善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

ブルーバード、ブルーバード

アッティカ・ロック「ブルーバード、ブルーバード」(高山真由美訳・ハヤカワポケミス)を読む。

東テキサスの中心を南北に貫くハイウェイ59号沿いの田舎町で白人女性と黒人男性の死体が発見される。人種差別が根深く絡む事件に黒人のテキサス・レンジャーが捜査に乗り出すが・・・。

2017年に発表された本作は、翌18年、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞、英国推理作家協会賞スティール・ダガー賞、アンソニー賞最優秀長編賞受賞と、米英の主要なミステリー文学賞で三冠に輝く、というので読んだ本。

作者は1974年、テキサス州ヒューストンに生まれた黒人女性で2009年に小説デビュー。
文章もうまくて、作中のいたるところでブルースが流れていて、まるでアメリカ・テキサスの酒場の片隅でバーボンでも飲みながら本書を読んでいるような気分にさせてくれる。
「ブルーバード、ブルーバード」という題名も有名なブルースの曲からとったものという。
ただし、内容はかなり怖い話で、有色人種の一人としてはあんまりそんなところにはいたくない気持ちにもさせられるのだが・・・。

白人による黒人へのいわれなき差別、ただの差別ではなく偏見にもとづく憎悪が今も大手を振っているアメリカ社会(とくにアメリカ南部において)の現実が描かれている。
しかし、この作品のすばらしさはそうした現代アメリカの暗部をえぐる一方で、人間同士の絆や愛、愛するがゆえの憎しみの深さ、怖さといった、誰でもが抱える問題に迫っていることだ。

ワタシ的には、本書でチョコットだけ触れていたサム・クックの曲を聴きたくなった。
それは、登場人物の出会いと別れが複合的に語られる中での、以下の文章だった。

いつのまにか、バンドがサム・クックの歌を流していた。この一瞬をとどめたいと願う、スローテンポの曲だった。“もう行かなければと告げると、彼女はいうんだ。ええ、わかってる、だけどもう一分だけいて”。