善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

ミレニアム3


「ミレニアム」三部作の完結編。あらすじはというと──。
小柄な体型と全身にタトゥーとピアスを施した外見に愛想のない態度だが、ずば抜けて明晰な頭脳と映像記憶能力、天才的なハッカーとしての才能を駆使して、様々な謎や疑惑を暴いてきたリスベット・サランデルはついに宿敵ザラチェンコ(元ソ連のスパイで、実は自分の父親)と対決し、相手に重傷を負わせたものの、自らも傷つき、瀕死の状態に陥ってしまう。

現場に駆けつけた社会派雑誌『ミレニアム』の発行人ミカエル・ブルムクヴィストの手配で、リスベットとザラチェンコは病院に送られ、一命を取りとめる。だが、彼女を拉致した金髪の巨人は逃走してしまう。

この事件は、公安警察の特別分析班の元班長グルベリに衝撃を与えた。特別分析班は、政府でも知る人の少ない秘密の組織で、ソ連のスパイだったザラチェンコの亡命を極秘裡に受け入れ、彼を匿ってきた。今回の事件がきっかけでそれが明るみに出れば、特別分析班は糾弾されることになるからだ。グルベリは班のメンバーを集め、秘密を守るための計画を立案する。その中には、リスベットの口を封じる卑劣な方策も含まれていた……。

物語の前半、瀕死のケガを負ったリスベットは“眠れる女”となり、彼女を取り巻くジャーナリストのミカエルらが円卓の騎士団ならぬ“凶卓の騎士団”となって陰謀を暴いていき、やがて復活したリスベットがふたたび大活躍するという話。

おもしろくて一気に読んでしまったが、感動はなかった。むしろ結末に不満が残った。

物語の中心は公安警察の陰のグループとリスベット・ミカエルとの対決である。恐るべき国家犯罪を、被害者であるリスベットと社会正義に燃えたジャーナリストのミカエルが暴いていく話なのだが、結局は悪いのは公安警察の一部のグループであり、最後は国家権力自らがリスベットらに代わってこのグループを摘発することで話は終わる。
アメリカのスパイ映画かなんかによくあるパターン(国家が悪いのではなくて、悪いのは一部のはねっかえりという筋立て)、あるいは日本でいえば水戸黄門が御家転覆を図るワルの家老をやっつける話と少しも変わらない。

しかし、小説によれば、ソ連のスパイだった男の亡命を極秘裏に受け入れ、匿う決定は当時の首相の承認のもとに行われたのだから、明らかに国家の行為であった。その後の一部グループの暴走があったとしても、それは国家犯罪の延長線上にある。

「巨大な陰謀に立ち向かう」といいながら、結局は「小悪」を裁くのでしかなかった話の結末では、「コップの中の嵐」にすぎず、消化不良もいいところ。口直しの本が読みたくなった。

それでも、各部の冒頭に、歴史にあらわれる女性戦士、いわゆるアマゾネスについての記述があって(リスベットをはじめ“戦う女たち”という括りで本作のテーマともつながっているのだろう)、興味深かった。

中でもヘーッと思ったのは実在した女軍隊の話。
アマゾネス軍団についての伝説は古代ギリシャ、南米、アフリカなどに数多く残っているが、歴史的実在が立証されているのは1つしかなく、それは、西アフリカのダホメ王国(現在のベナン共和国)のフォン人が擁していた女軍隊だという。

フォン人の女軍隊は17世紀につくられ、男の軍隊より強くて近隣に恐れられ、1892年に近代装備のフランス軍に敗れるまでの約200年間にわたって、植民地化を進めようとする西欧の侵略者たちと戦い続けたという。

しかし、彼女らは果たして戦いたくて戦ったのか?