善福寺公園めぐり

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15時17分、パリ行き

クリント・イーストウッド監督の最新作「15時17分、パリ行き」を観る。
新宿・歌舞伎町のTOHOシネマズ新宿で観たが、平日の午後にかかわらず完売していた。
しかし、席についていると、上映開始時刻になっても席は半分も埋まってない。場内が暗くなり、劇場のお知らせ、予告編と続いていくうちにだんだんと席が埋まっていく。
客席は多くが若い人たち。映画って、早めに席についてワクワクしながら開始を待ったものと思っていたが、今どきの若い人たちは始まってからでいいや、と思っているんだろうな。

それはともかく、「アメリカン・スナイパー」とか「ハドソン川の奇跡」とか、このところ実録物づいているクリント・イーストウッド監督が、2015年にアムステルダム発パリ行の高速列車タリスで起こった無差別テロ「タリス銃乱射事件」を取り上げている。

しかも出演しているのは現場に居合わせて犯人を取り押さえたホンモノの3人の若者(うち2人はアメリカ軍兵士で、休暇を利用してのヨーロッパ旅行中だった)。
事件に至るまでの彼らの子どものころからの歩みを、プロの俳優ではなく本人たちに演じさせている。(もちろん子どものころは違うが)

映画の最後にエリゼ宮での勲章授与のシーンがあり、ホンモノのオランド大統領があらわれる。
フランス政府からレジオン・ドヌール勲章が授与された3人も、もちろんホンモノ。
実はこの場面はCNNかなにかのニュース映像からとったみたいだ。
ただし、授賞式に参列した3人の親やオランド大統領の後ろ姿が映ったあたりは別撮りだろうが。

それまでフィクションとしての映画を見ていて、それがいきなりファクトの世界と融合すると、何ともいえない不思議な感覚にとらわれた。夢と現実がゴッチャになった世界といえようか。

ウィキペベデアにエリゼ宮での大統領と3人の若者たちの記念写真が出ていたが、笑顔の3人は、今まで演技していた役者であり、同時に現実に事件に遭遇した当事者である。

映画を見るまでは、「やっぱりアメリカはすばらしい」とアメリカ兵士を賛美する英雄譚だったらつまんないな、という危惧があったが、さすがクリント・イーストウォド監督だった。
主役の3人ばどこにでもいる普通の青年であり、子どものころはいじめにあったり、夢を追うけれども実現には遠かったり、屈折した日々を送ったりしている。
そんな普通の青年が、危機に瀕したときは一致団結、やるときゃやるよ、という映画だった。
そんな映画を見れば、ごくごく一般的なわれわれも少し人生に自信が持てる。

ヨーロッパを旅している3人が、ドイツのベルリンでガイドの案内で市内観光をしているとき、ヒトラーが自殺した場所に来て「ソ連軍に包囲されて自決の道を選んだ」と説明を受けると、3人のうちの1人が「ヒトラーアメリカ軍に追い詰められて自殺したはずだ」というようなことをいう。すると若いドイツ人のガイドは目を剥いて反論し、「それは間違いだ。いつもアメリカが正しいとは限らないんだよ」と諭す。
このあたり、クリント・イーストウッドらしいなと思った。

3人のうちの1人が胸にTマークが入ったサッカーのユニフォームを来ていたが、あれはベルリンあたりで買ったバイエルン・ミュンヘンのユニホームだろう。背番号は11だった。
このあたりもリアルに徹するイーストウッド監督らしい。