善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

平成中村座 11月大歌舞伎

善福寺公園にはこのところよく行っているのだが、散歩はあまりしない。散歩しないで、ただいる。日曜日は朝の8時から夕方4時まで公園に滞在。まるで公園で暮らしている感じ。

そのワケは、3日から公園で「トロールの森」というアート展が開かれていて、私が参加しているミニFM放送局「ラジオぱちぱち」も、「黄金バット」という素人芝居を演じているため。今度の日曜日にも公演を予定している。

月曜日のきのうは浅草の平成中村座へ。3年前に行ったときは浅草寺の境内だったが、ことしは隅田川河畔の隅田公園に仮設劇場が建てられ、来年5月までのロングランという。
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去年の暮れから病気療養していた中村勘三郎片岡仁左衛門の共演というので出かけていく。そういえば3年前の平成中村座勘三郎仁左衛門の『忠臣蔵』だった。
演目は、夜の部の『猿若江戸の初櫓』『伊賀越道中双六 沼津』『弁天娘女男白浪』。2人が出るのは『沼津』だ。

地下鉄浅草駅から歩いて10分ほど。川向こうのスカイツリーが至近距離にある。ところが突然の激しい雨。雨に追い立てられるようにして会場に到着。

3年前はテントっぽい建物だったが、今回は木造建築の、けっこうしっかりした造りになっている。
中は広々としているようで左右に20人弱しか座れないから、やはりこじんまりしている。5~600人も入ればいっぱいの感じで、歌舞伎座の3分の1ぐらいの広さだろう。そのかわり、役者との距離がグンと縮まる。

座った席は平場だったが、コクーン歌舞伎の平場の席は座布団が1枚あるだけだが、今回は背もたれ付きで、左右の間隔もゆったりとられているので、お大尽気分?で観劇できる。

『沼津』は『伊賀越道中双六』の6段目。剣豪・荒木又右衛門が助太刀して、渡辺数馬が伊賀・上野の鍵屋の辻で弟の敵・河合又五郎を討つ仇討ちの話。しかし、芝居には荒木又右衛門も渡辺数馬も、仇討ちの当事者は1人も出てこない。いわば外伝っぽい話だが、これが泣かせる。

もともと近松半二、近松加作が天明三年(1783)に合作した全10段の浄瑠璃で、以前、国立劇場文楽公演で『沼津の段』を見ているが、歌舞伎は初めて。文楽のときは皇太子夫妻もちょうど見に来ていて、住大夫、玉男、簑助の豪華出演者による感動的な舞台だったが、今回はどうか。

あらすじはというと、東海道を旅する呉服屋十兵衛(仁左衛門)は、荷物を持たせた雲助平作(勘三郎)が怪我をしたのを手持ちの塗り薬で治す。そして平作の娘のお米(孝太郎)に一目惚れした十兵衛は、平作の家に立ち寄ることにする。

やがて十兵衛はお米を嫁にと望むが、お米には夫があり、断られてしまう。目論見のはずれた十兵衛だったが、平作の家に泊まることとし、横になる。ところが、お米が十兵衛の持つ塗り薬を盗もうとする。実はお米の夫(仇を追う渡辺数馬、芝居では志津馬)は刀傷がもとで、病に臥しているのだった。この事情を知った十兵衛はお米を許し、さらに平作の身の上を尋ねるうちに、平作が幼いころわかれた実の父親であることを知る。十兵衛はそれとなく金を渡し、印籠に入った塗り薬を置いて旅立って行くが、十兵衛の置いていった印籠から、お米は十兵衛が夫の仇の所在を知る人物であると知り、平作がその後を追い、お米もこれに続く。

沼津の千本松原で十兵衛に追いついた平作。仇の所在を聞くが、仇は十兵衛にとっては恩義のある人なので、もちろん教えられない。

そこで平作は十兵衛の提灯を叩き落して火を消し、あたりは真っ暗闇。(舞台は照明がついていて明るいのだが、観客もその気分)。平作は暗闇にまぎれて十兵衛の脇差を抜き、自分の腹に突き立てる。

「自分とあんたは敵同士だが、死んでいくものにこそっと言うだけなら不義理にはならないだろうから、どうか教えてくれ」と頼む平作。つまり平作は死を賭して仇の居場所を聞こうとするのだが、もちろん草むらの陰にお米が潜んでいるのを知っている。

十兵衛も、お米が潜んでいるのがわかっていながら、お米にも聞こえるように大きな声で仇の居場所を言って聞かせる。
「落ち行く先は、九州相良・・・」
最後に、「親父さん!」と十兵衛はようやく再会した父の名を呼び、ひしと抱き締める。

仁左衛門の、ちょっと軽くて色気があって、しかし風格ある大人の雰囲気がすばらしい。
そして勘三郎は、哀愁漂いながら、どこか笑える好々爺を熱演。

仁左衛門勘三郎茶店で出会って、雲助の勘三郎が荷物を運ぶシーンで、上手の仮花道から客席を通って本花道から本舞台に戻っていくが、このシーン、江戸時代からある演出という。
当時、地方巡業していた三代目中村仲蔵(当時は鶴蔵)が平作を演じ、客に饅頭を勧められてアドリブで饅頭を食べながら演技をしたら非常に受けたものの、翌日から毎日あちこちから食べ物をもらって困ったという逸話が残っているとか。
昔の人もイキな演出をすでにやっていたんだな。

芝居がはねたあとは、どこか浅草でイッパイと探すうち、適当に入ったのが「老上海」という中華の店。蒸しエビ餃子、小籠包、イカとセロリ、鶏肉とカシューナッツなどをつまみ、〆は野菜タンメンで満足。
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[観劇データ]
平成中村座 11月大歌舞伎
11月14日(月)夜の部
1階7列8番