047j:plain

メスよりひと回り小型のアメンボのオスは、パートナーのメスを見つけると背中におんぶして相手を確保する。オスは変形した触角を持っており、メスの体に引っ掛けるようにして固定してしまう。

一方のメスもオスを拒むように様々な工夫をこらす。生殖器をガードする貞操帯のようなシャッターで身を守る。意に添わぬ交尾はゴメンというわけだ。

これに対してオスは脚で水面を激しく叩いて水生のカメムシであるマツモムシなどの肉食昆虫を呼び寄せる。マツモムシは背泳ぎで寄ってきて、水面下から獲物をねらう。これじゃ下にいる私は食べられちゃうわ、というわけで、オスの水面叩きをやめさせるためにいやいやシャッターを開いてオスを受け入れる。なんて卑劣なオス。

 

昆虫の中には飛翔しながら空中で交尾する種類がある。トンボやチョウなどがそうだ。

交尾しながら飛翔する場合、どちらもが好き勝手に飛ぶわけにはいかないので、オスが飛んでそれに引っ張られてメスが追随するか、あるいはその逆であるかは、種ごとにだいたい決まっているといわれていて、これを「交尾飛翔形式」と呼んでいる。

トンボは、オスが飛んでメスを追随させる。

一方、チョウはメスが引っ張るのことが多いといわれていて、特にアゲハの場合は例外なくメスが引っ張っている、との観察報告がある。

 

シオカラトンボの交尾。f:id:macchi105:20200913162119j:plain

トンボの場合、オスもメスも生殖器は腹部末端、つまり尾っぽにある。

しかし、交尾しようというとき、オスはあらかじめ体を曲げて、尾っぽにある精巣から胸にある副性器に精子を移しておく。交尾のときは尾っぽでメスの頭をしっかりとつかみ、メスは体を折り曲げて自分の尾っぽにある生殖器をオスの胸にある副性器にくっつけ、精子を受け取る。

なんでこんなややこしいやり方をするのか。オスが主導権をとって飛びながら交尾するときはこうしたほうが合理的なのだろう。

 

ナガサキアゲハの交尾。f:id:macchi105:20200913162139j:plain

アゲハの交尾はメスが上になるのが普通。

オスの尻尾には把握器(バルバ)と呼ばれる器官があって、先端が左右に開く構造になっている。これで尻尾を左右から挟んで固定するため、一度交尾を始めたらメスが逃げようとしたって離れない。

それでメスはオスを引きずるようにして、つながったまま飛んでいく。

しかも、アゲハの交尾時間は長い。ナミアゲハの観察記録によると、1時間30分も交尾し続けたという。

 

ちなみに交尾の際の体位については、進化的にはメスが上位となるポジションが祖先的な交尾姿勢とされているそうだ。その後、天敵との関係もあって、それぞれの種にとって都合のいい交尾姿勢へと分かれていったのだろうか。